転生 Side.B
オレは誰かに向かって、大声で叫んでいた。
体力なんてもうほとんど残ってねぇし、体に受けた傷もさっきからズキズキと痛みやがる。
それでも、オレはそいつに向けて、精一杯叫んでいた。
―――これは不思議なんだが、オレが何と言っているのか、自分でも全然わからねぇ。
けど、さっきから叫び続けているその言葉は、オレが結構前から心に誓ったことだったはずだ。
オレが、自分の命を捨ててまで、やろうとしたこと……。
「……それが、オレの―――」
「……おう。死にかけた気分はどうかの、騎士さんよ」
「……ん? ここ、は」
「ここか? ワシの秘密基地じゃよ」
「ひ、みつ……?」
「さて、おしゃべりはここまでじゃ。はよう寝ろ」
そんなしわがれた声が聞こえる。
かと思ったら、視界が黒く潰された。
ほんのりと温もりを感じるから、多分手で覆われでもしたんだろ。
……ん。
…………んん?
オレは…………生きてる……のか?
「……んぅ」
「……おう、起きたか。あれほどの大怪我をしておるのに、一日で意識をしっかり取り戻せた奴を見るのは初めてじゃのう」
「……ここは?」
「年寄りかおぬしは。ここはワシの秘密―――」
「詳しい場所を教えろって言って……っ!」
跳ね起きようとして、左腕を寝ていたベッドの上に……つけなかった。
その代わりに、左肩からデケェ針に刺されたような痛みが走り、そのまま全身へと回ってきやがった。
「ぐぉぉぉぉぉぉ……!!」
「まあ落ち着け。ここはおぬしが務めているハーツ付近にある、ギリギリ、カッパー区域の地下施設じゃ。ちなみに、わしが作った」
「はぁ、はぁ……。あれから、何が、あった!?」
「二人組の男に嬲られていた死にかけのおぬしを、蒸気煙幕装置と、蒸気ブーツを用いて助けたんじゃぞ。そして、大怪我していたおぬしを手当てするために、どうにかここまで逃げてきたんじゃ。ちなみに、これらもわしが作った」
そう言って自慢げに手に持っているボールのようなものと、やけに重そうなブーツを見せびらかし、ニヤリと笑うじじいが、オレの右隣に立っていた。
……さっきから自慢ばかりしやがって、うぜぇんだよ。聞いてねーっての。
「それと、今、おぬしの傷口を塞いでいるのも、わしの発明品じゃよ」
そう言えば……と思って、オレは手足を見る。
そこにあるはずの左腕と右足は無く、代わりに鉄板のような物が取り付けられていた。
傷口にぴったりとはめられている……というよりかは、焼き付けているようだけどな。
おかげでクソいてぇけど、血は止まってるから、まあ良しとしてやるか。
―――けど、やはり、あれは夢じゃなく現実だったんだな。
欠けガキのわけわかんねぇ力で、オレは手足を奪われた。
おまけに、殺したと思った赤スーツも生きていやがったから、結局、オレはただやられただけ……。
「ちくしょう……! 次会ったらただじゃ―――」
そう意気込んで、体をさらに起き上がらせようと意気込んでみるけど、オレの考えになぜか体が従わねぇ。
体から力が抜けちまって、そのままベッドに横たわる。
それにやけに寒ぃし、上手く呼吸もできない……。
そういやじじいは、傷口を塞いだとしか、言ってねぇな……。
なんだ……。助けたとか言ってたくせして、致命傷を負っていることに変わりはねぇじゃねぇか。
結局、オレはこのまま死ぬってことかよ……。
「わしができる限りの手当てはしたが、おぬしは血を流し過ぎた。自力で意識を取り戻したのはまさに奇跡じゃが、どちらにしろ生命活動は限界じゃろう」
「……そう、かよ」
「だが、そんなおぬしに一つ提案がある」
「……提、案?」
「わしはとある技術の持ち主じゃ。詳しくは言えんが、おぬしの命を救うこともできなくはない」
なんだよ、それ……。
それじゃさっさと、救ってくれても、いいだろうが……!
「さっさと救え、とでも言いたそうな顔じゃが、その前に質問をさせてもらうぞ」
「質門、だと?」
「そうじゃ。わしの元にはたまに、おぬしのような者がくる場合がある。その度に、わしは毎回、術を施す相手に三つ、問いかけているんじゃよ」
「……?」
オレが聞き取れるようにか知らねぇけど、じじいはゆっくりとした大きい声で耳元に話しかけてきやがる。
ああ、もう、じれってぇなあ!
早く問いかけの内容を言わねぇと、このまま死ぬぞ!!
「一つ。この術を施される者は、死んだほうがましだと思うほどの苦痛を受ける。実際、苦痛に耐えきれず自殺した者もいるぞ」
「そりゃ、ただで済むとは、思ってねぇよ」
「二つ。術を施した相手は生物とは言いにくい存在となる。これはわしの口からは言えん」
「……なんだ、それ?」
「そして、成功するかは五分五分の確立じゃ。失敗したら勿論、死が訪れる」
「まあ、そうだと、思ったぜ」
「そんな割の悪い賭けを、溜めさせてほしいんじゃよ。おぬしの命を助けるためにのう」
「―――それを、聞いて、助けを、こうとでも?」
「その時はその時じゃ。おぬしがここで迎える死を看取って、亡骸は丁重に弔ってやるわい」
「ああ、そう、かよ」
じじいの口から出てきた言葉は、わけわかんねぇ問いかけだった。
まあ、なんだかんだ言いながら、ちゃんとオレの事を考えていやがったんだな。
……けど、知ったことか。
そもそも、その術とやらを、やったところできっと無駄だ。
死にかけてるオレが、これ以上の激痛を喰らって、生きていられるわけがねぇ。
それに、オレはもう、生きるなんて……。
―――けど、なんだ? このもやもやとした感情は……?
そして、先ほどのおどけた表情とは打って変わって、硬くなった表情をしているじじいに、オレは疑問を覚えた。
「……どうして、オレを、助けようと、した?」
「そんなもん決まっとるじゃろ? おぬしがこの地の出身なのは知っとる。そして、生きることを諦める顔をするような、つまらぬ人生を過ごしていたんじゃろ? そんなくだらない人生しか歩んどらん若者を、わしは見殺しにしたくないんじゃよ」
じじいの声は何かを経験し、決断したような、そんな強い口調だった。
対するオレは、もう生きることを諦めて、開き直っているんだがな。
……それが正しいことだとは、これっぽっちも思っちゃいねぇけど。
―――だとしたら、オレは、どうしたい?
今まで生きていても、大抵がつまんねぇ事ばかりだった。
きっとこれから先も、生きていていようが死んでいようが、つまらねぇことに変わりねぇだろうなと、そんな事ばっか考えてた気がする。
それでも、なんだかんだ言いながら、オレはこの年まで生きてきた。
特に生きていたい理由なんてねぇってのに、オレは死のうとしなかったし、この年まで生き続けている。
一体オレはそこまでして、どうして『カッパー』で生きようとしていたんだ……?
「―――あぁ」
そうだ、生きることに理由なんていらねぇじゃねえか。
ただ、生きているのなら、やりてぇことをガンガンやるべきだよなぁ!
だったら大暴れしてやろうじゃねぇか!
死ぬ前に、オレの手足を奪ったあいつらに復讐を……いや、死んだ方がましだと思うほどに後悔させてやる……!
不意に笑みが口元に浮かんだ。
目はギラギラとしているだろうし、体も暴れたがってるかのようにガクガクする。
今すぐに力尽きたとしても、どこもおかしくねぇだろうな。
―――それでも、オレは生きる。
生きて、やりてぇことをやり尽くす!
「……いいぜ、賭けて、みよう、じゃねぇか! その、術に!」
「言ったのう! 言ったからには最後まで耐えてみせるんじゃぞ! 見事成功したら何でもやってやるからのう!」
「言ったな! 覚え、とけよ、じじい!!」
……その後のことは、正直、ほとんど覚えてねぇ。
記憶に残っていることとしたら、無茶苦茶痛かった事と、ずっと叫び続けていた程度か。
けど、オレはそれを乗り越えた。
新たな力を身に着けて。
―――こうして、オレは生まれ変わった。
『大鷲』から『不死鳥』に。
主の命を守る従順な騎士から、命の輝きを炎のように真っ赤に燃やす、復讐者に。
*
「なんじゃ。わしとおぬしが出会った頃の話と、あの二人の話か」
呆れたような顔をしながら、じじいは蒸気ライフルのパーツを取り換える。
なんじゃ……ってなんだよ。
まだ話は終わってねぇからな?
「まぁ、そうせかすなよ。ここからが本番だってーの」
「しかし、せっかく命を救う術を施してやったのに、考えていたことは復讐か? せっかく救ってやった命なのに、つまらんことへと使う事しか考えとらんのう……」
「うっせぇ! 若気の至りだ、若気の至り!」
「言葉の意味を分かって言っておるのか……? ふぅ、まあいい。その続きとやらが面白いのであろう? 今のままじゃ、銃の整備しかやってやらんぞ?」
オレをちらりと左目で見るも、興味なさそうに銃の整備へと没頭する。
そんなじじいに、オレは意味深な感じで告げてやる。
「あぁ、こっからが本番だぜ……!」
そんなオレの言葉に反応したのか、左儀腕の蒸気機関が、溜息を吐いたかのように、蒸気を噴き出した。




