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異世界美将女群雄伝  作者: 不知火読人
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テンジョウモノ

 統一歴 二千二百九年 弥生 二十七日 転移九日目 晴天 武蔵総合学園



 平手五郎左衛門政秀に率いられた一団は信長()が帰ってから三日後に豪華な作りの浮き車を先頭に物資や教導要員を乗せた車両を数台引き連れてやってきた。

 仕えている信長が型破り過ぎるのだろうが、本来はこのくらいの高級車両で来るものなのか?

 例えていうなら信長は後ろに荷車を結びつけたスーパーカブでやってきたのに対し政秀はBMWに乗ってきたような感じではあるが客として訪れたことを知らせるにはこの方が分かり易い。


 信長の場合は敵意を示さない箏と手土産を持ってくるという理由があったから仕方ない面はあるのだろうが。


 農業科正門前に生徒会役員が揃って出迎えたのだが、その際何故高級車両に乗ってきたか理由が分かった、平手政秀の他に貴人が教導役として乗っていたのだ。


 その貴人の名は山科言継。淡い色の蒼い髪を腰まで伸ばした二十代前半に見える嫋やかなる女性であり、正二位權大納言の官位を持つお公家様である。


 意外な人物の来訪に驚いた生徒会役員達であったが、信長に都から逃げ延びた貴族達によって朝廷が秘匿していた技術がいくつも伝えられ、それにより勢力関係に変化が出始めていることを伝えられていたのを思い出すと、教導役としてこれ以上の人材は望めないと思い、盛大にもてなしたのであった。


 御年五十七歳という熟女というより老女に入るはずであろうはずの銀色強めのプラチナブロンドの長髪が美しい政秀はどう見ても二十代後半、行ってて三十くらいにしか見えず、成熟した女の色気を漂わせているのだが生徒会による歓迎に言継と共に感激し、信長より穂村に託すよう言いつけられた鶴丸国永を渡すと早々に酔い潰れてしまった。


 異世界転移したことで元の世界の法律に従う理由もないので見張りや警備役以外の生徒達も酒を飲んではいるのだが、どうにもアルコール度数が低いようで酔い潰れる程のものは出ていない。


 信長の手土産を含めて考えるに、もしかしたら元の世界の知識の方が進んでる分野があるのかもしれないと穂村は思い生徒会にその考えを報告する。

 それらの技術をもとに商売をして資本を充実させることが出来るかもしれないと可能性を示したのだ。



 統一歴 二千二百九年 弥生 二十八日 転移十日目 晴天 武蔵総合学園 生徒会室



 そして明けた翌日、言継卿と政秀はまず教えるべき生徒たちの能力を把握したいと言い出したので、全校生徒のステータスをまとめた書類を貸し出す。

 組織の再編も同時に行いたいのでクラーラや菖蒲達も同席する。

 その他の生徒や教職員は組織の再編と教導が済むまでは以前の作業に従事することになった。


 まず能力の高いものから書類を読み始め言継と政秀が驚き、政秀が

「友貞の精兵をほぼ一人で追い払ったというのはどなたですか?」

 と尋ねてきたので、クラーラは

「この書類の生徒会庶務である夏生穂村です」

 と紙の山から一枚を抜き出す。


 それを目を通した言継と政秀はさらに驚き、二人での間で

「あり得ぬ……」

「ですが現実に起きておりますぞ」

 等とやりあった後、友貞を追いやったときの格好で穂村に来てくれるように申し出る。

 訝しみながらそれを了承したクラーラは、菖蒲を使いに出し普通科一階の会議室にいるであろう穂村を呼びに行かせる。


 菖蒲に先導され穂村が生徒会室に入る、眩いばかりに光を放つゴルフクラブを携えて。


 それを認めた言継と政秀は


「「ヒヒイロカネでおじゃると!」ですと!」


 と吃驚する。


 二人の様子にたじろぐ穂村達だったがクラーラが簡潔に要領を纏めてくれるよう願い出る。

 興奮を抑えながら言継卿は

「その()()()はこちらの世界ではヒヒイロカネと呼ばれる希少な金属で出来ており、二千二百年ほど昔その製法を手にした者により秋津洲は統一され秋津国となった。統一したものは大王を改め帝とし、自らを神武と称しその末裔は先年まで秋津国を治めておられたのでおじゃる」

 これから生徒たちに教えるであろう内容を纏めつつ話す。


「だが、神武から後ヒヒイロカネは徐々に産出量が減りそれを憂いた帝の一族と知識層が協力してヒヒイロカネによる恩恵を『秘名』、『勁術』、「荒武者」に分けて技術体系を確立した、というのがこの世界における歴史の流れなのでおじゃるよ……まぁ詳しいことは後日教えるがあらましとしてはそういうことでおじゃる」

 言継卿が獲物を狙うように穂村のゴルフクラブを見つめながらそういう。


「つまりおれが友貞配下の精兵を圧倒できたのは、この護身具によるものと?」

 穂村が疑問を呈する。


「いや、それだけではないのでおじゃる。ヒヒイロカネは所有者の力を何倍にもすることが出来るのでおじゃるが、力のないものが持っても意味はないのでおじゃる。穂村殿は鎌倉の武家の如く地の能力が高いのでヒヒイロカネの力を十全に扱えたのでおじゃろう」

 そう答える。

「じゃが亡者にはそれは通じぬのでおじゃる」

 上げてから下げるようなことを言継卿が口にする。


「どういうことだ?」

 穂村が問い詰めると。

「詳しくはまだ分かっておじゃらぬ……じゃがヒヒイロカネの力を十全に引き出せたはずの帝の皇子や皇女達や公家衆が亡者の群れの前に成す術もなく討ち取られ、生き残った公家衆に持てるだけの財宝を持たせて民と共に逃す時間を帝すら満足に稼げず敗れたというのが事実でおじゃる。秘名で印を結び(魔術で世界と契約し)、塚原卜伝の弟子として勁術と武術を体得し、荒武者を駆る公方殿が亡者に抗し得ていることは現実……その三つの技術にはヒヒイロカネの恩恵にないものがあるのやもしれぬでおじゃる……」

 考えを深めながらそう言葉にする。


 そして少し悩んだ後言継卿は

「のう穂村殿。本来ならば天上物であるヒヒイロカネの武具などおいそれと目に入れることも叶わぬ財宝ではあるのでおじゃるが、その内の一つを麿に譲っては貰えぬか? 対価として麿のすべての知識と末代までの忠誠を捧げる。麿は神武が世を平らげた所以とその後の世を治めた力の違いを知りたい。その為には貴方様のお力添えが必要なのでおじゃる」

 穂村の前で平伏するとそう申し出る。


 元の世界で数万円の値段、しかも買ったのは学園長で穂村は貰っただけなのだが、筋としては

「これを与えて下さった学園長の許可を頂けたらお譲りいたしましょう。その後の働きには期待していますよ言継殿」

 許しが出てからという条件を加えつつ前向きな答えをする。


 言継は屈んで顔を上げさせる穂村の耳元に口を寄せると

「麿の秘名は(いえる)でおじゃる。幾久しくお願いいたしまする」

 歓喜に声を震わせながら穂村に忠誠を誓うのであった。



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