海神(わだつみ)の花嫁⑥
『ごべんなざい、ぢょうじのっでまじだ……』
「本当にわかってる?」
小一時間後、真夏の浜辺に正座をしながら若干干物に戻りかけているワタツ様が居た。その前には腰に手を当て仁王立ちしているあたしの姿。
ワタツ様の顔はお話のせいかぼこb……少々歪んでいる。涙の跡の肌だけがみずみずしいのが少し滑稽だ。
だがそんなことはあたしの怒りを収めるものにはならない。
『もう、軽々しく嫁をどるどがいいばぜん』
『おぅ、巫女様の嫁を取るとか今度行ってみろ、高天原中の焼きそばファンが黙っていねーからな』
『天津神国津神カレー愛好者連合もな。巫女様の嫁には色んな期待がかかってるんだ』
「ぼ、僕って一体……巫女様の嫁ってどういう認識なの……」
そしてお怒りだったのはフツさんにタケさんも同じだったようだ。主にお話をしたのはこの2人だったりする。もはや完全に胃袋を掴まれちゃってる感じだね。晶、恐ろしい子ッ! あ、困ってる晶もいいよぉ、はぁはぁ。
「で、マイカ様のように無理矢理嫁にしたって娘はいないの? どうなの?」
『ぞ、ぞれば……』
とにかく、あたしの晶をいきなり嫁にしようとするのも気に入らなかったけど、気に入った娘がいれば嫁にしようというのも気に入らない。
だからあたしは他に犠牲になった娘がいないかずずいとにじり寄った。時のことだった。
『ま、待ってください巫女様!』
「す、スッポさん?」
『む、無理やりとかではないんですっ!』
「は?」
『むしろ周囲に押し付けられたケースも多いというか……』
「……どういうこと?」
首を傾げながらワタツ様の方を見れば、同じくあたしと首を傾げている。
タケさんやフツさんも同じように皆が首を傾げている中、ウカちゃんだけが腕を組んでどこか納得したようにうなずいていた。
『眷属になるのが目当てだろうな』
「けんぞく?」
『ワタツ殿は父から海を任されていることもあり、強力な力を持っている。だからワタツ殿に嫁を差し出してその庇護に入っていれば安心だというわけだ。我にも似たようなことがあったぞ。全部断ったが。狐は何も要求しないから、ほっておいたら勝手に住み着いたけどな』
「ええっと、それってつまり……」
『生贄、みたいなものだな』
「『んなっ?!』」
あたしとワタツ様の声が重なる。非常に驚いた顔だ。
ええっと、ワタツ様? 自分で理解してなくて……? ちょっと! 目を逸らさない!
『いやその、周囲とかがすごく喜んでいたから、嫁にするというのは良い事なのかなと』
……なるほど。ワタツ様がこう考えてしまうというのは無理はない。
『ううむ、これはワタツ殿ばかりを責めるのも酷な話だな。実際、力ある神の下に力なきものが助けを求めるのも道理』
『うちも鹿の件もあるしなぁ』
少しばかり理解を示すフツさんにタケさん。
あたしにはよくわからないけれど、中々に難しい事情がありそうだった。
そういわれるとちょっと弱い。しかしワタツ様がマイカさんにせまった事実も変わらない。
『ミヤコ、この件をうまく収めるには……』
ウカちゃん、そんな期待された目をされても困る。あたしに一体何を求めているというのか。
「みやこちゃん……」
だが晶に潤んだ瞳でそう言われれば話は話は別だ。
必死で考えてみる。
つまり、ワタツ様の力が大きすぎるから問題が起こっているということなのかな?
よろしい。
となれば解決策はある。
あたしは大仰に頷いた。
「わかった。いい方法があるわ。ワタツ様の嫁になった種族の代表の方を集めて」
「みやこちゃん!」
『巫女様!』
『おお、ミヤコ、動くのか!』
『よし、ひとっ走り声かけてくる!』
そう、カレーは何もカレーだけが主役じゃないのだ。











