異端者の襲撃 Side.B
「おや、気付いていましたか」
たりめーだろ、この場所で、酒が飲めるぐらいの年まで生き残ってんだぜ?
頭の中で相手に愚痴っていたら、瓦礫の陰から二人の人間が出てきた。
一人は赤いスーツ姿で、眼鏡をかけている切れ目の男。
もう一人は右目に眼帯を、右手に携えた松葉杖を支えにしている、体の全てが半分欠けた、前髪の長い少年っぽいな。
見た感じ、戦いに向いてなさそうだけど、人は見た目じゃ判断できねぇし、一応近距離戦闘用の短銃剣を、すぐにでも出せるようにしとくか……。
「わたくし共は旅人でして、彼の欠けた体の代わりになりそうなモノを探して旅をしているのですよ。ですが、今の所いい〝代用品〟に巡り合えず、困り果てている状態でして―――」
「……」
スーツの男はやけに饒舌だったが、半欠け男は全く喋る気配がねぇ。
見た目の違和感とかのせいだろうが、薄気味悪ぃヤツらだ……。
「へー、そうかい。それで、たまたまこの建物の屋上に寄り、銃を構えているオレを見つけたから、わざわざ観察していたってか?」
「……これは驚いた。わたくし共があなたを見つけた時から、わたくし共の気配に気づいていらっしゃったとは。やはりここの人たちは、中々骨がある人たちが多いみたいですね」
「……? そりゃあ、どういう意味だ?」
「いえいえ、お気になさらず」
「……あれ、欲しい」
急に体が欠けている少年……めんどくせぇから欠けガキでいいや。がオレを指さしてきやがった。
別に指さされる程度でキレるほど、オレは短気じゃねぇ。けど、オレが持っている銃を欲しがっているのかと思ったが、指刺しているものは蒸気ライフルじゃなくて、明らかにオレっぽいんだが……。
「……はぁ? オレは物じゃねぇぞ!」
「いやぁ、急にすみませんね……」
赤スーツはへこへこと謝りながらオレの方へと歩きだした。
やはりうさん臭ぇな。この辺りじゃ一回も見たことねぇ奴らだし。
いや、待てよ。
ヤツら、まさか……。
「漸く、彼が欲しいと言ってくれたので、〝代用品〟を頂くことができますよ!」
「……っ!!」
咄嗟に後ろに飛びのくと、オレが立っていた場所に赤い線が通り過ぎる。
直感的な判断だが、赤スーツは右手から、保護色となっている真っ赤なナイフで、オレに一撃与えようとしていた!
それにこいつ、姿が一瞬ぼやけたかと思ったら、急にオレの目の前まで迫ってやがった!
慌てて後ろに下がったおかげで、ギリギリ左肩口を掠める程度で済んだけど、今のは明らかにオレの左腕を切断しようとしていたよな!
それとナイフ! ここらで見かけねぇ鋭利な形だし、明らかに銅製じゃねぇ。
だとしたら、ヤツらの正体は……!
「くそ! アンタら、やっぱり大量殺戮の……!」
「ええ、そうですよ。わたくし共にとって非常に邪魔な方々でしたし、強者を呼び寄せる餌となってもらいました」
「強者……ああそうか! アンタらは強い人間から〝代用品〟を奪うために大量殺戮を行っていやがったな!!」
「ええ、その通りでございますよ。『炎熱のガルーダ』さん」
「……チッ! 身元までお見通しってか!」
「それは当たり前の話ですよ。産地が分からない低品質なモノよりも、高級産地の新鮮なモノの方が誰だっていいでしょう?」
「人の体を物扱いしやがって……!」
「何といわれても結構ですよ。今から彼の所有物になるのですからねぇ!」
涼しい顔でオレにナイフを振るいながら、赤スーツは饒舌に語りかけてくる。
右目への突き、左耳への切り上げ、左脚への横薙ぎ……。
雑な動きが一切ねぇ。オレに反撃の隙を与えねぇようにしてきながら、明らかに欠けガキが持っていねぇ部位ばかり狙ってやがる!
ヤツら、最初から俺を狙ってここに来やがったな!
―――けどまあ、これはこれで好都合だ!
「……くそっ、まあいい! この国の暗黙の了解を、大量殺戮という形で破ったアンタらを、オレの手で粛正させてもらうぜ!」
赤スーツの動きはまるで蛇のようにしなやかで、相手を追い詰めることに対しては満点と、同僚二人は言うだろうな。
けど、攻めに特化しすぎているっつーの!
赤スーツの右脛を蹴っ飛ばした。
「!」
獲物を狙う強者は、弱者が反撃するとは微塵にも思わねぇよな!
《カッパー》育ちをなめてんじゃねーぞ!!
そして、体勢を崩されちまったら、守りはほぼねぇよなぁ!
赤スーツがよろめいた隙に、密着するほど近づく。
そのままホルスターに突っ込んでた短銃剣を取り出し、がら空きの胸に刃を突き立て引き金を引いた。
ズドン!!
辺りに蒸気煙と血の匂いが充満する。
骨と肉を散らばせながら、胸に風穴を開けて赤スーツは倒れた。
「……さて、次はアンタだ。鉛玉と死をプレゼントしてやるよ!」
返り血を浴びて気持ちわりぃが、欠けガキに不敵な笑みを浮かべてやる。
明らかに戦えなさそうな見た目だけど、用心に越したことはねぇ。
そもそも、平穏を破ったものに未来なんて与えられていいわけねぇだろ。
オレは勝ちを確信して引き金を引いた。
―――けど、勝ちを確信するにはまだ早かった。
「…要らない」
欠けガキはそう呟いただけだった。
それだけで、弾丸は欠けガキに当たる前に弾かれた。
「なっ……!?」
「…どうかした?」
平然とその場に佇み、欠け男は誇らしげな目でオレを見る。
わけわかんねぇ! 一体何をやりやがった!
「何者だ、アンタ……!」
再度弾丸を数発撃ちこむも、全て欠けガキに届く前に弾かれていく。
欠けガキは無の表情に、無理やり張り付けたような笑みをしたまま、少しずつ俺に近づいてきた。
「くそっ! 銃弾が効かないなら、直接剣で……!」
「…それも要らない」
「ぐっ!?」
ガラ空きの胴体へと銃剣を突き立てたが、まるで見えない壁にぶつかったようにあっけなく弾かれ、手元からすっぽ抜けちまった。
……こいつはマズいぞ!?
「……おしまい?」
「―――んなわけねぇだろうが!!」
「う……っ!?」
オレがここで最初に学んだ事は逃走すること、そして、体術だ。
完全に油断しきっている欠けガキへと放った、オレ渾身の回し蹴りは、ヤツの体の芯を捉えて遠くへと吹き飛ばす。
そして、近くに転がっていた赤スーツのナイフを拾い上げて、欠けガキに向かって駈け出した。
―――この時、オレは深追いなんかせず、逃げて形成を立て直すべきだった。
けど、オレの変なプライドがそれを邪魔しやがった。
それが大きな仇となるとは、これっぽちも思わずに。
欠けガキに馬乗りになって勝ちを確信したオレは、そのまま胸元へとナイフを突き立て……。
「…うん、左腕を頂くよ」
「―――は?」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
ただ、欠け男がそう言った途端に何かが起きて、オレは遠くへと吹き飛ばされた。
左腕を無理矢理引きちぎられて。
「う、ぐああああああぁぁぁぁ!! くそおおおおぉぉぉぉっ!!」
痛い! 痛い! 何だこれは!!
そして、倒れたまま痛みに呻くオレは、目の前で信じられないものを見た。
「お、お前……っ! その、腕!!」
「ありがとう! おかげで漸く左手を使えるよ」
欠け男に左腕が生えていた。
……いや、あいつの言葉の通りなら、あれはオレから奪ったんだろう。
なぜかたどたどしかった喋り方も、先ほどよりスムーズになっていやがった。
「うん、やっぱり両手があるのはいいね。体の相性もばっちりだし、文句なしかな。あとは足と目も欲しいけど、同じモノじゃつまらないからなぁ……」
動きを確認するように動かしている左腕を見ながら、欠け男がオレに向けて言う。
ふざけんな……冗談じゃねぇ……!
「オレの、腕を、返せ……!!」
「……へぇ、凄いね。腕を失くしてもまだ戦う意思を持っているなんて、ビックリ仰天だよ」
立ち上がったオレを見て心底驚いているようだが、その表情には余裕がありやがる。
まあ、そうだろう。もし、敵が片腕しかなかったら、オレだってその表情をしてただろうさ。
現にさっきまで、オレもそんな表情してたしな。
だが、誰も銃が一つしかないとは言ってない。
オレは早撃ちだってできるんだ。最近になって手に入れた技だが、精度は高ぇし、同僚二人にもちゃんと認めてもらえている。
片腕でも引き金を引くぐらい容易いしな。
「……じゃあ、死ね」
右足に隠し持っていた銃を瞬時に向け、引き金を引いた。
避ける暇も、喋る暇もない完璧なタイミング……。
けど、それすらもあっけなく無駄となる。
真紅のナイフが銃弾をはじいた。
「……いやいや、お待たせしてすみませんね」
「はぁっ!? アンタ、どうして、生きてやがる!!」
そう、死んだはずの赤スーツが、オレが撃った銃弾をはじきしやがった。
それも、胸にどでけぇ風穴を開けたままで。
「起きるのが遅いよ、ゾウ」
「これは失敬。死んだふりをするのに慣れていないものでして……。それにしても見事に左腕を手に入れたのですね、アント」
「そうそう! 他の〝代用品〟と比べても、フィット感が全然違うんだ! 流石『十忠』ってとこ?」
「その辺りは関係なさそうですけどね」
のんきに会話なんかしやがって……!
銃剣はどこいった……!?
いや、あれは使い物にならねぇか……。
くそ、出血のせいか、うまく頭が働かねぇ。一体、どうなってやがる……。
「うーん。どうせだし、歩きにくいから右足も頂くことにするよ」
欠けガキが適当にそんな事を口走ると、今度は右足が引きちぎられた。
「がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼」
焼けるような痛みが左脚を襲い、再度弾き飛ばされたオレは、地面から顔を上げることすらできなかった。
くそ……っ、痛みのせいで呼吸すらままならねぇ……。
「相変わらず、騎士に対しては容赦ないですねぇ」
「まあね。騎士を名乗る者なんて、みんな死んじゃえばいい」
「いやぁ、それにしても無様ですねぇ。滑稽ですねぇ」
「それでも、まだ生きてるなんてしぶといよね。本当に強い手足が手に入ったから、どうだっていいけど」
「はあ、はあっ! く、そ……!」
もはや、動くことも、上手く喋ることもできやしねぇ……。
これじゃあ、先ほどと立場が逆じゃねぇか……!
「先ほどの恨みがありますので、散々いたぶったのち、殺しても構いませんよね?」
「うん、いいよ。泣き叫んで、生まれたことを後悔させるぐらいにはやっちゃってよ」
「アントも物好きですねぇ。では、さっそく……」
「ちく、しょう……」
真紅のナイフで、じわりじわりと痛めつけられる。
最初の方は痛みで呻いていたが、だんだんと感覚がなくなってきた。
朦朧となりつつある意識で思う。あぁ、これがオレの終わりか、と。
全く、下らない人生だった。
騎士になっても何もいいことなんてねぇし、オレが大切に思っていたことがただ薄れちまっただけだった。
……けどまあ、ここで未練を残した所でどうしようもねぇからなぁ。諦めて身を委ねるか。
全てを放棄して消えゆく意識の中、誰かに抱えられたような気がした―――。




