修理
ビルが倒壊しているのをボーッと見てたら横に男の娘が澄ました顔で俺の肩を軽く叩く。
「あのーお客様、これはいったい・・・」
「さてっと、じゃあ新宿戻ってもらえますー」
「えっ」
「まだ走れるでしょ、これ」
そう言いながら男の娘が俺に封筒を手渡してきたんで中身見たら一万円札の束だった。厚さは1センチあるっぽいから百万かな、それが5つ。
「今日の運賃とこれから1週間分の貸切料金」
「修理代も有るんですが」
「大丈夫、大丈夫。こっちで治すから。だから新宿中央公園にいこう!」
500万の貸切料金って有り得ないけど、1日走っても多分20万位かな料金、修理代払ってもお釣りがくるよね。
俺はこの時車の修理について男の娘から言われたことをスッカリ頭からぬけてた。
ボコボコになったタクシーだけど走るのは出来た。
もう、半分自棄になった俺は言われたとおり新宿中央公園に車を走らせた。
「オジサン」
「なんでしょうかお客様」
「お金が余ったらカツラか植毛スルトイイヨ」
「・・・」
好きで禿げてんじゃネーヨ。
いや、オデコが広いだけで禿げてないから、ただボーズ頭にしてるだけだから。
坊主頭はタクシードライバーのファッションだからね。
俺のことを昔、ハゲとか言ってた奴は今は俺よりスカスカだし、いい気味だよ。
ちょっとムカついたけどお客様に反論してもどうせ直ぐ会わなくなるから、仕事が終わるまでガマンしよう。
新宿中央公園の都庁側の暗がりに車を付けると男の娘がちょっと待っててっていって姿を消した。
もうね、お金貰ったからここでお別れでもいいんだけど・・・。
「こっちきてー!」
男の娘が手を振ってるんで車を動かしたら見えない何かに吸い込まれた。
俺のタクシーは新車同然に輝いている。
傷一つないけど、運転席に何やらスイッチが一杯付いててカッコいいディスプレイが見える。
もうこれタクシーじゃないよ。
確かに料金メーターとか無線機とかクレジットカード読取器とか空車表示灯とかあるけど、オレの知ってるタクシーじゃない。
不安になってボンネット開けたらエンジンじゃない訳わかんないモノが詰め込まれてるよ。
これが終わったら頂いた500万で新車を買おうって、それじゃあ赤字じゃん。
こんな車で営業出来ないよ。
車検とか点検とかで弾かれちゃうよ!
男の娘は俺に向かってサムズアップしてるけど、だいたいが君は一体何なんだよーーーーーーー!