- 人形は武器を注文する -
本日2話目となりますので、注意してください
今、私達はベルガナ唯一の武具屋に来ている。
私もたまに剣の手入れや、投げナイフ用のナイフを購入するのでよく利用している。
だが、今回は私の利用目的で来た訳ではない。
「んー・・・嬢ちゃんの頼みとはいえ、これ以上は勘弁してくれ・・・」
そう言ったのは武具屋の親父さん。
黒髪に黒い瞳、無精髭だが、しっかりとした体躯をしており、この町で唯一の武具屋を経営している。
人族だが腕は良く、店に並んでいる武具の品質も高い。
その親父さんが申し訳なさそうに言ったのは、武具屋の裏庭にある試し切りをする広場でだ。
試作品をここで試して、良ければ製品として完成させ、駄目ならもう一度作り直す。
その場所で、彼が幅の広いグレートソードを試し切り用の木材に振った。
振るった剣の中間が木材に触れ、そのまま木材の中程まで食い込むがメキッと音を上げてグレートソードが半ばから圧し折れた。
「やはり、本機のパワーには耐えられない」
彼がそう言って、圧し折れた刀身を持ってこちらにやってくる。
その私達の後ろには彼が圧し折った武器の山が出来ている。
剣から始まり、ハルバードや斧、ハンマー等が全部、折れたり曲がったりしている。
彼のパワーが強すぎて刀身自体が耐えられず、テストした武器はすべて不合格となった。
だが、そうなると困ったことになる。
「やっぱり、魔鋼製じゃないと無理かしら・・・」
「コイツのパワーじゃ魔鋼でも細けりゃ曲がりそうだがなぁ」
私の呟きに親父さんが言う。
確かに、通常なら壊れないような剣幅が太いグレートソードも、彼のパワーに耐えられず真っ二つに折れてしまった。
そうなると、魔鋼製のグレートソードタイプであれば、パワーにも耐えられる可能性はある。
だが、そんなグレートソードなんてこの店には置いてないし、あったとしても値段は凄い金額になっているだろう。
「良い提案だったが、やはりこのまま精霊都市に・・・」
「何か彼のパワーに耐えられそうな武器ってありません?」
「そうだなぁ・・・間に合わせ・・・ってワケじゃないが大型メイスとか大型の棍棒とか?」
親父さんが店の壁に立て掛けてある棒を見る。
殴る部分が持ち手より太くなっているが、彼のパワーを考えればそれでも曲がりそうだ。
「あとはそうだなぁ・・・何か硬い素材があれば何かしら作ってやれるが・・・」
親父さんの店は素材を持ち込み、それで専用の武具を作ってくれる。
私の剣も、「鋼鉄鷲」の嘴や羽根を加工して制作してもらった。
軽くしなやかで丈夫な剣。
同じように、何かしらの素材を持ち込めばそれで武器を作ってくれると言っているが、そんな素材・・・
「彼のパワーに耐えられる素材・・・ねぇ・・・」
そう呟いて彼を見上げる。
庭の隅ではリペアボット達がせっせと弾丸を作っては、道具袋に詰めている。
この店に来る前に道具屋で、彼でも使える事を確認した道具袋を、3つ購入しておいたのだ。
それぞれ、弾丸・武器・素材と使い分ける予定らしい。
彼が取り外していたライフルやショットガンを、道具袋の一つに入れていく。
それを眺めていてふと思った。
「そう言えばあの時、ゴブリンを直接殴ってたり投げ捨てたりしてたけど、あの銃は壊れてないの?」
「内部機構にダメージがある可能性はあるが、カノン砲そのものは問題はない」
彼が武器が詰まった道具袋を、背中に装着しながら言う。
彼のパワーで打撃攻撃をしたにも関わらず、あの銃はその形状を保っていた。
それはつまり、彼のパワーにも耐えられる素材という事ではないのだろうか?
「・・・あの銃はもう使わないのよね?」
「弾丸が無い為、利用価値は無い」
「そんな事ないわ、それに上手くすればあなたの武器も出来る」
彼にとっては、弾を発射する事が出来ない銃に利用価値は無いのだろう。
だが、この世界では未知の素材で作られた武器だ。
何より、彼のパワーに耐えたのだ。
あの銃を剣に加工できれば・・・
「親父さん、少し難しい素材なんですが・・・」
「ん?アテがあるのか?」
親父さんの言葉に頷く。
後であの銃を回収し、親父さんに作り直してもらうように交渉しよう。
とりあえず、剣はオーダーメイドする事にし、次の店に向かう。
やってきたのは衣服を取り扱う小さな店。
そこで彼の身体を隠せるようなマントを購入する予定だったが、彼の身体は大き過ぎる。
大人の冒険者が使うようなマントでも、3つ以上を繋ぎ合わせなければ使えない。
それ以外にも、彼の要望で耐火性がある物と言う条件が付く。
彼曰く、「ぶーすたー」というあの炎を噴きながら移動する方法を使う時に燃えたら困るという事だ。
そうなると、選べる数が更に減る上に、色も限定される。
だが、長く使う予定でもあるので、要望はちゃんと反映させよう。
結果、任務中でも目立たない色と言う事で、鈍色のマントを複数繋ぎ合わせる事にした。
完成させるには3日ほど掛かるらしく、その間に銃を回収して剣に加工してもらおう。
加工代も併せて、値段は結構したが、ギルドからの特別報酬も出るのだし、問題ないだろう。
足りなければ足りなかったで、私の方で出して後で徴収すれば良い。
加工を頼み、一旦ギルドに向かう。
ギルドでは、ゴブリン退治の後始末依頼が出ており、まだ参加枠は余っている。
確かに、あの量の後始末は時間と手間が掛かるだろう。
だが、私達の目的はこの依頼に参加するという事ではなく、平原に放り捨てた銃を回収する事だ。
恐らく、珍しい物としてギルドに持ち込まれているはず。
ギルドの扉を潜ると、奥が何やら騒がしい。
「買い取り不可ってどういう事だよ!」
「ですから、そんな鉄の筒を持って来られても、ギルドじゃ買い取りなんて出来ないんですよ」
どうやら、目当ての銃を持ち込んだ冒険者がいたようだ。
彼を見上げ、先程決めた打ち合わせを思い出す。
あとで回収するつもりだったが、それを忘れて町に戻ってしまい、ギルドに報告に来た、というものだ。
もし、回収した冒険者にゴネられた場合、回収代だけは支払っておく。
その集団が持って来たという荷馬車を見ると、いくつかの箱と放り投げたあの銃が置かれていた。
聞いていると、地面に突き刺さっており、全員で協力して荷馬車に乗せてここまで運んできたらしい。
「申し訳ないけど、その筒は彼の所有物なんだけど・・・」
「な、なんだよアンタ、俺達が手に入れたモンをどうしようと俺達の勝手だろ!?」
ギルドに買い取り拒否されてるんだから、どうしようもないんじゃないんだろうか。
取り合えず、彼らが苦労して持ってきてくれた事には感謝しよう。
「さっきも言ったけど、その筒は元々彼の物なのよ、後々回収するつもりだったんだけど・・・」
そう言って、彼に視線を送る。
それを受けて、彼が荷馬車に近付くと冒険者達が剣に手を伸ばす。
「ギルドの中で武器を抜くのは御法度よ、それにタダで返せとは言わないわ」
ギルド内で明確な違反行為を行えば処罰する事が出来る。
その一つがギルド内で武器を抜く事。
ナイフ程度なら問題無いが、ショートソードやハンマー等を許可無く鞘から抜けば、すぐに処罰される。
処罰と言っても、抜いた程度では罰金位だろうが、それで誰かを怪我させたら冒険者資格を剥奪される事になる。
「その箱の中身はゴブリンの討伐証よね?」
その言葉に、冒険者が頷く。
箱はそこそこ大きく、それが荷馬車に4つ乗っている。
彼が荷馬車に乗っていた筒を、軽々と持ち上げ背中に回す。
その様子を見ていた冒険者が感嘆の声を漏らす。
「もし、あの筒を返してくれるなら、その討伐証分は報酬としてそちらに差し上げるわ」
「な、ほ、本当か?」
その提案に、先程まで受付で交渉していたリーダーらしき男が聞いてくる。
いくつ入っているかはわからないが、まったく討伐に参加していない私が要求する事は出来ない。
それに、彼は別に報酬はいらないと言っているし、問題はない。
「彼もそれで良いと言ってるからね、どうする?」
彼らに提案した内容はある意味で破格だろう。
もし、この提案を拒否して銃をギルドに売り付けても、ギルドとしては二束三文で買い叩くだろう。
そして、討伐報酬はすべて彼の懐に入り、二束三文で買い取った銃はそのまま彼に返却される。
すると大損するのは彼らだ。
今回の後始末の報酬はそこそこ良い額だが、それ以外に収入は無い。
だが、私達の提案を受け入れれば、その後始末報酬以外に、運んできた回収した分の討伐報酬が手に入る。
結果から言えば、彼らはその提案を受け入れた。
無事に銃を回収し、そのまますぐに武具屋の親父さんの所に向かった。
親父さんの目の前に血塗れのカノン砲が置かれている。
それを見て、親父さんが唸っている。
「という訳で、これでグレートソードを作って欲しいんだけど・・・」
「待て待て、こんな素材見た事もないのに急に作れって言われてもな」
親父さんがカノン砲を叩いて確認する。
彼に確認したが、カノン砲も含め、彼が使う銃器はすべて特殊な合金を使用しており、重量こそあるが頑丈である。
この未知の合金を使って、彼専用の剣を作る。
「取り敢えず、この筒の部分で剣を作りゃいいんだな?」
親父さんが再度確認する。
彼が頷き、背中からリペアボットが机に飛び乗る。
そのリペアボットが慣れた様子でカノン砲の銃身を分解して取り外した。
リペアボットは、彼のメンテ以外にも銃器も常にメンテしている。
その彼らに掛かれば、分解など簡単な事だった。
「よいしょっと・・・それじゃ、いくつか試すからそうだな・・・1週間くれ、1週間で完成させてやるよ」
親父さんの1週間と言う言葉に彼が頷く。
急いで精霊都市に行きたい彼が、1週間も待つという事に少々疑問が湧くが、その肩を見て察した。
彼の両肩にもリペアボットが付いているのだが、その2体の腹部には道具袋が被せられ、せっせと鉄材を齧っている。
つまり、今現在も弾丸を作り続けているのだ。
想像以上にキング達との戦闘は、彼の保有する弾丸を消費していたようだ。
この待つ間に、弾丸を大量生産するつもりなのだろう。
「それじゃ、お願いします」
そう言って、彼を伴って店から出る。
そしてある事に気が付いた。
「あなた、宿はどうするつもり?」
「宿?」
そう、宿。
私は宿に泊まっているが、彼は宿泊施設に泊まるだけの資金は無いし、泊まれるような場所もないだろう。
少し考え、彼にいくつか提案する。
一つは宿に無理を言って宿泊する。
もう一つは、ギルドの一室を利用する。
最後に、野晒し。
宿に無理を言うのは後々面倒になるのでオススメは出来ない。
ギルドの一室を利用するには、ギルドカードを発行し、ギルドに所属しなければならない。
野晒しは・・・彼なら問題ないだろうが、流石に・・・
「ギルドに所属すると何か問題があるのか?」
彼の質問に少し考える。
ギルドに所属してのデメリットはただ一つだ。
それは、個人を指名した依頼が来る事があると言う事。
これは余程の事が無い限り、拒否する事は出来ない依頼であり、難易度も高い事が多い。
だが、それ以外にデメリットは無いかな・・・
依頼を受けた際の仲介料で報酬の一部を持っていかれるが、依頼者とのトラブルが起きた際、間に入って仲裁してくれる。
そう考えれば、ギルドに所属するのが得策なのかな・・・
私は一つ頷くと、彼にギルド所属の際の注意事項を説明する。
そして、ギルドカードを作って一室を借りるべく、冒険者ギルドに向かう事にした。
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