言葉に出さないと言うこと。
サキさんに渡された服とヘルメット、靴、手袋を装備してキャリングケースを背中に背負ってテロリストの地下アジトに向かう。
身体は光学迷彩服で見えないらしい、靴音は共振する音波を出して消えている。
服が擦れる音も背負っている2つのキャリングケースからも何の音も発生していない。服には簡易的なアシスト機能が有るのでキャリングケースを背負っていても何の重さも感じない。
ヘルメットのバイザーがサキさんを映し出す。
サキさんは見張りを一人ずつ殺しちゃってる。全く躊躇わない。さすがバウンティーハンター、依頼通りに生死は問わないでサッサと片付けいく。
もちろんテロリストが持つコンディションシグナル発信機にダミー情報を流すのは俺の仕事だ。
なんかカッコいい。
後少しでテロリストのアジト最深部。俺とサキさんは近くの部屋に入ると監視カメラとマイクにダミー情報を流してコンバットアーマーの装着に取りかかる。
もう、見慣れたサキさんのお尻が目の前にある。
こういう緊張しているときはエロくないね、全く。
サキさんがレーザーブレードを持って静かに重苦しい鉄で出来た扉の前に立つ。
俺はサキさんから預けられたアサルトライフルを構えてその後ろで待機する。
レーザーブレードは一瞬で扉に切れ目を入れた。
サキさんが切れ目の中心に向かって蹴りを入れると分厚い鉄板が部屋の中にぶっ飛んでいく。
俺とサキさんはテロリストに向けて銃口を向ける。
銃は味方を避けるようにビームを連続的に出し続ける。
部屋中焼け焦げ死体が散乱する。
爆弾のスイッチを入れようとしたテロリストのリーダーに向けてレーザーブレードの光が延びていって手首を切り落とした。
俺は指示通りそいつの止血をしたあと縛り上げて猿轡用の器具を噛ませる。
ちなみにすべて勝手に俺が着ているパワードスーツがヘルメットから送られる指示でやったことだ。
地球は救われた。
でもこれは俺の仕事の範疇を超えてんだけど。
サキさんが警察に連絡するとエレベーターで数人来て処理を始める。
俺とサキさんは光学迷彩服のまま外にでた。
サキさんのコンバットアーマーの胸の部分が大きく動いている。
ふらりと俺に倒れ込んできたサキさん。
嫌な予感がしたんで俺は急いでコンバットアーマーを外していく。
サキさんの顔が見えた。真っ青な色だ。
サキさんの胸が激しく起伏する。
俺は優しくサキさんを抱きしめた。
「怖かった、怖かったよう!」
サキさんの両腕が俺をしっかり抱きしめ返す。
「もう、大丈夫、大丈夫ですから!」
そうなのだ、作戦は薄氷の上を歩くようなものしか立てられなかったんだ。
だからサキさんは肩慣らしして来るとか言って緊張を解していたんだ。
サキさんは何でこんな危険な任務を受けたんだろうと思ったが俺はそれを問う事をしない。
人には色々事情があるってことをタクシードライバーになってドライバー仲間やお客様と接するうちに、よくわからないうちに物事を決めつける事をしなくなった。
おかげで口数が少ない鈍くさいオトコだって言われるけどね。
サキさんは俺の顔をジット見ると俺の傷ついた頬に口づけをした。
オレはパニックになる寸前だった。
だれからも怖がられ更に頬に5センチの長さを越える傷。
俺は生まれてこのかた誰からも口づけされたことも、したことも無かったんだ。
当然、コレからもそんな事は諦めていたんだ。