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枢機者 レプリカ・クラッドレイン

「ほら、突っ立ってないで、さっさと中に入りなさい」


 ノエルが発した一言で、二人ははっと我に返る。

 その時には幾分か『王の威光』が和らいでいるように感じた。


「失礼します」

「…失礼する」

「おっ、来たか。あれからどうなったのかと思ったが、無事だったみたいだな」


 一礼して、ノエルたちの後から玉座の間へと入ると同時に気安げに声を掛けられる。

 どうやら玉座の右隣に立つ騎士のような容姿をした者が発したらしいが……。

 左腕と右足だけ形が異なっている見たことのない鎧を身に着けている人物は、よくよく見ると《カッパー》で出会った()()()だった。


「どうにかゴーレムを止めることが出来たんだな、ブロウ。手足の形が変わっているから、お前だと一瞬わからなかったよ」

「おうよ。ま、何がともあれあんたらのおかげだ。感謝するぞライト、バリュー」

「…当たり前のことをしたまでだ。褒められるようなことではない」

「あんたは相変わらず愛想がねーよな」


 バリューの言葉に呆れたのか、ふん、と鼻息を立てる。

 それでも、満更でもない表情で二人へと不敵な笑みを浮かべていた。


「レプリカ様、恩人ではありますが礼節を知らない不届きな二人組を連れて参りました」

「二人とも怪我の治りや、体力の回復には問題なさそうです」

「それは良かった。少しぐらい長話できそうだね」


 始めから長話をする気しかなかったような事を言いながら、レプリカはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。


「ああそれから、二人は休憩に戻っていいよ。護衛はブロウに頼んでいるから」

「……はぁ!? ブロウに任せているんですか!? それなら―――」

「それなら何も心配いらないですね。ほら、行くぞ」

「納得いかない! なんであたしじゃなくてブロウなのよ!!」

「残念だったなノエル! なぜか知らねぇけど今日はオレが専属の日らしいぜ!」

「何よそれ! 聞いてないってば!! こいつらにもいろいろと言いたいことがあったんだけど!!」

「まあまあ、落ち着け。当番はどうしようもないが、彼らとはまた会う機会があるだろうさ」


 間に入ったカトレアは、口論を始めた二人を落ち着かせようとする。

 だが、諌めようとしたその言葉にライトは引っ掛かった。


「会う機会がある? それはどういった―――」

「なに、遠征する機会もあるというだけの話だよ」

「なるほど、専属騎士が三人もいるのはそのような理由でしたか」

「わかったらさっさと出るぞ、ノエル」

「ぐえっ!? ちょっと―――!? 分かった! 分かったから引っ張らないでってば!!」


 口喧嘩を止めるのは無理だと悟ったのか、言い争いに熱中しているノエルのフードを掴み、ぐいっ、と上に持ち上げる。

 カトレアに首根っこを引っ掴まれ、身動きが取れなくなった彼女は、なすすべなくその場から退場した。

 その様子をざまあないぜ、と言いたげにブロウはニヤニヤと笑いながら見ていた。

 ……何かしらの恨みでも持っていたのだろうか?


「……」

「……」

「いやあ、彼女は見ての通り口は悪いんだけど、実は心配性でお節介なところがあってね。私の顔に免じて許してほしい」


 そして、放置されていた二人は、まるで我儘を言う子供を連れていくかのような光景に唖然としていた。


「さて、早速だが本題に入るよ。ブロウも少しの間静かにね」


 レプリカのその一言で、その場が急に凍り付いたかのように静まり返る。

 やはりレプリカ・クラッドレインは常人ではないとライトは再確認した。

 戦闘技術や国を興す力は、はっきり言ってしまえば先人から学び、努力することで必然的に身につくものである。

 しかし、威圧力や言動はその限りではない。

 それら『形容しがたい権能』はそれ相応の才、又はそれ相応の何かを成しえたことによって得た才がある者にしか発することのできない力である。

 つまり、それを持ち合わせる枢機者は、権能を自在に操れる人格者だった。


「このたびはカッパーとハーツで起こりそうになった未曽有の危機を、わたしの騎士であるブロウと共に脱してくれて礼を言わせてもらおう。勿論、報酬も相応のものを用意させてもらっている」


 謝礼言葉のテンプレート。

 どういった場合でもそうだが、これらは相手からの印象を良くするための前座に過ぎない。

 それは、たとえ一国の王だとしても変わらないだろう。


「また、これは提案なんだが―――」


 やはりと言うべきか、レプリカは感謝の言葉を二人に告げるだけではない。

 そして、その口から放たれる言葉を想定することは、そう難しくなかった。


「君たち、この国の騎士として私に従える気はないかい?」

「「……」」


 一言も発言しようとしない二人が困惑していると思ったのか、レプリカは矢継ぎ早に言葉を続ける。


「勿論ただでとは言わない。給与は弾むし、居住地もいいものを用意できる。武器も新しいものに取り換えよう。他にも要望があったら叶えられそうなものは叶えさせてもらう。どうだ、これ以上にない提案だと思うが」

「いえ、お断りします」

「…同じく、断る。」


 当たり前のように二人は即断した。

 レプリカは驚いたのか、パチパチと瞼を閉じたり開いたりし、ふうむ……と、そのまま言葉を濁らせる。

 もはや隠し事は無駄だと悟ったのか、言い淀んでいた言葉を口に出す。


「君たちの素性は既に把握していると言ってもかな?」

「…そうだろうとは」「思っていましたよ」


 決して知られている可能性を否定していたわけではないが、核心を突かれた二人は静かに剣の柄に手を伸ばす。

 ライトは言わずもがな、バリューにとってレプリカは尊敬する相手だ。

 だが、それは使命を放り出しても優先するべきことではない。

 天秤にかけてどちらを選ぶか問われるならば、世間知らずの彼女でも、迷うことなく任務を選択することだろう。


「別に脅している訳じゃなくてさ、純粋に疑問に思っただけだから、そう身構えないでほしいな」


 レプリカは今にも切りかかりそうな二人へと笑いかけながら、敵意はないと言わんばかりに両腕を開いて見せる。

 しかし、その瞳は決して笑っていない。


「いやさ、本当に気になっているんだけど……。君たちがどういった理由で死亡された扱いとなっているのかや、なぜ旅をしているのかはこの際どうでもいいとして、この旅で君たちが得られるものって何かな? たとえ誰かの忘れ物を返しに行く旅だとしても、忘れていた物を取りにいく旅だとしても、その旅の中で何も得られないのなら、極端な言い方ではあるけど無意味で無価値ではないんじゃない?」

「そんな事は……!」

「…言いたいことはそれだけか?」


 バリューは抜刀し、ゆっくりとレプリカの前へと歩み寄る。

 枢機者の言葉は彼女の神経を逆なでするには十分すぎた。

 ライトは少しばかり苛立ちを感じたが、どうにか押しとどめている。

 だが、彼女はそうもいかなかった。

 主とレイジの存在を、そして自分たちの旅の意義を否定され、冷静さを失ってしまっている。


「ちょっと待てバリュー! お前が主様を敵に回すつもりなら俺はお前を止めなくちゃならねぇ。それは流石に嫌だぜ!?」

「ブロウの言う通りだ。少し落ち着け。ここで問題を起こして旅を止めるわけにはいかないだろ」


 ブロウは慌てて彼女の前へと立ち塞がる。

 その隙にライトはがっしりと剣を握っていた手首を握りしめた。

 バリューは怒りのあまり周りが見えていないのか、乱暴にその手を振りほどこうとする。

 彼の手のひらに収まり切れないほど太い手甲であるにもかかわらず、固定された手首はピクリとも動かせなかった。


「…わかった。……取り乱してしまって済まない」


 脱力したのを確認したライトは、握りしめていた手首から手を放した。

 二人の剣幕に押された彼女は腑に落ちない様子ではあったが、渋々壁剣を背負い直す。

 身動き一つ取らなかったレプリカは、流石に良心の呵責に苛まれたのか、少々伏目がちになっていた。


「……申し訳なかった。先程の事は流石に言いすぎたよ。そこまで重要な旅なら止めるわけにはいかないね。それならば、旅が終わってから我が国の騎士となるのはどうかな」


 レプリカの言う通り、旅が終わったら気に病むことはなくなる。

 二人は正式に騎士ではなくなり、当然ながら何もかもを失うのだから。

 城に居続けることもできないだろうし、もしかしたら国に留まる事も不可能かもしれない。


「…それでも、断らせてもらう」

「それでも、俺たちは……()()フロライアの騎士ですから」


 理由として成り立たない、稚拙な言い訳のような宣言。

 ただの我儘で、聞きようによっては「絶対にお前の国の騎士になってたまるものか」とも聞き取れてしまう発言だった。

 それでも、レプリカは何かを感じたのだろうか。

 二人をじっと見つめていた夕陽の瞳が僅かに揺らいだかと思うと、そのままふぅと息を吐きだす。


「そうかあ。じゃあ仕方がない、諦めるよ。でも、気が変わったらいつでも待っているからね」


 その瞳に込められている感情は怒りや悲しみといったものではない。

 ただ、二人を慈しむかのように見つめていた。

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