- 人形はギルドに報告する -
ゴブリンキング倒した後、リーディアに説明を受ける。
魔獣の核と言う物は主に心臓部にあるらしい。
リーディアが頭部を失ったキングの胸を、持っていたナイフで切り開くと、心臓に貼り付くように鈍い鉛色の球体が現れた。
この球体がキングの核。
ただし、その大きさは少し大きめのビー玉くらいだ。
そして、別のゴブリンも同じように、胸を切り開いて核を取り出す。
色は同じだが、普通のゴブリンの核は小さい。
「取り敢えず、後処理は冒険者ギルドに任せましょ」
リーディアがそう言って周囲を見回す。
辺り一面がゴブリンから流れ出た血によって、凄まじい血の海になっている。
この惨劇を引き起こしたのが、ただ一体の自律兵器だと話しても、恐らくは信じられないだろう。
だが、リーディアはその光景を目撃している。
たった一体で、キングを含むゴブリンの大群を蹂躙した存在。
異常過ぎる戦闘能力。
後にリーディアは、本機を放置して人類と敵対すれば、恐らく誰にも止められないだろう、と語っていた。
--リーディア視点--
彼を連れて町に戻ろうとすると、月と剣を象った紋章の旗を掲げた集団がやってきた。
あれは確か、平原の月の紋章。
すべてが終わってからやってくるのは、運が良いのか悪いのか・・・
だが、私達にとっては丁度良い。
向こうもこちらに気が付いたようで、先頭を歩いていた数人がこっちに走ってくる。
「お前達っキングが出ている、すぐに町に戻るんだ!」
確か、この盾戦士はジョッドと言う名前だったはずだ。
その彼がすぐに逃げる様に言うが、既に終わっているから心配はない。
「キングを含む群れは殲滅したわ」
その言葉で、ジョッドとその後に続いた男達が驚愕の表情を浮かべる。
聞いただけでは信じられないだろうが、丘を越えた先の光景を見れば納得するだろう。
「ただ、数が数だから、私達は町に戻って後処理の手続きをするので、先に確認と処理を頼みたいの」
そう言うと、ジョッドがちらりと背後を見ると、そこにいたジータが頷いて丘に走る。
丘を登り切り、ジータが立ち止まる。
恐らく、あの光景を見て唖然としているのだろう。
しばらくして、ジータが戻ってくる。
その表情は困惑しており、目の前の光景が信じられないようだった。
「彼女の言う通り、凄い事になってた・・・」
ジータがジョッドに報告する。
報告を聞いて、ジョッドは思案しているようだ。
恐らく、どうやってこの短時間で殲滅したのか考えているのだろう。
だが、それを答える事は出来ない。
彼の異常過ぎる戦闘能力を考えれば、あのクランマスターが良からぬ事を企むだろう。
それが引き金になり、敵対するようなことになったらお仕舞いだ。
戻ったらギルドマスターを交えて彼の処遇を考えないといけない。
「・・・取り敢えず、キングを倒してくれた事には礼を言う、処理に関しては早めに人手を寄こしてくれ」
ジョッドがそう言い、後続を引き連れて丘を越えて行った。
あの光景を見て、全員が驚愕している事だろう。
だが、ふと気が付いた。
あの集団の中に、クランマスターの姿が見えない。
周囲を見回しても、何処にもその姿を見る事が出来ない。
まさかと思うが・・・
「・・・まさか町を見捨てて逃げた?」
呟くが、現時点では確定事項ではないので、頭を振って考えを消した。
クランマスターともあろう者が、町と住民を見捨てて逃げるという行為は重罪だ。
町と住民は、クランに多少の優遇措置を取っている事に不満を持たない。
優遇措置を受けているクランは、非常事態の際に町と住民を守る為に身体を張る。
それは「魔獣大発生」や天災など、町や住民に危険が及ぶ事全般に及ぶ。
だから、クランを預かり運営するクランマスターには重大な責任が圧し掛かる。
その覚悟が無ければ、クランマスターは務まらない。
町に戻ったらすぐに、平原の月のクランハウスを調査しないといけない。
町に戻ると、嫌でも視線が集まる。
ただし、私にではない。
後ろにいる、彼にだ。
まぁ無理もない事だろう。
今の彼の姿は、赤茶けた装甲にゴブリンの返り血を浴びまくって血塗れ状態なのだ。
「ギルドマスターに会う前に少しその血を洗ったらどう?」
そう聞くと、彼が自分の腕や脚を見ている。
もちろん、どちらも返り血と血混じりの泥が付いていて、正直汚い。
「ギルドの裏で少し洗いましょう」
冒険者ギルドの裏で、彼に水を掛けて数人がかりでその血や泥を落とす。
そして、リペアボット達は大量に積まれた釘と火薬を食べて、弾丸を作りまくっていた。
二匹のリペアボットが弾丸を作り、残った一匹が鉄製の箱に出来た弾丸を詰めている。
キングとの戦闘で大量の弾丸を使用したので、作らなければ足りないらしい。
やがて、彼に付いていた血や泥を落とし終えると、彼がその弾丸が詰まった箱を腰や背中に装着していく。
その光景を見て、ふと思った。
「あなたは道具袋を使わないの?」
「マジックバッグとは?」
どうやら、彼のいた世界では道具袋は存在しないらしい。
私が腰に付けていた道具袋を外し、まずは彼に見せる。
そして、袋の口を開け、そこから革製の水筒を取り出す。
明らかに、道具袋より長い水筒が道具袋から出てくるのを彼が見ている。
「それはどういう構造に?」
「この袋は、ある魔獣の素材を使って作られるの」
彼に道具袋について説明する。
道具袋は昔、大賢者と呼ばれた異世界人が発明した。
ある魔獣が山の木々を食い尽くしても、その食事が止まらない事から、その内臓のどこかに異次元空間みたいな空間があるのではないか?と予想し、当時の英雄達が討伐した後、内蔵を調べ尽くして発見された。
それを加工する事で、現在の道具袋の試作品が生まれ、やがて、その技術を参考にし、亜空間魔術方程式が誕生した事で、手軽に制作が可能になったのが、現在の道具袋である。
冒険者になると、まずこの道具袋を手にする事を目標にする。
高ランクの冒険者は複数の道具袋を所有し、それぞれに入れるアイテムを使い分けている。
彼は全身に弾丸の詰まった箱を装着しているが、道具袋を使用すれば一つか二つで事足りるだろう。
何せ、道具袋の中は、サイズの差はあれど見た目以上に物を入れる事が出来るのだから。
「本機に使用出来るかは不明」
彼がそう言う。
確かに、マナの流れを持たない彼が使えるかは不明だが、元々マナを持たない人でも使えるのだ。
それなら、恐らく使う事は可能だろう。
物は試しだし、使えなければ今のままでも問題はないはずだ。
「そう言えば、あの大きな筒は持って来なくて良かったの?」
「カノン砲は榴弾の補充が出来ない、故に破棄した」
彼が言うにはあの筒が発射する弾は、何かにぶつかると爆発するが、それ故に作ることが出来ない。
なので、補充出来ないのであれば使う事もないから捨てたという事だった。
回収出来たら、ギルドで保管して置こう。
弾丸は作れないかもしれないが、その技術を学ぶ事はできるだろう。
彼を洗い終わり、弾丸が詰まった箱とリペアボットを回収すると、ギルドマスターの所に向かう。
と言っても、私達が待つのは素材の解体室だが。
「ホホホ、キングを倒したとな?」
ギルドマスターがやってくるなりそう聞いてきた。
その質問に対し、私は彼を見てから頷く。
「核は此処にあります」
そう言って、机に道具袋から取り出したキングの核を置いた。
ギルドマスターがそれをしげしげと眺め、髭を撫でる。
そして、机の引き出しから小さな紅い宝石が付いた指輪を取り出すと、その宝石に核を押し付けると宝石が発光してその光の中にゴブリンキングの姿が浮かぶ。
あの指輪は恐らく、核が何の核なのかを確認する為の魔道具なのだろう。
私も初めて見た。
「確かにキングの核だの」
「それと、流石に数が多過ぎですので、後処理の方に人数を割いて欲しいのですが・・・」
ギルドマスターとこれからを話し合う。
まずは死骸の処理を行い、その後、大規模な調査団を大森林に送る。
それと、平原の月のクランマスターを調査するように依頼する。
「それでは、本機は精霊都市に向かう」
話し合いが終わると、彼がそう言って扉の方に向かうが、慌ててそれを止める。
「まだ、キングの討伐報酬も貰ってないし、あなたについてはまだ話があるのよ」
その言葉に彼が首を傾げる。
感情を持ってないと彼は言うが、妙に人間臭い所がある。
「まず、あなたの武器についてだけど、もし弾丸が全部尽きたらどうするの?」
「緊急用に炸薬式のバレットパンチが装備されている」
「バレットパンチ?」
尋ねると、彼は解体室にあった巨大な柱の前に立つ。
そして、右拳を柱に押し当てた瞬間、部屋に炸裂音が響き渡る。
炸裂音の後、その柱にはくっきりと彼の拳の痕が付いていた。
解体室の柱は、魔獣素材を解体する為に、特に頑丈な木材を使っている。
その木材に、くっきりと痕を残す事が出来る程の威力は早々無い。
「でも、それは緊急用なんでしょ?」
その言葉に彼が頷く。
弾丸を作るにはリペアボットがいなければならず、更に製造にも多少の時間が掛かる。
ならば、逆に弾丸を使わない戦闘をすれば良い。
「あなたの防御力とパワーなら、近接用の武器を使えば弾丸の節約になると思うんだけど、どうかな?」
「どういう事か理解出来ない」
彼にも理解できるように説明する。
これから相手をすると考えているマンバ戦まで、弾丸はなるべく温存した方が良い。
そして、その防御力を突破する攻撃力を持った魔獣は、恐らくAからSクラスでなければいないだろう。
それならば、相手の攻撃を受けるのを前提とし、防御を捨てて近接武器を使用すれば弾丸を使わずとも大抵の魔獣は撃破出来るだろう。
彼の能力を考えれば、理に適っている戦闘方法だろう。
例え、正当な剣術でなくとも、彼のパワーで振り回される武器に当たればそれは確実に致命傷になるだろう。
「弾丸の温存が出来るのは良い提案ではあるが、その提案には一つ問題がある」
「どういう問題?」
大人しく説明を受けていた彼が、何かに気が付いたようだ。
一体何が問題なのだろうか。
「ここにいる人間の持つ武器は全て鉄製、ただの鉄では本機のパワーには耐えられない」
そうだった。
彼を洗っている際に、装備していた銃を外して机に並べた際に、試しにライフルを持とうとしたが、全く持ち上がりすらしなかった。
別に私が非力と言う訳ではない。
それを考えれば、彼のパワーは巨人族並に高い事になる。
もう一度言うが、別に私が非力と言う訳ではない。
そんな彼が本気で鉄製の武器を振り回せば、あっという間に武器は壊れてしまうだろう。
巨人族が使用する武器は鉄ではなく、魔鋼と言う特別な金属を使っている為、巨人族のパワーでも頑丈で長持ちする。
だが今現在、ベルガナには魔鋼の在庫は無い。
数ヶ月前に、カドルが自身の鎧を新調する際に、残りの魔鋼をすべて使ってしまったのだ。
「取り敢えず、いくつか試してみましょ」
「しかし、本機は早く精霊都市に向かい、帰還方法を・・・」
「到達する前に弾丸が無くなって、マンバと格闘戦の末に破壊されたら帰還どころの話じゃないでしょ?」
そう言うと、彼が沈黙する。
彼の任務遂行に対する熱意は認めるが、その為に死んでは元も子もない。
それならば、多少時間は掛かっても確実に行く方が良いだろう。
「では、ギルドマスター、後はお願いします」
「うむ、明日までに報酬は用意しておくからの」
解体室を出ると、町にある武具屋に向かって彼と共に歩き出す。
武器は頑丈な物と、このままでは目立ちまくる彼にはマントが必要だろう。
彼にどんな武器とマントを持たせるか、頭の中で彼に色々試してみながら、彼に必要な物を考える事にした。
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