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荒野の魔女と杖と俺  作者: 条嶋 修一
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4 アーレさんと褒めて伸びるタイプ

 俺の身体が木になってるなんて、なんの冗談だ。夢? まだ酔ってる? 幻覚か?


 確かに変なキノコ食べてそれで世界がぐるぐるしてたけど。


「どうしてこんなことになって……」


 木だから動けなかったのか? わからないことしかないぞ。


「ひとつ確認です。タケヒコくんは、もともと木じゃなかったのですね?」


「あ、そうですね。木じゃ、なかったです」

「木になる前は何を?」

「あ、人を少々」


 面接を受けている気分になる。


 二十五年くらいは人としての経歴は少々の域だと感じているけど、この辺りは人によって違うかもしれない。なんの話をしているんだよ。


「……ヒト、ですか」


 一度アーレさんが視線を落とす。しかしすぐに俺の方に向き、頷いた。


「やっぱりヒトの魂ですよねぇ。そんな術式は編んでなかったはずなのに……」

 

 困りました、とまた同じように顎に指を付けて思案している。術式だとかまたなんか怪しい単語が聞こえてきましたよ。

 ここは一体どこなのか。なんで俺が木になっちゃったのか。そしてこの美人のお姉さんは何者なんだろうか。


 おっとり美人が困惑している様子はとても興味深いが、今はその状況を楽しめる気分ではなかった。


「えっと、その。とりあえずですね、動けないんです」


 目下視線さえも動かせない。もっといろいろ見て回りたいんだよ。決してこのお姉さんのことではなくてですね。


「あぁ、そうですよね、木ですものね」

「そうなんですよ、木なんですよ」


 全身の至る所に力を込めてみる。が、やはり動きそうにない。


「どうしても動きません?」


 何故このようになってしまったのか。いわゆるキャトルミューティレーション? のようなことをされたこともなければ、特撮のような改造手術を受けた覚えもないし。ああいうのって記憶消されるんだっけか。


 そもそも俺はあのキノコを食べてどうなってしまったのか。幽体のようなものになっていたのはわかったのだけれど。

 ううん、それもかなり俺の常識からは外れてしまっている。


「ダメっすね。動かないっす」

「うーん。おそらく魔法生物、のような状態なんだと思います」


「ま、魔法……?」


 突拍子もない話でまたもやオウム返しをしてしまう。さっきちらっと術式とかいってたけどもしかしていわゆるあれなのか。


「よくわからないですよね。うん、そうだ。習うより慣れろ、です」


「へ?」


「手を伸ばすように考えてください。貴方の手は、こちらです」


 そういって俺の手のあたりに相当する木の枝を撫でる。

 柔らかな指がなぞるように這い、得も言われぬ感じがした。


 ってこれ、触覚だ。


 触覚がある。皮膚感覚、といっていいかはわからないが、感覚があるのならこれは、俺だ。木の皮が俺であることが認識できてるんだ。


「動いて、って念じる感じでいいのかしら。ちょっとがんばってみて」


「は、はい」


 考えろ。指先のあった感覚を。アーレさんが触っているところが指だと認識すればいいのだ。


「がんばれ、がんばれ」


 なんかこう、とてもいい感じだ。お姉さんに応援されるのって、とてもいいぞ。

 待て待て、集中しろ集中。


 と、俺の指――枝だけど――がピクリ、と反応した。


「あっ」

「う、動きました! 動きましたよアーレさん!」


「やったやったぁ。いいですよタケヒコくん」


 俺の両手(枝)をもってぴょんぴょんと跳ねる。それとともに胸も跳ねている。よくやったぞ俺。褒めてやろう俺。


「その調子で足もうごかしてみましょう!」

「はい!」


「触りますね~」

 どきどきする。生唾を飲み込む、ような感じでじっと待った。


 細くてきれいな指が、俺の腿あたりに触れる。


「あっあっ」

 声がもれちゃいますねこれね。


「大丈夫? 痛かった?」

「いえ、どうぞそのままお願いします」


「? はぁーい」


 いいのだろうか、足を、その、さわさわされるなんて。こんな美人に。お金も支払わずに。


「がんばれ、がんばれ」


 語尾にハートマークつけてほしさある。

 いかんいかん、すぐ思考が脱線する。真面目に動かさないと。


 俺はさっき手を動かしたように意識を集中して、足先に当たる部分に力をいれてみる。


 なんとなく、なんとなくだが感覚があった。これはいける気がする。


「動きそうです!」


 足先から、腿に当たる部分までが、ピクリと動いた。


「わぁ~すごいです」


 おそらく年上であろう綺麗な女性にこうして褒められる。

 いまの状況、手足を動かすのに苦労しているこの状態――困窮する場面であるにも関わらず――、俺は今、とても満足している。


 お姉さんに身体の一部を動かし、それをじょうずと褒められているんだ。


「イエスだね」


「なにか?」

「なんでもござらん」

「?」

「いえ、お気になさらず」


 特殊な環境だからかハイになってるな俺。


 しかし、今この状態。木であるらしいけど、視覚もある。さっき首元にアーレさんが布を巻いてくれたときに感じたが、嗅覚もあるんだ。

 喋れてるんだし、口だってあるのかも。さっきの鏡にはそんなもんなかったけど。


 よくわからない状況でも、一応動けることがわかっただけで、頭のもやが晴れた気がした。


 足に力を込める。よし、これなら――。


 ゆっくりと立ち上がった。


「うお」


 なんかすごい床が遠い。まるで肩車でもされたみたいに、背丈と視線に違和感がある。

「立ち上がれた! やった、これで歩いて――」

「タケヒコくん危な――」

 足を前にだそうとして、盛大に転げてしまった。


 しかも、アーレさんの方向へ。


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