お好きにどうぞ
個人タクシーは最低月に1回は営業しないと、休業届けを組合を通して国に出さなきゃいけない。
この1週間普通に営業してない俺。
来週も宇宙人専属営業になってる。
まさか営業報告書にタクシーで空飛んでアメリカ合衆国往復しましたなんて書けない。
「サキさん今日は特に用事はないんでしょうか」
サキさんはコタツに寝転がりながらタブレットみたいなモノでコーデル宇宙帝国の国営放送番組を見ている。
「盆と正月は休みだから」
あるんだ盆と正月、コーデル宇宙帝国にも。
今日は日本の大晦日、夜11時。
俺は神社に初詣でに行くお客様をターゲットに仕事をする事にした。
「鈴木、お前こんな日に仕事すんの」
「タクシーが少ない割にお客様が多いからね、みんな喜んで乗ってくれるんだ」
「実家には帰んないの」
「実家って言っても隣の埼玉だから帰ってもねー」
俺はちょっとうそを言った。実家に帰るよりサキさんといた方が良いよね、普通。
俺も随分変わったのかな。
年越しそばも食べたしエスタロンモカも飲んだ、車の洗車も隅から隅までやった、お節も買ってあるしお餅もある、年越しの準備は完璧だ。
「気をつけてな」
「2時くらいには帰ると思うよ」
「帰ったら一杯引っ掛けて神社に行こうぜ、一度行ってみたかったんだ初詣」
「了解」
俺は久々の通常営業に気を引き締めた。良い年を迎えるには無事故無違反が必須だからね。
こういうときに限ってロクデナシ2人組が手を挙げる。
タクシーは手を上げられたら基本としてお客様を乗せなければ違反となる。まあ、事故防止に気を取られて気づかなかったってこともあるけどね。
かなり酔っ払って行き先も言わないで絡んでくる。
酔うと本性が出るけど本性も何もホストみたいなカッコしたイキったお兄さん達。
「どちらまででしょうか」
「へっへーん、好きなとこ行けよ」
「ぶっ飛ばして走れよな」
「ウヒャヒャヒャ!」
「かしこまりましたお客様、安全のためシートベルトを着用してください」
タクシーが静かに浮かびあがる。
『どちらに参りましょうか』
「好きなとこって言われたから、暖かいとこがいいと思うんだ」
『では、適当に見繕いましょう。無人島などが良いかと』
「いいね!南の島の無人島かー、喜んでくれそうだ」
俺はスイッチを入れた。
2人はシートに強制的に縛り付けられる。
バウンティーハンターが車に付ける基本的な装備で賞金首の拘束に使われる。
驚く2人が罵詈雑言を俺に浴びせるが、高度が次第に上がり東京の街が小さく見え始めると謝ってきた。
俺はお客様の為に最善を尽くす男だ。
タクシーはあっという間に太平洋の無人島に到着する。
誰もいないので一人ずつ車から引っ張り出す。
「では、失礼します」
俺は一応近くの国の日本大使館に無人島の位置と2人の日本人の名前を伝えた。
親切なタクシードライバーだと自分でも思う。
無料海外旅行のプレゼントされるなんてお客様もラッキーだ。
「待ってたよ、さっさと初詣行こうぜ!」
アパートの部屋に入るとサキさんが着物に着替えて待ってたよ。
隣の部屋のお婆ちゃんに着付けて貰ったんだってさ。
美少女が着物を着ると凄いものだよ、目が覚めた。
「今日はお客さんどこまで行ったんだ」
「南のほう」
「長距離だったのか」
俺は料金をもらい忘れていたことをこの時初めて気づいた。
料金貰ったら無料海外旅行プレゼントじゃないからいいのかな。
明後日ちょっと仕事しようっと。




