表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/166

Epilogue:少女は燃え滾る『信念』を身に宿す

「―――って事で、アイツらはさっさと国から出て行っちまったってわけだ」

「……何じゃ、何かと思えばあの時の話か」


 退屈そうに不機嫌な声を出しやがって……!

 オレが話している間に手足の調整を終えたじじいは、今度は銃の手入れをしている。

 やべぇぞ……! あれも終わっちまったらマジで金がとられちまう!


「お、おい! じじいがいなかった時のことも話しただろ!?」

「あやつらが強いことなど、ゴーレムを止めたところだけでも十分わかっとったわい」

「あのデカブツを実際に止めたのはオレじゃねぇか!」

「何を偉そうに、その武器を作ったのはわしじゃろう」

「うっ…!」

「全く……それだけなら金を払って貰わねばのう」


 ゴーレムを止めてアイツらと別れたあの後、姉ちゃんに心配かけた旨を言いに行ったことでも言うか……?

 いや、あれは流石に言いたくねぇ。

 オレの手足を見た途端に一発叩かれて、怒鳴りつけられた後に大泣きされたなんて、ホント恥ずかしすぎる。

 その後でじじいへと会いに行ったら「何があってもわしの事を誰にも言うな」と口止めしやがって。

 その代わりに、手足の修理や改修、新品の交換をいつでも受け付けると約束したのはしたけどよ……。

「誰も料金を取らんとは言ってない」とか言いやがった。

 いや、おかしいだろ! 普通人に頼みを聞いてもらったらそれなりの事をするだろうが!

 とは、とてもじゃねぇが口が裂けても言えなかった。

 言っちまったら、オレが嫌いなあいつと同類になっちまう。それだけは死んでもゴメンだ。

 勿論、オレは専属騎士だからそれなりに給料は入る。

 けど、それだけじゃ足りねぇほどの料金を払わねぇと手足のメンテナンスすらやらねぇのはマジで勘弁してくれ。


「さて、そろそろメンテナンスも終わってしまうの」

「ちょっ!? ……いや! まだオレの話も終わってねぇって!」

「何じゃ、まだ続くのか」

「実はアイツら……ライトとバリューが国から出る前に、また会ったんだ」


 じじいの手がピタリと止まった。

 くっそぉ、いいように弄ばれちまっている気がしやがる。

 けど、金が無くなっちまうよりも全然マシだ!


「……ほう、それは少し興味があるわい」

「だろ!? あいつらが玉座に来た次の日、オレはまた《カッパー》の巡回に行ったんだけどよ―――」


 *


「今から国を出るのか?」


 新品の服を着たライトと相変わらず鎧姿のバリューは、まるでブロウを待っていたかのように、初めて出会った“暗部”出入口付近の広場で立ち止まっていた。


「ああ、待っていたぞ、ブロウ。ここならすぐに気付くと思ってな」

「ちょっと来るのが遅くない? 待ってる側の気にもなってみてよ」

「いや、待っているなんて聞いてねぇし……。何か用でもあったか?」


 来るかどうかわからないというのに、この場所でずっと待っていたことを不審に思いながら、ブロウは再び問いかけた。


「ああ、言い忘れていたことがあったんだ」

「枢機者様とおじいさん、あとブロウに」

「……オレに?」


 想定もしてなかったのか、自分で自分を指さす。

 落ち着けと言わんばかりに、ライトはその態度を右手で制した。


「とりあえずブロウへの話は後で、だ。枢機者様に伝えて欲しいことがある」

「後かよ。ま、いいけど。で、伝えてほしいことって?」

「私たちの身分、『十忠』であることは他の誰にも話さないでほしいの」

「俺たちは訳あって身分を隠して旅をしなければならないんだ」


 枢機者の口から二人の身分がばれてしまったら、二人だけでなく主にも危害が及ぶ可能性がある。

 それを考慮するための口封じだった。


「なんだ、それくらいなら任せろ」


 玉座で話し辛そうにしていた二人を思い出し、ブロウは快く承諾する。

 騎士ってヤツはめんどくせぇんだな、と内心では思いながら。


「ありがとう。次におじいさん。あの人が来なかったら、少なくとも私たちにゴーレムを止めることは出来なかったから、その感謝を伝えてほしいの」

「それと枢銃をお借りしますと言っておいてくれ」


 戦闘の後意識を失った二人は、老人に会うことなく病院へと運ばれている。

 その際伝えられなかった感謝の言葉を代わりに伝えてほしいとのことだった。


「そりゃあいいけど……」


 ブロウも疑問に思っていた()()()()を聞くため口を再度開く。

 老人の正体が何者なのかと。


「やっぱ初代クラッドレインなのか? あのじじい」

「恐らくな。お前の手足と、あの煙突が何よりの証拠だ」

「そいや、あれって結局何だったんだよ?」

「アントに殺されかけた時、自分の心臓と蒸気機関を合体させたんだろう。そうでないときっと生きていない」

「そうか……」


 その時、ブロウは自分の方へと微弱ながら風が吹いた気がした。


(ん?この感じ―――)


 ブロウは初めてレプリカに会った時、何かを感じとったことを思い出す。

 それは名前が分からず形容しがたい圧力。

 ブロウはレプリカの、『王の威光』の威圧力を初めて会った時から感じ取っていた。

 そして今、ブロウへと向き合う二人から、それに近い何かが発せられているように知覚する。


「最後にブロウ、二つだけ言わせてもらうぞ」


 そう言った二人の表情は、ブロウが見たことが無い程に真剣だった。


「俺たちのようには決してなるな」

「一国の騎士である前に、ブロウ・ガルディンという一人の人間として、自分らしく生きて」


 二人が発した言葉は勢いがあり、ブロウは呑まれるような感覚を覚える。

 それはまるで、目の前にいる二人が今まで経験してきたことのすべてを否定するかのような……。


「それってどういう―――」

「悪いが後は自分で考えてくれ」

「用意してくれた船の便に間に合わせるためにも、私たち急がなきゃいけないから」


 そう言った二人の後ろから、吹き飛ばされそうなほど強い風が吹き荒れる。


「おい……っ!?」


 思わずのけぞったブロウが体勢を戻した頃にはもう、二人の姿はどこにもなかった。



 *



「……そうか、彼らはそんなことを言っておったか。……まあ、それを聞けただけで今回はまけてやるわい」


 そういって溜息を吐いた後、ムッとしてやがった表情を崩したじじいは優しげに微笑んだ。


「……やっぱ似てんな」

「何か言ったか?」

「いや? 何も言ってないぜ?」

「ふむ……。少し聞きたいことがある」

「な、何だよ」


 急に顔を近づけんじゃねぇよ、煙突から出る蒸気が熱いんだっつーの!


「おぬしは武器の扱いが非常に良い。だからこそ今回の傷つき具合は看過できんな」

「あ、そ、それは……」


 やっべぇ……! 調子に乗りすぎて壊しそうになっちまった部分がバレちまったか……!


「もしや、またあの時のように無謀な真似をしてはなかろうな?」

「あたりめーだろ、あんなバカみたいな真似なんて二度としてたまるかっつーの」

「それなら構わんが……あ奴らのような愚か者が現れた時におぬしがいなければ、《カッパー》は今度こそ滅ぶことを覚悟しておくようにな」

「……わかってるっての、それくらい」

「とはいえ、あ奴らを一方的に悪く言ってもよろしくは無いな。ちいと調べたが人生を狂わされておった被害者じゃったみたいだからのう」

「被害者だからって何やってもいいわけじゃねぇだろ。ったく、普通なら家族の誰かが注意しなきゃならねぇってのによ。()()()()()()()()()()()()()()とか、わけわかんねぇっつーの」

「ふむ、確かにおぬしの言う通り……いや待て、今何と―――」

「ん? ……ああ、そういやじじいには言ってなかったっけか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なんつーか、元家族だったからか知らねぇけど感覚的にそうなんだと察したんだよ」


 ホント、わけわかんねぇけど、わかっちまったもんはしょうがねぇだろ?

 それに自分の家族を手にかけたなんて言われても、親なんていないような状態で育ったんだぜ?

 むしろあの場で止めといて正解だったろ。

 ……自分の手で止めることが出来たってことで、ちょっとだけホッとはしているんだけどな。


「つらくは無いのか?」

「つらい……? んなことはねぇよ。オレは独りじゃねぇって分かってるからな」


 ウザったらしい枢機者様にめんどくせえ専属騎士の二人、心配性すぎる姉ちゃんや“暗部”のジジババとガキ共……それにじじい。

 アンタらがいる限り、オレは独りなんかじゃねぇからな。


「それに、オレが抱えていた事情ほど下らねぇものなんてねぇよ。おきちまったことにいちいちくよくよしてる余裕なんてねぇんだ。今オレに出来ることを死に物狂いでやる。それだけで十分だっつーの」

「そうか……うむ、それこそが是なのかもしれんな」

「っと、ヤベェ。そろそろヤツらの取引が始まっちまう! じゃあまた後でな、じじい!」

「こ、これ! 待たんか、おい!」


 料金はタダになったみてぇだし、修理もしてもらったからさっさと出なきゃな。

 時間がヤベェのもそうだし、寄らなきゃならねぇ場所もある。

 うし、飛ばすか!


 軽くスリムになった蒸気機関の足裏から蒸気を噴き出してオレは跳んだ。


 *


「まったく、いつまで経ってもそそっかしいのは変わらんな」


 出入口の扉を開けたまま飛び出していったブロウを見送りながら、老人……ミスモッグ・クラッドレインはグチグチと悪態を垂れる。

 自分があれくらいの時はもう少し人の話を聞いていたと思うのだが、と頭を回すが、いまいち思い出すことが出来なかったのか、すぐに思考を止めた。


「それにしても、子供の成長とはこれほどまでに早いものじゃったかのう」


 嬉しそうに、だが何処か寂しそうにポツリと呟く。

 返事は無い。が、元気の良さを象徴するかのように、蒸気脚から勢いよく熱を噴出する音がミスモッグの耳元へと届いた。


 *


「よう、悪者のくせしていいところに埋められてんじゃねぇか。ちょっとは反省してるかよ?」


 オレがやって来たのは《カッパー》の中で唯一植物が生えている暖かい場所。

 まあ、あれだ。ちょっとした丘みないな感じのとこだよ。

 んで、そこにある小さな墓の前に立った。

 この墓の下には、悲劇的な人生を送った一家が眠ってる。

 正確に言うんなら、根元が欠けたナイフと砕けた水晶が入った箱を胸に乗せたガキが寝てやがる。


 実はこの墓、オレが全く知らねぇうちに作られてやがった。

 考えるまでもねぇ、造ったのはもちろんアイツらだろう。

 それも、せっかくもらった報酬のほぼ全てを使い切っているっぽかった。

 まったく、バカな奴らだ。

 あれだけありゃあ、快適な馬車旅も出来ただろうによ。


 それと、これはオレが後から入れたものだが、オレの愛銃である蒸気ライフルも墓の中で眠ってる。

 邪魔者を狙撃し続けてたこともあってから、熱で砲身がおじゃんになっちまったからだった。

 普通だったら使えるもんは取り外してスクラップにすんだが、そのまま埋めちまった。


 ……あの銃はオレが初めて自作した銃だった。

 で、何を思ったかそのパーツの一部として、オレの本名……グレイシャ・アイナスの名が彫られている首飾りを使っちまったんだよな。

 きっとバカなオレのことだから、過去との決別を兼ねてやっちまったんだろう。

 ―――そのせいで、なおのこと手放せなくなっちまったってのにな。


 でも、もう使えないのなら……いや、寿命が来たんなら寝かせてやるべきだと思った。

 今度こそあの時のオレへと別れを告げるために。

 今のオレはグレイシャ・アイナスじゃねぇ。

 ローア姉の妹で『十忠』のブロウ・ガルディンだ。

 グレイシャはコイツらとゆっくり眠っていりゃあいい。


 コイツらを家族だなんて思うことはこれから先、一生ねぇだろう。

 けど、血が繋がっていることだけは、どうしようもない事実だ。


「オレなら大丈夫だからよ、安心して眠ってろ」


 もう、ここに来ることはねぇ。

 だから、これだけは言っといてやる。



 ―――さようなら。お母さん、お父さん、弟くん。

 わたしはわたしらしく、精一杯生きるから、心配しないでね。



「……うし、こんなもんでいいか」


 らしくねぇ合掌を終わらせて、目的地へと目を向ける。


「しゃぁっ! 今日も一丁働いてやるぜ!」


 やっぱ気合を入れるには大声で叫ぶのが一番だな。

 やるべきことも終わらしたし、今日も一仕事やってやるさ。

 そんなことを思いながら、今日の対象を探すため狭く汚い《カッパー》を見渡す。


 確かにオレは、誰から見ても騎士であるとは思えないようないでたちだ。

 だが、そんなことは関係ねぇ。

 誰に何と言われようが、オレはオレの意思を貫き通す。

 悪党を懲らしめ、弱い者たちを守る。

 そのために『十忠』は決して辞めねぇ。

 オレはオレらしく、あるがままの姿でこの国を変えてやる。



 それがオレの……『炎熱のガルーダ』の『信念』だ。

お疲れ様です。影斗 朔です。

約四か月……四十四話に及ぶ長編となりました『信念の話』ですが、今回で漸く幕引きとなります。


主人公であるライトやバリュー、『信念』の十忠でまだ年若いブロウ、敵であるアントやゾウ、名もなきゴーレム、枢機者レプリカと専属騎士のノエルやカトレア、“暗部”の女性ローア、そして老人……ミスモッグといった様々な人物たちの信念と意志を感じ取ることができたのならば、これ以上の幸福に勝るものはありません。


さて、今回は様々な人物の信念について描いた物語となりました。


信念……それはどのようなものだとしても、善悪や成否を何者かが口に出来るようなものではありません。

抱いたそれの善悪や成否を決めるのは、自分しかいないのです。

それ故に、誰かが信念を与えてくれるわけでもありません。

与えられた信念に縋っているだけでは、成長することも出来ず、自身がしたかったのはこんなことではなかったのにと苛まれてしまいます。


信念とは、はっきりと言ってしまえば欲望や野望といったようなもの。

自らの心の内に秘めた、何物にも代えがたい思いこそ信念と呼べるのだと、自分は思っています。

……実は自分もつい最近まで気付くことが出来ませんでしたが(汗)。


読者様にとって『信念』とは何でしょうか?


この物語が少しでもその導きのお役に立てたならばこれ以上の喜びはありません。


それでは、皆様により良い日々が訪れますように……。



次回、この物語の一つの区切りとなる話を投稿します。


彼らの前に現れるのは、かつて対峙した最狂の敵。

明らかになる三国大戦の全容。

そして、レイジがライトたちへ最後に託した願いと、二人が彼を慕い続ける理由とは……。


【第一節:徒然編】を締めくくる話となっています。

期待してお待ちいただけたら幸いです。



おまけ

実はこのお話、ハーメルンの方に前掲がありこちらで改稿版を投稿しているのですが……改稿前から比べると倍を超える文量に増えていたりします(苦笑)

文章表現もより良くしたいものですが、もう少し文量も考えなければならないかもしれませんね……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ