ブロウの正体とレプリカの本性
※注意
軽いGL要素があります
「はあああああああああ!? 嘘だろ! なんでアンタはオレが女だって知ってんだよ!?」
「え? ……え!?ブロウが女の子!? そうなの!?」
「……いや、寧ろ男だと思う方が俺にはわからない」
噛みつくような勢いでレプリカに食って掛かっていたブロウはさておき、驚きでつい素が出てしまっているバリューへと、ライトは呆れがちに返事をする。
確かに見た目だけでは性別を判断するのは至難の業だ。
ブロウのような子供ならば尚更分かり辛いだろう。
だが、女、子供、老人で構成されている深部へと自由に出入りできるということを考慮すれば、女だろうなと察しが付くものだ。
ライトに至ってはこれが二度目なのだから、もはや性別を誤魔化されても見破れないことなどなかった。
……とはいえ、初対面の人物ならばブロウの性別がわからなくてもおかしくはない。
しかし、レプリカはどうやら出会った時からブロウが女の子であることを知っているようだった。
「……なぜ、貴女はブロウが女だとわかったのですか? 貴女は深部がどのようになっているのか、どのような人が住まうかを知らないのでは?」
「ふふん。万民の目を誤魔化そうとも、わたしの目は誤魔化せないよ。なにせ、私にはクラッドレインの血が流れているからね! どんな格好をしていても女性かどうかわかるのさ!」
自慢げに語るレプリカは相変わらずブロウを抱きしめたままだった。
ブロウはどうにか脱出しようともがいているが、もがけばもがくほど抱きしめる力が強くなっているように見える。
「まるで、女性ならいかなる場合でも見逃さない家系とでもいいそうな謳い文句ですね……」
「女性を見逃さない家系? そんなことはないさ。クラッドレイン家の男だったらきっと男性を見逃さないだろうね」
「……ん? それは―――」
ライトが発した呟きを見逃さなかったかのような反論は、ちょっとした暴露になっていた。
先ほどまでの話に一切入ってこなかったバリューが、驚きのあまりはっと頭を上げる。
早い段階で想像がついていたライトにとって、その態度は怯えから来ているようにしか見えなかった。
「察しがついたみたいだね。そう、我が家は元々から同性愛者の家系なんだ。同性を見抜く程度のこと、出来て当然じゃないかな? まあ、国を建てている以上、血を絶やす訳にはいかないので、我ら一家が親友といえる異性と子を成すことを妥協していたが、わたしたちが真に愛していたのは同姓なんだよ」
玉座はまたしても静寂に包まれる。
しかし、その無音状態が破られることは無かった。
……窒息したのだろうか? ブロウはレプリカの胸に顔を埋めピクリとも動かない。
バリューは相変わらず無言を貫き通していたが、おそらく今しがた気が付いたのだろう。
城内では殆ど人に会っていなかったが、出会った人は確かに皆女性だったことを。
もはや言うべき言葉がなくなってしまったライトは閉口し、誰かが言葉を発するまで待機していた。
「……満足したか?」
沈黙を破ったのはまたもブロウだった。
反抗することを諦めていたうちに、ようやく腕の力を抜いてもらったのだろう。
「うん。少しは満足したよ」
「これで少しかよ……」
満足げに玉座に座り込むレプリカに対し、ブロウは今にも倒れそうな憔悴しきった表情をしていた。
「もしかして貴女は、この城に務めさせている者全て女性限定にしているんですか?」
ライトが問いかけると、レプリカは満面の笑みで返事を返す。
「ああ、そうだよ。ここがわたしの理想郷! 給仕も騎士も全員女性! 明日は誰と夜を共にするか考えるだけで……ぐふふふ……!」
「うわぁ……」
「なんであの時、オレはこんなやつの下についちまったんだ……」
あまりの豹変さに理想像が砕かれてしまったバリューはただただドン引きし、どうにか解放されたブロウは、女性が出すような声とは思えない下品な笑い声をあげるレプリカを見て、ついに参ってしまったのか床に座り込んでしまった。
「ただ……」
ほんの少しだけレプリカの表情が曇る。
「見ての通り、ここはユリの花園というわけなんだけれど、そこに虫が湧いたら誰だって嫌だろう?本当はこの城に男は入れたくなかったんだよね……」
「それなら、今すぐ退城させていただきますが……?」
もはや呆れを通り越して失望の目を向けていたライトはレプリカへと提案する。
むしろ彼としては、早くこの環境から出ていきたいと思っているのかもしれない。
「いやいや、この国の恩人にそんな無礼なことをするわけにはいかないよ。それにライト君はここの者へと欲情していなさそうだから、特別に許可してあげよう」
「流石に貴女から欲情うんぬんを言われたくないですね……」
どんな相手にも臨機応変に対応することはライトの得意分野の一つなのだが、流石に枢機者相手だと困難なのか、それとも人格的に苦手なのか、言葉に力がなくなり口数もだんだんと少なくなっていた。
「さて、もう質問コーナーはいいかな。この調子だと聞いている君たちがくたびれてしまいそうだ」
すでに疲労感が押し寄せていると言いたそうである三人をさておいて、レプリカは相変わらずいたずらっ子のような笑みを浮かべたままだった。
「そうだ、『くたびれて』で思い出したよ。えーと……」
どこにやったかな? と呟きながら、レプリカは玉座の裏に回り込む。
「……? 何やってんだ?」
「この辺りに隠していたものがあってね……あった!」
(隠していたというよりも、散らかしていたものを治し忘れていたんじゃねぇか……?)
などと訝しむブロウをさておいて玉座と床の間へと手を伸ばしていたレプリカは、目的のものを見つけたようで勢いよく手を引き抜き、ライトの前へと移動する。
「これをライト君にあげよう、型は古いがまだ十分機能する枢銃だ。わたしの旅を最初から最後まで見守ってくれた物であり、両親の形見でもある」
「大切なものなんですよね? 流石にそれは……」
「『草臥れ、壊れかけた代物ほど、進歩への足掛かりとなりうる、価値ある素晴らしい物だ』っていうのが初代の謳い文句でね。君たちの旅に役立てば、こいつも本望だろうさ」
形見と聞き、遠慮がちしり込みしていたライトはあっという間に左腕を手に取られ、その手に枢銃を握らされた。
「次立ち寄った時にでも返してくれたらいいよ。何なら返してくれなくてもいいんだけれどね?」
そういってにっこりと微笑むレプリカに、ライトは何も言い返せず俯く。
ここに立ち寄る機会などそう訪れることはない。
騎士であろうとなかろうと、二人が旅をするのは使命を果たすまでなのだから
「まあまあ、そう硬くならない。わたしとしてはこれから先使うか分からなかったものを、ただ使ってくれたらいいなと思って預けただけなんだから」
「……わかりました。必ず返しに来ます」
「そう? じゃあ、その時にはわたしも所帯を持っているかもしれないし、子供がいたらそいつに渡すことにしようかな」
ライトたちが入ってきた扉へと目を向けたレプリカは、何処か嬉しそうな表情をしていた。
「『物はいつか壊れて失われるだろう。いざという時の助けにもならないだろう。それでも、それがあったことは無意味ではない。未来を形作るための重要な足掛けとなる』―――初代はきっと物を誰よりも大切にしていて、そこにたどり着いたのだろうね」
レプリカが眼差しを向けていた方向へと、ライトたちも目を向ける。
入ってくるときには気づかなかったが、扉の両隣には二つの肖像画が掛かっていた。
そしてそのうちの一つを見て、二人の口からあっ……と声が出る。
一つはレプリカ・クラッドレイン本人の肖像画。
もう一つは顎髭を蓄え、優しそうな笑みを浮かべる老人。
―――彼らはその老人を知っている。
顔の半分が蒸気機関と化していたが、肖像画に描かれている人物は紛れもなく、ブロウの手足に蒸気機関をくっつけたあの融合師の老人だった。
「ん!? 初代のことを知っているのか?」
「いえ、知っている人と顔が似ていたので……」
「ふうむ、そっくりさんの出現ねぇ……。全く、姿を消した初代クラッドレインは自らの足跡は殆ど残さないにも関わらず、問題しか残さなくて実に厄介だなあ」
参ったものだと言いたそうな顔で首を竦めるが、まんざらでもないのかその顔には笑みがあった。
「……おい、そろそろ会議があるんじゃなかったか?」
「おや、もうそんな時間か。名残惜しいけれど、そろそろお開きにしようかな」
座り込んでいたブロウはいつの間にか立ち上がっており、いつの間にかその手には似つかわしくない書類の束が握られていた。
「…ブロウが専属騎士としてしっかり働いている姿をこの目で見ても、未だに信じられないな」
「ふん、オレだってやるときはやるんだよ」
得意げになっているブロウを、レプリカは慈しみがこもった目で見つめていたが、当の本人は全く気付いていなさそうだった。
「君たちはこれからどこへ行くのかな?」
「任務なのでそれは言えませんが、ここから東南方面へ向かいますね」
うんうんと頷きながら聞いていたレプリカは、南東と聞いてはたと動きを止める。
「ん? それなら、大陸間を渡る船が必要だろう?」
「…確かにそうだが」
南東へ向かおうとすると、どのような経路を取ろうが泳いで渡るにはあまりにも大きすぎる大海へとぶつかってしまう。
そのため、ライトたちは海岸線を歩き回り、大陸間にある大海を横断する船がある港町を目指す必要があった。
それを聞いたレプリカは怪しげに微笑む。
「よし、その船、わたしが手配させてもらうよ」
「……俺たちのためだけにいいんですか?」
「未曽有の危機から国を救ってくれた恩だよ。それに、君たちに手配するのはうちがスポンサーである客船の一室だけで、別に船そのものを手配する訳ではないのさ。……それとも、余計なお世話だったかな?」
ニヤニヤと笑うレプリカにライトは訝しげな視線を送っていたが、バリューはあまり気にしていないようで……。
「……いや、助かる。ありがたく足として使わせてもらう」
と言ってあっさりと提案を受け入れる。
何故か分からないがレプリカは少しばかり納得のいかない表情をしていた。
「……ねぇバリューちゃん」
「…ちゃんと言われるような年齢ではない」
「いい加減その話し方止めたら? せっかくの可愛らしい声が台無しだよ?」
「かわっ!? ……い、いや、私はこのままでいい!」
「えー? そう?」
「……バリュー?」
「だ、大丈夫だ、何の問題もない!」
女の子扱いされることにまるで慣れていないかのような慌てっぷりに、流石のライトも困惑を隠せない。
火種であるレプリカはその様子を、面白いものを見たかのように顔を緩ませていた。
「それでは失礼いたします」
「近くに来たら城に寄っていいよ。君たちならいつだって歓迎するさ」
「―――そういえば」
玉座を出ようと扉に手をかけたライトは、聞き忘れていたことを思い出した。
正直どうでもいいことに近いことではあったが、ここまで来たのだから一つぐらい聞いてもいいだろう。
なんて、彼にしては珍しく図々しい考えで声を掛けた。
「最後に一ついいですか?」
「何かな? わたしに答えられることだったら何でも答えてあげるよ。あ、でも好みのタイプとかは流石に―――」
「いえ、それはどうでもいいです」
「どうでもいいって初めて言われた……」
まるで打ちのめされたかのように大袈裟なリアクションを取るレプリカを無視して、ライトは問いかける。
「オレと、どこかで会ったことがありませんか?」
態勢を元に戻したレプリカの目がすっと細くなった気がした。
「ライト君にかい?」
「―――はい」
レプリカがライトの質問の返事をするため口を開く。
その時間はとても短いはずなのに、ライトにはとても長くまるで焦らされているのではないかと思うほどに、長く、長く感じた。
「いいや、君とわたしは初対面だ。今までに一度たりとも会った覚えは少なくともわたしには無いよ」
「そう、ですか……」
「むしろ、ライト君はわたしに会った覚えがあったり?」
「わかりませんが……おぼろげながら、その瞳を見たことがある気がするんです」
「うーん、ごめんけどわかんないな。ちょっと記憶を探ってみようかな」
肩を落とし気を沈めていたように見えたのか、レプリカはむむむ……と唸り声をあげて考えこもうとする。
その様子を見たライトは慌てて制止する。
「いえ、覚えがないということは会ったことがないということなのだと思います。変な質問してすみませんでした」
「いやいや、別に構わないよ。それよりも、渡した銃を返すためじゃなくていいから、たまにはこの国に来てよ。国王としてしっかりともてなしてあげるからさ」
「絶対来いよ! 今度は負けねぇからな!」
手を振るレプリカとブロウへと二人は一礼して、静かに玉座の部屋を離れた。




