- 人形は失敗する -
本日5話目となります
聞き間違いなどではなく、今、ゴーレムが喋った。
しかも、自分の事を「ゴーレムではない」と言っている。
「ホホ、それならばお主は何じゃの?」
ベームがゴーレムを見上げながら尋ねる。
ゴーレムの顔がベームの方を向く。
「本機は、自律戦闘型独立歩行兵器NX-Gタイプ製造番号0358742号」
それを聞いたベームがポカンとしている。
聞いた事のない言葉と数字。
「そ、それは名前と言うんじゃろうか・・・」
「これは形式番号と本機の製造番号になる」
その言葉で余計に訳が分からなくなる。
名前ではなく、番号で管理されている。
どれだけの数がいたのかは不明だが、少なくとも番号からして、かなりの数が作り出されているのだろう。
「儂はこの町の冒険者ギルドの長をしとるベームと言うんじゃが、ゴブリンの群れに付いて詳しく話を聞いてもいいかの?」
「ギルド長、そんな怪しい奴を町に入れるんですか?」
冒険者の一人が抗議する。
正体もまだよくわかっていないゴーレム?を、町に入れる事に反対しているのだろう。
だが、ここで話を聞いても仕方がない。
「仕方ないじゃろう、それに冒険者ギルドなら皆もいるしの」
その言葉で冒険者達が沈黙する。
つまり、この老人は、冒険者ギルドにいる面々を当てにしていると暗に言っているのだ。
それに抗議すれば、自分達は無能だと言っているようなものだ。
「それに、ジェネラルを倒したとなれば報酬も用意せねばならんからの」
老人がそう言いながら冒険者ギルドに歩いて行く。
ただ、その言葉で冒険者達が顔を見合わせる。
冒険者でもないゴーレムが、討伐報酬を得る。
その老人の後をリーディアと、冒険者に囲まれたゴーレムが付いて行く。
-- リーディア視点 --
冒険者ギルドに到着した後、問題があった。
ゴーレムの重量が有り過ぎて、2階にあるギルドマスターの部屋に向かう事が出来ないのだ。
階段に足を掛けた瞬間、ミシミシと階段の木が悲鳴を上げている。
仕方ないので、1階にある素材の解体室で話を聞く事になった。
ゴーレムが話す内容はギルドマスターや私の理解を超えていた。
世界戦争、ニューロ兵器、大規模汚染。
確かに、この世界にも過去に世界を巻き込んだ大戦争はあったが、それは魔王との戦いだった。
魔王を討伐して封印し、世界は平和になってから小競り合いはあっても、それほどの大戦争は起きていない。
聞けば、彼は魔法で作られた魔法生物ではなく、「コージョー」と呼ばれる場所で製造された「機械」であるという。
道理でマナの流れが感じられない訳である。
その話を聞いて、ギルドマスターが私の方を向く。
彼の話を聞き、様々な情報を総合した結果、一つの結論に達した。
「貴方は、多分異世界から来たのね」
「イセカイ?」
私の言葉を聞き返すように彼が言う。
それに私が頷く。
異世界。
この世界と寄り添うように存在すると言われる異なる世界。
実は、この世界には異世界から来たとされる人物が数人いる。
東の国には嘗て「サムライ」と呼ばれた異世界人がおり、今でも子孫がいる。
精霊都市には、聖女と呼ばれる女性がおり、精霊王と親交を持っている。
他にも、天才と呼ばれる人物や、錬金術の発展に貢献した人物など、異世界から来たと言う人間がいた。
恐らく、彼?もそんな一人なのだろう。
ただ、機械である彼を異世界「人」と呼んで良いのだろうか・・・
「取り敢えず、ジェネラル達は処分したのかの?」
「確かに全て殲滅した」
「いや、そうじゃなくての、その死体を処理したかと言う事じゃの」
ギルマスの言葉に彼が首を傾げた(ような気がする)。
これは不味い。
どうやら、死体の処理を一切していないようだ。
魔獣は死ぬと腐敗して大地を呪う。
そして、その体内にある核を別の魔獣が取り込むと、稀にランクアップして上位種に進化する事があるのだ。
ゴブリンの場合は核は小さい為、1個2個なら問題ない。
だが、今回は100を超える数と、上位種であるジェネラルがいる。
それをただ倒して放置しているとなるとかなり不味い。
「ギルドマスター、確認に出したメンバーに増援を送った方が良いのでは?」
「うむ、すぐに送るとしようかの」
私の提案に、ギルマスがすぐに人を呼び、数人の冒険者がギルドから飛び出していく。
「問題があったのか?」
彼の言葉に頷き、説明する。
呪いや進化の事。
それを聞き、彼も納得したようだ。
「それじゃ、とりあえず報酬じゃがの・・・」
ギルマスが紙を取り出し、そこに書き込んでいく。
「まず、ゴブリン1体が銅貨1枚じゃから137体で銅貨137枚になるの、ジェネラルは上位種じゃから1体で銀貨で100枚じゃな」
本来は討伐した証明として指定されている部位が必要だが、今回はギルマスの個人判断で支払いを許可したようだ。
銅貨1枚でそこら辺で売っているパンなら5個は買える。
この世界の貨幣では、銅・銀・金・白銅・白銀・白金という硬貨だ。
基本的に硬貨は王国が発行しているので、偽造は大罪。
偽造が判明すれば一族郎党処断されてしまう。
「では、これ全てで欲しい物がある」
彼の要求した物は、「銃弾」「機械油」「地図」だった。
地図はどうにかなるが、他二つはわからない。
銃弾を見せてもらったが、これは鉄の塊だろうか?
機械油は、鉱油という物らしいが、それもここら辺では手に入る事はない。
地図以外は用意出来そうにない事を伝えると、代わりに「鋼鉄」と「火薬」を要求してきた。
どうやら、銃弾は自分で作れるらしい。
どうやって作るのか尋ねてみると、彼の背中から小さい蜘蛛のようなモノが現れた。
彼が言うには、「りぺあぼっと」というモノらしく、それが用意した鋼鉄の釘と火薬を食べる。
そして、しばらくすると糸を出す部分から、銃弾が出てきた。
この蜘蛛が体内で加工し、組み合わせて銃弾にしているらしい。
出来上がった銃弾を、リペアボットが「出来た」と言わんばかりに私に向かって掲げた。
「か、可愛い・・・」
思わず呟くが、慌てて口を閉じる。
とりあえず、報酬は鋼鉄素材を中心にして渡す事にした。
「それで、これからどうするんじゃの?」
「任務遂行の為、地球への帰還方法を探す」
ギルマスの言葉に彼はそう言った。
だが、それは難しい事だ。
何故なら、嘗て異世界から来た人物達の何人かは、本来の世界に戻る事を願ったはずだ。
だが、異世界への扉が開いたという話は聞かない。
それは、異世界に帰還する方法は無いのではないか?という事だ。
「この世界の経過時間と、本機のいた地球の経過時間が同じであれば、急いで戻らねばならない」
彼には大事な任務があり、それを遂行中なのだという。
どんな依頼かは教えてはくれなかったが、成功以外は求められていないらしい。
ギルマスの方を見ると、難しい顔をしている。
「それじゃ、まず精霊都市を目指すと良いんじゃの」
「聖女様、ですか」
私の言葉にギルマスが頷く。
精霊都市とは精霊王が治める大型都市の事だ。
その精霊王と共に「世界樹」を芽吹かせ、巨大な大樹に成長させた功績で、聖女と呼ばれている人物がいる。
そして、その聖女は自らを異世界人と宣言している。
「その精霊都市に向かうには?」
彼の言葉に、ギルマスが別の地図を持ってくる。
そして、それを机に広げると、今いるベルガナの町と、精霊都市の位置を指し示す。
「本来ならガナン渓谷を越えた方が早いんじゃがの・・・半年ほど前に騎士団を壊滅させた魔獣が出たんじゃの」
「確か、ジャイアントキラーマンバでしたか・・・」
ジャイアントキラーマンバ。
黒い鱗を持つ超巨大な蛇であり、クラスは騎士団壊滅前はAだったが、壊滅後はSに引き上げられた。
その鱗は硬く、翼を持たない竜とまで言われるほど強い魔獣だ。
竜のように息吹は使わないが、持っている毒は非常に強力で、若い竜を倒したという記述もある。
「なので、ガナン渓谷を回り込むのが安全じゃの」
地図を確認すると、ガナン渓谷と呼ばれた渓谷を通れば、早く精霊都市には到着できる。
だが、回り込むとなるとかなりの距離を移動する事になる。
「問題無い、障害であれば排除する」
彼の言葉でギルマスが驚いた表情を浮かべる。
魔獣の名を聞いて、逃げる冒険者や騎士は見た事はあるが、真正面から堂々と排除すると言い放ったのは彼が初めてである。
だが、彼は異世界から来た。
持っている装備はどれも見た事もないが、非常に強力な威力を持っているらしい。
「らいふる」と呼ばれた武器は、クロスボウをさらに強力にしたような武器らしい。
非常に興味がある。
見た事もない技術や知らない事。
彼は、私の知的好奇心を非常にくすぐる存在だ。
ハイエルフに寿命は無い。
それ故に、ほとんどは研究に没頭していたり、興味があればそれを探求し続ける。
だが、中には年中怠惰に過ごしている者もいる。
そんな生活をしている者でも、見た事もない技術や話を聞いていると、それを知りたいという好奇心が湧いてくる。
ギルマスが考え直すように説得を試みているが、彼の意思?は硬い様で突破するつもりだ。
どれほどの力があるのか不明だが、ジェネラルと群れを単独で殲滅した事から、少なくともランクA程度以上の実力があるのは確実だ。
更に、その防御力も併せて考えれば、Sクラスの魔獣でも余裕で相手が出来るだろう。
「取り敢えず、遠くからでも確認できるようだし、遠くから確認して無理そうなら迂回すれば良いんじゃない?」
私の提案でギルマスが渋々納得する。
恐らく、彼は確認したとしても力尽くで突破するのだろう。
そうして話していると、外が騒がしい。
「ギルドマスター大変です!」
そう叫んで入ってきたのは、追加で送り出した冒険者。
その慌て振りから、想定外の事が起きたのは確実だろう。
「どうしたんじゃの?」
「確認に行った所、キングが確認されました!」
キング。
ジェネラルが統率個体であるなら、キングは支配個体と言える。
それ故に危険度ははるかにキングの方が上だ。
ジェネラルの統率は、恐慌状態になれば統率されていたゴブリン達は逃げてしまう。
だが、キングの支配は、恐慌状態に陥ってもキングが生存している限り、逃げることなく戦い続ける事になる。
更に報告を聞けば、100以上のゴブリンが確認できた。
どうやら、倒されたジェネラルが率いていた群れとは別の群れが複数あったらしく、ジェネラルの核を取り込んだ個体がキングに進化。
周囲の群れを支配し、大規模な戦闘集団となっていた。
報告をしに来た冒険者達は命辛々逃げる事に成功。
だが、自分達を追ってキングと群れはベルガナの町に来るだろうとの事。
「直ぐに『平原の月』に連絡じゃ!」
ギルマスが珍しく叫ぶ。
過去、キングを倒したというクランであるが、正直、私はそれも怪しいと思っている。
現在のクランマスターはランクAと実力者なのだが、それは仲間や金で買ったと噂されている。
「私も出ます」
腰に下げた剣は伊達で下げている訳ではない。
これでもランクBの実力は持っている。
「とにかく、冒険者達にも召集して対応しなきゃならん」
キングに挑むのに今の冒険者達で大丈夫なんだろうか。
それでも、『平原の月』と私がキングの相手をしている間、冒険者達に周囲にいるゴブリン達の相手をしてもらわなければならない。
とにかく、急いで準備をして、住民も避難させなければならない。
「・・・報告を聞く限り、本機のミスであると判断する」
彼がそう言って、机の上にいたリペアボットを回収する。
確かに、核や死骸を放置した結果キングが生まれたのだから、そういう事になるのだろうが、今はそういう事を言っている場合ではない。
「そんな事・・・」
「障害はすべて排除する」
彼はそう言い残し、解体室から出て行った。
ギルマスに後を任せ、彼の後を追う。
そして知る事になった。
彼の、その異常過ぎる戦闘力の高さを。