都子ちゃんとおばさんは晶君をもう一度女の子に戻したい
めりーくりすます!
あれから2日後、晶の家のリビング。
「ねぇみて都子ちゃん。こっちが花をイメージしたシリーズで、こっちが制服シリーズ。あ、でもやっぱり一押しはキッチンに立つ制服エプロンかな?」
「お、おばさん?」
「でもドレス類も捨てがたいわ……だってこの非現実感が特別って感じがするんだもの」
「あ、あのぉ……」
あたしは赤く虚ろな目をしたおばさんに、女の子だった晶のアルバムを見せられていた。
ちなみにこれで4冊目だ。
残り何冊あるんだろう?
「聞いてよ都子ちゃん。晶がね、お洋服着てくれないっていうの。サイズが合わないって言うの。おかしいよね? ちゃんとサイズも手直ししたのにね、着てくれないっていうの。おかしいよね? うふふふふふふふふ」
ひ、ひぃぃ、助けて晶!
おばさんが病んでる! ヤンでるよおおお!!
リビングから台所を覗けば、晶が両手を合わせてごめんのポーズをしていた。
あたしとほぼ変わらない背丈。
艶があってサラサラの髪。
女の子の時の面影がある可愛らしくも、少し大人びた顔。
あたしの大好きな男の子。
…………
あ、やばい。
顔をまともに見られない。
胸がドキドキする。
ほっぺに肉まん押し付けられたみたいに熱くなっている。
ええっと、今までどうやって話してきてたんだっけ?
頭がぐるぐる回ってまともな思考で考えられない。
今なんてきっと湯気が出てるに違いない。
「みやこちゃん、どうしたの?」
「にゃ、にゃんでもにゃひっ!」
「にゃんでも?」
あたしの言動に訝しんだ晶が顔を覗き込んでくる。
近い近い近い、近いって!
晶の顔のアップなんて、今のあたしにとっては毒だ。
自分の気持ちも自覚しちゃって、まともに合わせらんない。
おかげで祭りが終わってから、なんとか2~3語を軽く会話した程度だ。
会話しただけでもやばかった。
この2ヶ月で聞きなれた声より少しだけ低い声は、あたしの心によく響いちゃって大きくかき乱してしまうのだ。
困った。
「ちょ、ちょっと思い出したことあるからまたね!」
「みやこちゃん?」
少し悲しそうにあたしを呼ぶ声が、胸に痛い。
あきらの家を飛び出したあたしは、コンビニでマシュマロを買って街外れの神社を目指す。
ウカちゃんに話を聞いてもらうためだ。
「――と、いうわけなの」
『は、はぁ……』
『ケェーン……』
割と真剣に相談したのだが、ウカちゃんときな子から返ってきた返事は呆れ一色だった。
ちなみにウカちゃんはジャージ姿だ。
すっかり気に入って、基本はそれらしい。
「あたしは真剣なんだけど!」
『真剣に惚気られても困るんだけど!』
「う、うぐっ」
きな子が慰めるかのように頭を擦り付ける。
く、このっ!
「女の子の時は気持ちを自覚しても大丈夫だったのに何でだろ……」
『なら、一時的に女に戻ってもらったらどうだ?』
「えっ、そんな事できるの?!」
『もしかしたらだけどな』
◇ ◇ ◇ ◇
「あ、あきらいる?」
「みやこちゃん、それにウカ様も」
再び晶の家を訪れた。
あたしは顔を真っ赤にしながら目線を逸らしてしまう。
カチカチに緊張しながらリビングのソファーに腰掛ける。
いつもどうやって座ってたっけ?
ちゃんと座れてる?
そんなどうでもいい事が気になって仕方が無い。
「えっと、ボクに何か用?」
「う、うん」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
『お見合いかっ!』
「お、おおおお見合いなんてそそそんなっ」
「みやこちゃん、落ち着いて!」
お、お見合いなんてしなくっても、もう晶とはつつつ付き合っているんだしぃ?!
「……」
「……?」
うぅ、チラっと見ただけで、また胸が痛いほど脈打ってきちゃう。
『あぁもう、まだるっこしい! アキラ、試してみたいことがあるんだよ』
「試してみたいこと?」
『そうだ。都子、準備はいいか? そんなに気負うことはない』
「う、うん……」
晶の方を向きなおして……まともに見られないので目をつぶる。
そして、両手を合わせて拝むようにしながら女の子の晶を思い浮かべる。
はぁ、美少女晶尊い。
「え、ちょっと何これ?」
『やはりか!』
「あきら?!」
星のような淡い光を纏ったと思ったら、ポンッと小気味いい音を立て、そこにはここ2ヶ月で見慣れた女の子がいた。
「ど、どどどどういうこと?!」
「ちょ、みやこちゃんが驚いてどうするの?!」
『大丈夫だ、今度は元に戻れと念じてみろ』
「う、うん……」
再度同じことをすれば、またポンと元の男の子にもどる。
「これは一体……?」
『なんというか、アキラは親和性が高かったからじゃないかな?』
「親和性? 女子力が高すぎるってこと?」
『ああ、だからちょっとした切っ掛けで女かもしれないという因果律を呼び寄せてしまう』
後遺症か何かはよくわからないけれど、起点となっていたあたしの意思次第で男女どちらにも出来てしまうそうだ。
……なるほど?
だけど、それなら都合がいい。
「あきら、ごめん!」
「え?!」
ポン、ともう一度女の子に戻ってもらう。
腰まで伸びた艶のあるサラサラの髪。
見下ろせばつむじが見えてしまう小柄な体躯。
そして幼さの残る可愛らしい顔。
この2ヶ月で見慣れた晶の姿だ。
ほら、抱きしめたらすっぽりと腕に収まるこの感覚!
「みやこちゃん、どうしたの?!」
「ええっとですね、男の子のあきらはあたしに刺激が強すぎてですね……あ、この髪とか肌の感覚、たまりませんなぁ!」
「ちょ、ちょっとオヤジくさいよ?!」
ぐりぐりと身体をまさぐりながら、すんすんと髪の匂いを嗅ぐ。
香水はつけてないからちょっとだけいつもと違うかな?
「本当はもっとくっついたりしたかったんだけどね、そのぉ……」
「も、もう……そう言われたら何も言えないじゃない」
「えへへ、ごめんね」
男の子の晶に慣れるまでは、しばらく女の子になったりするのを許してもらおう。
『ええっと、我はいつまでこのいちゃいちゃを見せ付けられたらいいのかな……』
ウカちゃんからの視線が痛い。
だけどもうしばらく晶成分補給を許して欲しい。
「晶! 帰ってきたのねっ!!!!!!!」
「おばさん?!」
だがおばさんは許してくれなかった。
その目は生き生きと輝いており、鼻息も荒く、天元を突き抜けた興奮が嫌でも伝わってきて、そしてその動きは全く見えなかった。
「さぁさぁ! 一体どこ行ってたの?! 女の子が1人歩きなんて危ないでしょう?! めっ!!」
「待って、母さん! 昨日も一緒にいたし、ボクが夕飯作ってたでしょ?!」
「うふふ、新作もいくつか作ってたの! ほら来て! いっぱい着てもらうのがあるの!」
「聞いて?! 話を聞いて?!」
まるで人攫いに連れ去られるかのよう行ってしまった。
『あ、あれは……』
「触らぬ神に祟りなしよ」
『そ、そうか』
…………
この後、あたしと晶と正気に戻ったおばさんとで協定が結ばれたのであった。
晶女子化時間協定。
そこに本人の意思は微塵もなかったとだけ記しておく。











