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機械人形は人の夢を見るか?  作者: 砂漠鯨
第一章 ~人形は異世界に降り立つ~
3/9

- 平原都市の危機 -

本日3話目となります



 平原都市ベルガナ。

 腕の良い革職人が多数住んでおり、それによって小さいながら都市を維持している町。

 だが、交通の要所から外れている為、訪れる旅人は少なく、その財政は少なくとも裕福ではなかった。

 そんな町に3人の青年達が走ってきた。

 そしてそのまま、町の中央にある冒険者ギルドに駆け込んで行った。




 冒険者ギルド。

 登録する事で冒険者となり、様々な依頼を受けて名声や富を得る事が出来る。

 ランク毎に受けられる依頼にも幅があり、英雄や勇者と呼ばれる人物達もかつては皆、冒険者だった。

 初めて登録した冒険者は皆Gランクから始まり、採取や簡単な討伐依頼を受ける。

 それで一定ポイントを稼いだり、ギルドに貢献こうけんする事でランクが上がっていく。

 そして一定ランクを超えれば徒党ととうを組む事が許される。

 そう言った徒党は、「クラン」と呼ばれ、専用の「拠点クランハウス」や、専門の道具を保有する事が出来る。 

 だが、新設されるクランは少なく、大抵は有名な大型クランに入り、力を付けていくのが普通であった。



 このベルガナにも、大型クランと呼ばれるクランが1つ存在する。

 その名をクラン「平原の月」と言う。

 かつて、ベガンナ大森林に現れた「ゴブリンキング」を倒したとして有名となった。

 クランマスターはそれを豪語ごうごし、いくつもの小さなクランを取り込んでいって巨大なクランになった。



「た、大変だぁっ!」


 リットが冒険者ギルドのカウンターに駆け込んで行く。

 カウンターには数人の冒険者が既にいたが、それに割り込む形になっている。


「コラッ坊主、俺らが今話してんだから列に並べよ!」


「そうだぞ、いくら急いで依頼を受けたいからって・・・」


 並んでいた男達が口々にそう言うが、リットは走り続けた影響で、うまく喋れないでいる。

 それを見ていて、近くのテーブルで酒を飲んでいた集団の一人が、それがリットだと気が付いた。


「リットじゃねーか、ゴブリンの偵察はどうしたんだよ?」


 男が持っていたコップをあおりながら聞く。

 それを受けて、リットが男の方を向く。

 そして、息を整える。


「ご、ご、ゴブリンジェネラルがっ」


 その言葉でギルド内が静まり返る。

 だが、次の瞬間、どっと笑いが起きる。


「リット、吐くならもう少しマシな嘘を吐けよ」


「今時、ゴブリンジェネラルなんて出ね~だろ?」


「確かに、ゴブリンは多いけどよ、ジェネラルが出てりゃもっと数が多い筈だぞ」


 男達がそう言いながら、各々のテーブルで話を始める。


「本当なんだ!」


 リットが遅れてきたキース達を見る。

 彼らもかなりの息切れを起こしており、まともに喋るのは時間が掛かるだろう。


「偵察に行ったら、ゴブリンの集団に追い掛けられて、森の中にジェネラルと群れがいたんだよ!」


「だったら、なんでオメーは無事なんだよ、ゴブリンつったて脚はそこそこ早いんだぞ?」


 酒を飲んでいた男がリット達を見る。

 ゴブリンは別に脚が早い魔獣ではない。

 だが、それでも素人に毛が生えた程度のリット達では逃げ切れない。


「そ、それが変なゴーレムに助けられたんだよ」


 リットの言葉でギルド内にさらに笑いが起きる。

 ジェネラルが出たと言って信じなかった男達が信じる訳がない。


「変なゴーレムに助けられたってんなら、今頃、クリエイターとそのゴーレムで倒してるんじゃねーか?」


「そうそう、それに本当にジェネラルが出たって、平原の月のクランマスターがいりゃ問題無いさ」


 男が言うクランマスターは、かつてキングを倒した事があると自慢していた。

 それが確かなら、ジェネラルも問題はないだろう。

 ただし、それが1匹ならだ。

 ゴブリンは群れで来る。


「統率個体で群れを作ってるんだっ急いで準備しないと間に合わない!」


 必死にリットが説得しようとするが、男達は完全に嘘だと決めつけて酒を飲んでいる。

 説得は諦めるしかない。

 そうなれば、どうするべきか。

 答えは簡単だ、町から避難するしかない。

 リットがキース達を見ると、キース達も頷いている。

 二人も避難には同意見らしく、急いで冒険者ギルドを出ようとする。


「その話、詳しく聞かせてもらっても良い?」


 そんな3人に声を掛けたのは、たった今、冒険者ギルドに入ってきた女性だった。

 長い金髪に尖った耳を持ち、すらりとした体系の女性。


「り、リーディアさん・・・」


 その一言で冒険者ギルドが静かになる。


「統率個体で群れを作ってるって話、どういう事?」


 リーディアと呼ばれた女性がリットに質問する。

 それを受けて、リットは詳しく説明した。

 ゴブリン退治と偵察をしていたら、予想より多いゴブリンに襲われた事、それを謎のゴーレムに助けられた事、その後でジェネラル率いる群れを見た事。

 それを聞いて、リーディアが顎に手を置き、何かを思案する。

 この話が嘘だとして、彼らに得は無い。

 寧ろ、謎のゴーレムと言っている時点で怪しいが、ジェネラル率いる群れは非常に危険だ。


「すぐにギルドマスターを」


 リーディアがそう言うと、周りにいた男達からどよめきが起こる。


「リーディアさん、そんな坊主の言う事を信じるんですかい?」


荒唐無稽こうとうむけいすぎて話になりませんぜ?」


 そう言った男達にリーディアが顔を向ける。


「では、もしこの青年達が言った事が本当だとしたら?」


 その言葉で場が静かになる。

 もし、本当なら、ジェネラル率いる群れが町に迫っている事になる。


「と、とりあえず準備だけしとくか?」


「お、おぅそうだな・・・」


 男達が呟きながら、自分達の武器や防具を用意し始める。

 それを見ながらリーディアが溜息を吐く。

 最近、この町の冒険者達はたるんでいる。

 領主から、各地の様子を見て来て欲しいと依頼を受けて、回っているがここは特に酷い。

 その原因は「平原の月」だ。


 この町にある「平原の月」は有望な冒険者や高ランク冒険者を囲い、自分達の駒にしている。

 それで上納金として依頼の一部を掠め取り、それに逆らえば、ほとんど雑務でしかない依頼しか回さない。

 そうやっていれば、高ランク冒険者は町に寄り付かなくなり、町には怠惰たいだな低ランク冒険者しか残らない。


 今回のジェネラル騒動も、本来であれば報告があった時点で、高ランク冒険者による調査が行われなければならない。

 だが、青年の説得も空しく、男達は動く気すらない。


 領主に報告するにしても、報告に戻っている最中に町が魔獣の襲撃を受ければ、地図からベルガナの町は消えるだろう。

 それ故に、リーディアは町から離れる事が出来ずにいた。



「ホホホ、ゴブリンジェネラルとな?」


 長い髭を蓄えた老人がリットから報告を受ける。

 ゆったりとしたローブから除く腕は細く、杖を突きながら老人がリット達の方に歩み寄って行く。

 この老人こそがベルガナの冒険者ギルドマスターである、ベーム=ガーハイルである。


「見間違いとかではなく、それは間違いなくジェネラルなんじゃな?」


「多分、間違いないと思います」


「本でしか見た事ないけど、かなりの数を従えていた事から、統率個体であることは確実です」


 ベームの質問に、リットとミリィが答える。

 本来、ゴブリンは臆病な性格で、自ら攻撃を仕掛けてくる事はほとんどない。

 だが、統率個体が現れた場合、それが変化する。

 統率個体は群れを作り、臆病なゴブリンでも統率して戦闘集団を作り上げる。

 無秩序な群れなら楽に倒せるが、それが統率されているとなると、脅威度は跳ね上がる。

 

「それじゃ、すぐに偵察に向かわせるとしようかの」


 そう言うと、ペンと紙を取り出して何かを手早く書くと、受付にあったベルを鳴らす。

 それを受付嬢が受け取ると、蝋封して受付の後ろにいた男に手渡す。

 それを懐にしまうと、男は一礼してから部屋を出て行った。


「これで直ぐに調査が出るじゃろ」


「指名依頼ですか、やはり、平原の月に?」


 リーディアの質問にベームが頷く。

 かなり心配であるが、ジェネラル率いる群れを確認し、逃げるとなると高ランク冒険者以外に適任者はいない。 


「そう心配するでない、やる時はやってくれるじゃろ」


「それより、下の冒険者達はかなり弛んでいますね」


 その言葉にベームが頷く。

 実は、リーディアに指摘されるまでもなく、ベームの所にはギルド本部から苦言が来ている。

 有能な冒険者がベルガナの町に訪れた後、本部に苦情を送っているのだ。


「今回の件で少しは引き締まると良いんじゃがの」


 そうでなくては困る。

 リーディアは、自分が何時までこの町にいれば良いのか悩んでいる所なのだ。

 この騒動で、冒険者達が多少はマシになってもらわなければ、次の町に行く事すらできない。


「それと、報告にあった謎のゴーレムじゃが・・・どんなゴーレムなんじゃ?」


「あ、はい、身長は大体、巨人族くらいの大きさで、全身が角張ってて・・・」


 リットが報告を続ける。

 謎のゴーレムは謎の攻撃をし、ゴブリンを殲滅した事。

 その攻撃が行われると閃光と爆発音がする事。

 報告を受けたベームとリーディアが難しい顔をする。


 ベームは人族だが、そう言うゴーレムは聞いた覚えがない。

 そして、リーディアは「ハイエルフ」という寿命が存在しない特殊な種族。

 ただ、不死ではない為、処刑されれば当然、普通に死ぬし、致命傷を受けても死ぬ。

 そして、自ら死ぬ際は服毒自殺をする。

 そんな彼女の知識でも、そんな特徴を持ったゴーレムは聞いた事が無かった。


「取り敢えず、ジェネラルと群れだけに集中するかの」


 ベームの言葉にリーディアが頷く。

 リット達はこの報告の後、一時的に休息をした後、町の避難誘導の手伝いを行う。

 流石に続けて作業させる訳にはいかないだろうとの判断だった。



 リット達が冒険者ギルドを出て、いつも利用している宿に向かう。

 ジェネラルの事を報告する為に走り続けたので、身体は悲鳴を上げている。

 多少しか休めないが、休まずにいるよりマシだ。

 入り口で鍵を受け取り、部屋のベッドに倒れ込む。

 目を閉じればすぐに眠れてしまうだろう。

 だが、目を閉じようとした瞬間、ドアが勢い良く叩かれた。

 それで飛び起きる。


「な、何か?」


 リットがドアを開けながら返事をする。

 するとドアの向こうにいたのは、数人の兵士だった。


「リット=オブライエンだな?」


「あ、はい、そうですけど・・・」


 リットが冒険者カードを出して、兵士に見せる。

 兵士がそれを確認し、リットの方を見直す。


「実は、町の入り口に報告のあったゴーレムが来ているのだが、その確認をして欲しい」


「はい?」


 リットが兵士の言葉を聞き返す。

 あの謎のゴーレムが町に来ている?

 それじゃゴブリンジェネラルと群れは?


 リットが兵士の後に続き、町の入り口に向かう。

 すると、町の入り口付近は既に人だかりが出来ており、兵士が無理に道を作って前に向かう。

 リットもそれに続いて行くが、あまりにも人が多い。

 そして、その人だかりを抜け、一息吐くと視線を向ける。


 そこには確かにあの時、自分達を助けてくれた赤茶けたゴーレムが立っていた。




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