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掌編小説

縁結び

作者: タマネギ

「出雲の方に行ってきたんで」


「えっ…お土産?」


昼休み、席でうとうとしていると、

レンガほどの大きさの包みが

目の前に置かれた。


薄い緑色の包装紙が巻きつけられ、

一見、引き出物のような

堅苦しさを感じた。


「はい、ゴートゥで、

出雲蕎麦食べにいきまして」


見上げると、Yさんが、

恥ずかしそうに、頭を掻いていた。


いつも遅刻ばかりしているYさんには、

先月、お中元を貰ったばかりだ。


「Yさん、こんな気をつかわなくても

いいからね」


「はい…だだ、いつも遅刻ばかりして

ご迷惑、おかけしているので、

気持ちだけですから。


すいません…先週、クビだって、

言われたので……

これからも、よろしくお願いします」


お願いされても困るんだけど……

いい加減なのか、律義なのか、

どこか、いつもずれている、

Yさんからの、二度目の進物だった。


そう言えば、先週、遅刻したYさんに、

もう来なくていい、クビだと、

怒ったことがあった。

本気で言ったわけではなかったが。


Yさんは、頭を掻き続けたまま、

愛想笑いでも、

ほんとの笑いでもないような、

どちらかと言うと、悲壮な笑いを残し、

部屋から出て行った。


周りの目もあるので、

その包みを足元の鞄の中に

しまいながら、考えてみた。


うーん、なんだろ。

この大きさ、この長さ、

この重さ、いったいなんだろ。

食べ物には見えないな……


じっと眺めていると、

直方体のその包みは、心なしか、

震えたような気がした。


目の錯覚かと訝りながら、

鞄から取り出して、膝に置く。


あっ、やっぱり震えた。

確かに、膝の上に意外な震動がある。

ああああっ、慌てて、床に

払い落とした。


Yさんの悪戯か……いや、

いくらなんでも、

そんなことをする人じゃないだろう。


意を決して、包みを拾い上げ、

中身を見てみることにした。


薄い緑色の包装紙を開き、

蓋を持ち上げる。

震えはない。やはり、錯覚か。


あっ……


中には、一人と言うのか、

一匹と言うのか、

着物を着た小さな人形が入っていた。


その人形を取り出してみると、

背中に、うさぎの絵と、

大国主命という文字が書いてあった。


因幡の白うさぎ……大国主命……

確か、縁結びの神様だったような……


ふと、Yさんの悲壮な笑い顔が

浮かんだ。

それにしても、

包みはほんとに震えたんだろうか。


なんとも解せない大国主命を

箱に戻して、蓋を閉じようとすると、

中から、よろしくお願いしますという

太い声が聞こえてきた。

ふと、Yさんの悲壮な笑い顔が

浮かんだ。


もちろん、それっきり、

その進物は開いていない。

そのせいかどうか、

お盆休み前になっても、

Yさんの遅刻は無くなろうと

しない。


社長の息子であるYさんは、

Yさんなりに悩んでいるようだが、

こちらはこちらで、

病んでいるのかもしれない。

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