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異世界美将女群雄伝  作者: 不知火読人
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オワリカンタイ

 統一歴 二千二百九年 文月九日 駿河 駿府館


「誰かある!?」

 公家風の高貴な身なりで着飾り、白銀の長髪をたなびかせた十代後半のように見える美女が家臣を呼びつける。


 その様は人を支配し命令を下すことが日常であるかのようにごく自然な所作であった。


「はっ!ここに」

 家臣の一人と思しき者が部屋の外で畏まって指示を待つ。


「雪斎婆やを呼べ! 出来るだけ急いでだ」

 そう命じると送り届けられた書状にもう一度目を通し、怒りに身を震わせるのであった。


 しばらくして黒衣の尼僧――今川氏親が三顧の礼を持って迎えたという、戦国きっての名軍師太原雪斎――が義元の元を訪れる。


「義元殿、如何なされましたかな?」

 怜悧さをたたえた美貌の、三十代にも見える軍師が主である今川義元に用向きを問う。


「婆や殿、尾張のうつけが大和守家も伊勢守家も滅ぼして尾張を飲み込みおった……このまま放置してはまずいぞ……」

 義元がその美貌を歪め雪斎に焦りを訴える。


「まさか、この短期間にでございますか?」

 雪斎は驚愕し問い返す。


「そうだ、我らが山口親子を駿河に呼びつけ詰問し、口を割らぬもののうつけを裏切ったかのように見せて我が臣を謀殺する予定だった証拠はいくつも出ておった。故にあの親子には腹を切らせ、うつけの策は実が成らぬようにしたつもりであったが、その本命は尾張統一だったようだな……」

 苦虫を噛み潰したかのような表情で義元が呟く。


「鳴海城一帯の城主を入れ替えておらねば、尾張に楔を打ち込むことすら叶わなんだ……」

 不幸中の幸いとばかりに義元がこぼす。


「ならば三河、知多の海賊衆を用いて弾正忠家の心臓である津島の貿易海路を封鎖し程よく弱ったあと、当方の刈り入れが終わった長月に大軍をもって尾張侵攻を成し、信長の首を取れればよし、取れなくとも三河の兵を先兵とし徐々に圧力を増していけば尾張も我が今川家の統治下となるでしょう」

 雪斎がよどみなくそう提案する。


「それがましな策であろうな。すぐにでも挙兵したいところではあるが、安祥合戦でいささか兵を損耗しすぎた。あの者らは次にも出て来るであろうから、万の軍勢でもってあたらねばこちらが痛い目を見かねん」

 義元は当時受けた衝撃を思い出し、慎重策を承認する。


 落城寸前であった安祥城に突如現れた織田方の援軍。

 ヒヒイロカネを持ち圧倒的な武威で、今川・松平の精兵を鎧袖一触とばかりに粉砕し、生け捕られる寸前であった織田信広を救出し撤退戦でほぼ被害を出さず今川方に手酷いしっぺ返しまで加えた見慣れぬ旗印の将。


 弾正忠家に新たに仕官したものであれば警戒に値する。


 長島の服部友貞からも自らを学園と称する強力な土豪が尾張下四郡に睨みを利かせているせいで、満足に動けないという報告があった。


 安祥合戦で信広を救ったのもその連中であろうと。


 それ故尾張侵攻の際には密なる連絡を頂ければ学園を引き付けやすくなるとも上奏してきた。


 長島に学園を引き付けさせ後背から学園を襲い殲滅する。


 その前に尾張を海上封鎖し、干上がらせねばならん。


 そう結論に至った義元は

「御婆、三河に向かい海賊衆を使い尾張海上封鎖の指揮を頼む」

 最も信頼する師でもあった部下にそう命じた。


「承知仕りました」

 雪斎は平伏して拝命すると、義元が席を立つのを待ち顔を上げ

「なんとしても尾張の勢いは止めねばならぬ。この愚僧の命に代えても」

 そう呟くのだった。



 統一歴 二千二百九年 葉月十三日 転移 百四十五日目 尾張 伊勢湾東部海上



「ゆ!優一どのぉおお~!! 少しもう少しゆっくり進めて下されぬかっ!?」

 舷側にしがみつき、涙交じりの悲鳴を上げてそうお願いするのは末森城主織田勘十郎信勝である。


「ははっはっはは~、この程度で音を上げていては海戦など夢のまた夢ですぞ勘十郎殿!」

 大声で笑いながら優一がそう返す。


 彼らが今乗船しているのは

『魔石動力式推進機関搭載型巡洋艦』

 その一番艦である浅間の甲板である。


 武蔵総合学園に保護された近衛家と四条家の者達は言継より元の世界から一緒に転移した推進機関の原理を参考に、魔石で動く推進機関を短時間の内に試作していた。


 元の世界から一緒に転移してきた練習船を一隻使って試作品に乗せ換えた所出力があまりにも高く、練習船程度に使うにはもったいないということで未だ安値で流通している鉄鉱石を大量に買い付け全長100m、全幅20mの巡洋艦を作り上げることに成功した。


 近衛家は流石に高位の公家だけあって秘匿されていた技術を数多く所有しており、公方に異を唱えて以来辛酸をなめ続けてきた彼らは、武蔵総合学園での快適な生活の礼として惜しみなく技術を供与してくれた。


 その結果がこの世界で一般的に存在していた関船などの帆船を一足も二足も飛び超えてしまった近代的な艦船の誕生である。


 どうも魔石動力式推進機関にもこの艦体にも荒武者に使われている技術が流用されているらしい。

 材質の問題で戦えば抵抗するまでもなく負けてしまうらしいが……


 付け加えるならば魔石動力式推進機関はエネルギー効率が元の世界の推進機関とは比較にならないほど飛び抜けて良いので、学園が優一主導で創設しようとしていた海軍は船だけならこの世界でも元の世界でも比較にならないほど機動力は優れている。


 浅間の艦長は優一であるがこの規模の艦船を動かすにはクルーの数も機関士の数も砲撃手の数も何もかもが足りなかった為、信長の許可を貰い佐治水軍など近隣の海賊衆を併呑してクルーとして鍛えている。


 今の所定員を満たしているのは浅間だけなのだが、学園近くの造船ドックでは二番艦や三番艦の準備は既にできている。


 そのオーパーツとしか言えない巡洋艦で何をしているのか? といえば、

「艦長! いましたぜ、今川赤鳥の旗印を掲げた船団が十一時の方向に!」

 司令塔は作れなかったが見張り塔に視力のいい者と、目端の利く者を配置し今川による海上封鎖を逆手に取り、彼らの海軍力を殲滅する方針から始め、三河と遠江の海上をこちらの艦船で実効支配する事にしたのだ。


 海上封鎖をされ出した頃苦々しげな表情だった信長達も、どんどん敵船を殲滅し海路を確保する優一達の活躍に頬を綻ばせ、生徒会女子役員達に優一と信勝の婚姻を提案しているらしい。

 勘十郎がここにいるのは優一の歓心を買うためでもあるが、統合吸収された海賊衆のまとめ役という意味合いもある。


 だが彼女はこの無茶苦茶な推力で動く船にあまり慣れておらず、このように振り回されては後から優一に恨み言をぶつける日々が続いていたが、周りの船員から見ると恋人同士がいちゃついているようにしか見えなかった。


 そして、この日見つけた船団は今川家所属のもの。


 海上封鎖を始めからしばらくすると送り出した船団が戻ってこない日が続くばかりか尾張の経済が息を吹き返しだした。


 何が起こっているのか調べようにも戻ってくるものはいない。


 雪斎は尾張の海賊衆を使って信長が対抗し始めたのだろうと思ってはいたが、それにしても一隻どころか送り出した船の乗員一人すら戻ってこないのは異常である。

 状況が分からないことに焦りを覚えた雪斎はついに自ら動くことを決意し大船団で出航した。


 優一は全く情報が伝わらぬよう敵船団をこれまで念入りに壊滅し、生き残った者は捕虜として捕えてきた。

 相手にとっては何が起こっているのかすらわからない状況だろうと推測する。


 そして今川赤鳥を見て大物が自ら様子を見に来たことを悟る。


「射程に入り次第砲撃開始! 敵船団撃滅後生き残った者を回収し捕虜とする! 総員戦闘配置につけ!」

 優一がそう命じると、海洋技術科の生徒や元海賊衆がキビキビと役割をこなすべく配置につく。


 そしてこの日砲撃が終わった後、船の残骸にしがみついて辛うじて生き延びた太原雪斎を捕えた優一は、今川と尾張の争いが佳境に入るであろうことを予感するのであった。



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