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仇敵との邂逅

「だから! お前らを行動できなくさせた後、ヤツらがどこに居るか聞きだしてやろうと考えてたんだ! 以上!!」


 全て洗いざらい話し終わったのを確認して、二人は壊そうとしていた銃器から目を離す。

 それを確認して、ブロウの顔から焦りがなくなり、ほっと一息吐いた。


「ったく、考えられねぇぜ! 人様の得物を何だと思ってやがる……!」

「それほど執着しているのなら、得物かどうかはさておき、相当の銃器愛好家だな」

「…ほう、それならこだわっているのもわかるな。なあ、()()()()()の『炎熱』君?」

「うぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 未だ腕を貫いている壁剣のせいで、身動きが取れていないブロウがその場でじたばたする。

 それを得意げに見下すバリューを見ながら、呆れがちにライトは溜息を吐いた。

 傍から見ると、もはや、先ほどまで戦っていたとは思えないほどに、和気あいあいとしているように見えてしまう。


「ほら、全て話したぞ! 今度はオレが聞く番だ!」

「いいぞ。まあ、こちらばかり聞くのも悪いからな」

「許可されなくても聞くっつーの! アンタらはどうやって“暗部”へ入った!? 目的は何だ!!」


 ブロウはキレ気味でそう言うが、彼らは答えにくそうな顔をする。

 なにせ、二人だって入ろうと思って入ったわけではないのだから。


「…そもそも、私たちは望まない形で“暗部”に放り込まれた、と言った方が正しい」

「……は?」

「言葉が足りないぞバリュー、捕まった後だろ」

「……何言ってやがる?」

「「これまでのいきさつだが?」」

「主語がたりねぇだろ! さっぱり分かんねぇっつーの!」


 主語が足りないということなので、仕方がなく最初から最後まで親切に説明した。

 ……ライトが。

 蒸気機関の扱いで牢屋に入れられたところを話すと、ブロウは大爆笑してバリューに殴られていた。


 実は、“暗部”は危険地帯などではない。

 むしろ、《カッパー》の中で、最も安全な集落である。

 ライトたちがいたあの空間こそ、“暗部”の真の姿なのだ。

 ではなぜ、危険地帯と呼ばれているのか……。

 それは、危険な周囲から身を守るため、ほとんどの人から知られない出入口や、あらぬ噂話を立てることで身を守っていたからだった。

 《ホーム》で罪を犯したものは、程度が重い場合、《カッパー》の“暗部”行きになる。

 《ホーム》では“暗部”が得体のしれないものとして扱われているおかげで、“暗部”行きにならないような軽犯罪や、法律スレスレの行為ぐらいしか見かけない。

 そして“暗部”は、人の往来が激しい《ホーム》で“暗部”のヤバい噂が流れれば流れるほど、関わり合いたくない人が増えていき、人々が抱える『“暗部”は畏怖する対象』という幻想により、その守りは自然と強固になっていく。

 まさに、《ホーム》側が意識していないうちにwin-winの関係になっているのだ。

 ……イレギュラーさえ発生しなければ。


 拘束されて動けない状態だったライトとバリューは、暗部の子供たちに発見された。

 危険地帯に子供がいることに戸惑う二人だったが、子供たちを探しに来たローアに事情を説明される。

 そのついでに拘束を解いてもらい、どうにか集落内へ入れさせてもらったのだ。

 そればかりか、牢屋でひもじい食事しかもらってないだろうと、料理をごちそうされ、新しい衣服まで頂くことになる。

 流石に悪いと二人は手伝いを申し出るが、旅の話を聞けたらそれで十分だと、ローアに言われてしまい、しぶしぶ、旅路で起きた話を語っていた。

 銅で囲まれているにもかかわらず、快適な“暗部”の中にもう少しだけ留まりたいという気も少々あったが、旅の目的上、長居するわけにはいない。

 感謝を告げた後、二人は早々に外へ出たが、すぐにブロウ見つかって現在へと至る。

 実は当初、二人とも死んだふりをして、ブロウを撒こうかと考えていたのだが、「目が覚めるまで」という言葉で埒が明かないと気付き、こうやって油断しているスキを突いたのだった。


「…つまり、勘違いだったということか」

「ああ、そうみたいだな」

「そうみたいだな…じゃねぇ! オレの手足どうしてくれんだよ!」

「先に襲ってきたブロウが言える筋はないぞ」

「…全くだ」


 ブロウは、体にほとんど傷を受けてはいない。

 戦力となっていた蒸気機関を、使い物にならないほどに壊された程度だ。

 だが、ライトは全身に火傷を、バリューはあばら骨数本が折れる痛烈な打撲傷を、その体に受けている。

 動けなくなるほどの怪我ではないが、戦闘を続行するには明らかに良くない状態であることは確かだった。

 それでも、身動きが取れないブロウだけでなく、二人にもまだやることが残っている。


「そういえば、アンタらはヤツらを見てないんだよな」

「ああ、俺たちは会ってない」

「…“暗部”の方も大丈夫だった。特に何かがあったとは思えない」

「そうか……! よかった……」


 ブロウはほっと胸をなでおろそうとして、動きを止める。

 その表情は何処か困惑しているように見えた。

 だが、その変化にライトたちは気付かない。

 それは周りを見ることなく、じっくりと敵について考えていたからだった。


「ブロウを襲った人物について、ある程度の予想は出来ている」

「…魔法とはまた違う超常的な力か。ある程度の予想はできるが、だとしたらどうしてここに来る必要がある?」

「奴らの目的を考えると、ある程度はわからなくはないぞ」

「…そうか『代用品』探しか」

「なあ、いつになったらオレの武器を返してくれるんだよ! それと、さっさと腕に刺した剣を抜きやがれ!」


 二人が話しているほぼ真下から、叫び声が響く。

 ブロウはどうにか抜け出そうと、じたばたと必死にもがいていた。

 だが、左腕は深く縫い付けられている。

 それに、右足もただの重たい金属と化してしまった。

 なのでどれほどもがこうが、ブロウ程度の子供だと決して自力で抜け出すことは出来ない。


「…はぁ。仕方がないな」

「お、ようやく抜いてくれるか!」


 あまりのうるささにうんざりしたのか、バリューは腕を壁剣へと伸ばす。

 ゆっくりと柄に触れ、剣を抜くため、手に力を込めた。


「………いや、やっぱりやめておこう」

「は?」


 しかし、五秒と経たずその手を離した。

 思わせぶりな行動を見て、きょとんとしているブロウの事を笑いながら。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 何でだよ!!」

「…逃げられたら困る。それに今のお前一人だと、またそいつらにやられるだけだ」

「チッ……!」

「俺もバリューと同意見だ。銃はまだ返さないぞ」

「クソ! いいじゃねぇか銃ぐらい!」

「腕を散弾銃か何かで破壊したら、すぐ逃げられそうだしな。……まあ、逃げる事はしないだろうけど」

「? どういう―――」

「…なるほど。ついでに、あちら側からやってきてくれたか」

「それって……!」


 いつの間にか視線を背後へと向けていた二人は、何者かを睨んでいるように見えた。

 ブロウもそちらへと目を向けたが、そこにはなにも―――。

 ……いや、何かがおかしい。

 どこか違和感のような者を感じる。

 ブロウがそう認知した途端―――


 目の前の空間が()()()()()()()()()()()


「……なんだ!?」

「なんでもないぞ。()()()空間転移だ」

「…だが、()()()()()()空間転移できる魔力を持っている、というわけだな」


 何事もないように二人は語る。

 そして、空間のねじれが戻り切ったそこには、さっきまでいなかった二人組が立っていた。

 一人は紅いスーツを着た若い男性。

 もう一人は所々肌の色が違う少年。


 ―――そう、ゾウとアントだ。


「何やら騒がしいと思ったら、こんな所にいましたか」

「いやー、凄い戦いだった! 思わず見学しちゃったよ!」

「……アント、敵に情報を与えるのは、あまりよろしくないですよ」

「あ、ごめん。でも凄かったから思わず言っちゃった! それに、ぼくよりかは弱いんだしね!」

「っ! キサマら!!」


 突如、目の前に現れた彼らに、ブロウは殺気立ち声を荒げる。

 その視線は、ライトたちに向けていたものよりも、はるかに強い。


「…こいつらだな」

「ああ、コイツらが俺の仇敵だ……!」

「代用物の献上ありがとうございました。こう見えてもわたくし共、貴方様に大変感謝しております」

「すごく動かしやすいし、勝手がよくて助かってるんだよ?」

「勝手に奪っておいて、どの口が言いやがる!」


 向けられている殺意を気にしないどころか、面白そうに笑い飛ばしながら、アントたちはブロウへと声を掛ける。

 だが、その表情は笑っていない。

 ブロウの目の前に立っている二人組の事が、少しばかり気になっているのだろうか。


「あ、それと貴方のその手足を作られたご老体にも、感謝の言葉を申し上げておいてくださいませ」

「そうそう。おかげさまで、ぼくの体がようやく全部埋まったよ」


 そう言ったアントの右目には眼帯はなく、代わりに金色の眼が埋まっていた。

 それを見て、怒りに染まっていたブロウの表情が、一瞬にして覚める。


「おい! てめぇら、まさか……!」

「ええ、彼のような素晴らしい瞳を持つ者は、他にいらっしゃらなかったもので……」

「うん、貰ったよ。お陰で体が完璧にそろったどころか、今まで以上に力に満ち溢れているように感じるんだ」


「……まあ、あの人面倒だったから、殺したけど。君を逃がしたんだし、それくらい償ってもらわなきゃ」


 そうか、じじいは彼らに見つかってしまったのか。

 きっと、オレを救って逃亡した報いとして目を奪うどころか、その命すら奪ったんだろう。

 ―――そう思っただけで、ブロウの瞳から、涙が零れ落ちた。


「キサマらぁぁぁぁぁぁぁぁ!! よくも……よくもおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「まあまあ、落ち着いてくださいよ。あなたも、もうじきそのご老体とお会いできますから」

「ぼくたちは早く“暗部”の人たちに挨拶しなきゃだしね。さっさと通らせてもらうよ、死にぞこない」


 ギリリ……と、ブロウは歯ぎしりする。

 怒りのあまり、今にも飛びかかろうとするが、やけに重くなった足と縫い付けられた腕のせいで、仰向けのまま身動きが取れない。


「クソッ!? おい鎧の! 早く剣を抜けよ! オレはコイツらに……!!」

「……駄目だといっただろう。怒りに任せて戦ったところで、お前は奴らを倒せない」

「そうだ。手足が使えず銃も手元にないブロウが、今すぐ彼らに挑んだとしても、ただ返り討ちに遭うだけだ」

「だからって、黙って寝そべっていられるかよ……!!」


 いくらブロウが叫んだところで、二人は見向きすらしない。

 最初から眼中になかったのか。

 ……それとも、アントとゾウから目が離せないのか。


「ふーん……。仲間に対して結構辛辣だね?」

「別に仲間じゃないからな」

「…こいつは勝手に勘違いして襲ってきた。それほど頭が沸いているんだろう。それなら、冷やす時間が必要だ」

「ほう、戦力外通告ですか。……それでは、まずは彼を殺すことにしましょうかね」


 ゾウは口が裂けるように笑みを浮かべ、言葉を続ける。


「だから……そこをどいてくださいませんかね?」

「断る」「…却下だ」


 ―――即答。

 文字通り手も足も出ないブロウを守るかのように、二人は立ちふさがっていた。


「……へえ、死にぞこないを守るんだ? もう何も出来ない役立たずなのに?」

「お前らの目的は知らないが、これからも他者の物を強奪するようなら、そんなことが出来なくなるまで、お前らの全てを壊しつくしてやる」

「…ライトに同意する。お前らが“暗部”の平安を脅かすつもりならば、それを黙って野放しにするほど、私は甘くない」

「わたくし共に逆らうなんて……。流石ですね、実に愚かしい!」

「アンタら……一体何して―――!」

「「ブロウは黙ってろ」」

「……何でだよ」


 ブロウは理解できなかった。

 自分たちの事を勘違いで襲った、死にぞこないのクソガキを守ろうとしていることが。

 守ったところで利益があるわけでもない。

 二人が酷い怪我を負う可能性だって、十分にある。

 それでも、彼らが自分の事を守ろうとしていることの理由を、ブロウは()()納得できない。


「もう代用品は要らないんだけどね……。あ、でもスペアはあった方がいいよね?」

「ああ、それは名案ですね。ですが、とりあえず武器や防具が欲しいものです」

「じゃあ、鎧の人、君の鎧をも―――」


 アントが言葉を続ける前に、ライトは彼の前に躍り出る。

 左手に握られていた破剣の一閃が、アントの喉元を狙い澄ましていた。

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