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二人きりの意見交換

「さてと、まずは俺から言わせてもらうぞ」

「うん。あ、私は鎧を磨いているけど気にしないでね、ちゃんと聞いてるから」


 彼女の前に座ったライトは、ゆっくりと語り始めた。

 対するバリューは、漸く寝ころんだ状態から座る状態まで持ち直し、彼と向き合いながら鎧の手入れをしている。

 草を潰したことと流した汗のせいで、その鎧は所々緑色に染まり、苦い薬草のような強い匂いを発していた。


「バリュー、お前は相変わらず反撃戦法ばかり取っているな」

「うん。それが私の取り柄だし」

「正直に言うが、そればかりだと敵によっては、一方的にやられるだけじゃないか?」

「そんな時はちゃんと戦い方を変えるって」

「砲撃されたとき、俺が砲台を壊しに行っていなかったら、今頃どうなっていただろうな?」

「うっ! それは言い返せない……」

「それに野生動物やモンスターによっては、臆することなく突っ込んでくるぞ。蟲やスライム系統とかの痛覚の存在しない生物や、病か飢餓で気がふれた動物とかな」

「それはそうだけど、その時はちゃんと自分から攻めに行ってるって!」


 気にしないで、と言っていたバリューだったが、ライトの一言一言に反応してしまい、鎧の手入れが全然できなさそうである。

 ライトが口にしていた反撃戦法―――所謂カウンターアタックは、敵からの攻撃を防ぐ、もしくはその攻撃を利用して攻撃を行う戦法だ。

 通常の戦闘で見かけることは殆どないが、襲い来る一撃を利用できる点を考慮すると、対人戦闘では優秀な分類に入る。

 重装備だが反射的行動力があるバリューと、最も相性がいい戦略と言っても過言ではないだろう。


 にもかかわらず、通常の戦闘で殆ど見かけることが無いのは、その戦法が使う人を選ぶからだろう。

 反撃戦法の欠点として、相手の攻撃を捌き切れなかった場合、カウンターを仕掛ける側が大きなダメージを被ってしまうこと。

 また、常にカウンター狙いをすると敵の行動を待つ消極的な状況になり、遠距離攻撃や対多人数戦では不利になる場合が多いことが挙げられる。

 それに、重装備なバリューならば反撃に磨きが掛かるけれども、そこまで重装備にするぐらいなら、体を鍛えて慣れ親しんだ自分の得物一本で戦う、ライトのような戦い方を選びそうなものだ。


 そういった欠点の方が明らかに多く、使う利点が少ないせいか、この戦法を取り入れる人は滅多にいない。

 だからこそ、その戦法でうまく戦えるバリューは、ある意味強いと言える。

 (もっと)も、適切に使うことができたら、の話ではあるが。


「それと、その装備だと、反撃戦法や攻撃無視戦法をしてくるだろうと思われても、全くおかしくないぞ。あの時の戦いでも、俺は最初からその二つのうち、どちらかを用いて戦うだろうと踏んでいたしな」

「あ、そうか。だからあの時は、一撃離脱とか避けてばっかりしていたんだね……」


 反撃戦法が相手に有効打を与えるには、相手のリズムを崩す必要がある。

 だからライトは、リズム、パターンを逐次変更しながらバリューへと攻撃を加えていたが、その手を取ったせいでライト自身も有効打が入れられず、結果的に長期戦となってしまった。


「それに、いくら頑丈な鎧を着ていて鋼の精霊もいるとしても、敵の攻撃をあえて受け止める必要はないだろ」

「……それは、そうだけどさ」

「ヘイトを稼いだり、盾役になる事を悪いとは言わない。現に、そのおかげで助けられている部分もある」

「それなら、別にいいでしょ? どういった戦い方をしていたって」

「いいや、よくない。今は俺たち二人だけしかいないんだ。俺が怪我を手当てすることは出来るが、医療器具が揃っていたとしても、医者の腕前には程遠い。それに、バリューはいつも無理してばかりだしな」

「でも、そのおかげで意表を突いた攻撃ができるし……」

「あれはいつも手合いをしている俺だから引っかかっただけだ。恒常的に見ていないと、不意打ちにすらならないぞ」

「ちぇー」

「だがまあ、相変わらず粘り強さと咄嗟の反応はいいから、俺みたいに立ち回ることもできそうだけどな」

「うーん……。じゃあ少し頑張ってみる」


 鎧にこびり付いた汚れを漸く拭き取り終えた彼女は、納得をした表情をしながら、手入れし終わった部位を体に装着し始める。

 ライトは何をするでもなく、ただその様子をぼうっと見ていた。


「他にはある?」

「まあ、分かり切っている事ならある」

「……一応聞いとこうかな」

「俺が知っている限りだが、誰かを守りながら戦うことが出来るヤツの中では、今でもバリューがダントツだ」

「やったぜ! ……それで?」

「誰かを守るとき、きっと俺は役に立てない。だから、その時はお前に全て任せる」

「わかった! 私に任せなさい!」


 バリューはふふんと笑みを浮かべ、ガッツポーズを取っていた右腕で胸元を叩く。

 既に兜以外装着していたため、ついさっきまで辺りに聞こえていた金属音が響いた。

 そんな自慢げな態度をしていたバリューだが、ライトの話が終わったことに気づいたようで、手の位置を膝元に戻して問いかける。


「そういえば、ライトの戦法は破砕戦法って言うんだったね。正直、言われるまで知らなかったよ」

「それはそうだ。俺が独学で編み出した戦法だからな」

「あ、そうなんだ。どおりで見覚えがないと思ったんだよ」


 実は、武器や防具を破壊して敵を倒す手段は、遥か昔から存在している。

 鉄で作られた鎧が出回り始めたころ、その対策として作られたレイピアと同時期に、原初の武装破壊武器であるハルバードやメイス、レイピアや頑丈なナイフを対策するために生まれた、ソードブレイカーという櫛状の峰をもった短剣などがそれらに当たる。

 だが、それらの代わりに破剣を使っているライトは、その武装破壊を戦法へと昇華させた。

 それが、あらゆる武器や防具を壊す戦闘技術―――破砕戦法だった。


「そういえば、ずっと前から……それこそ、最初に戦った時とかもそうだったかな」

「ん? 何か気になることがあるのか?」

「ライトって急な行動に弱いよね。あの時の体当たりだったり、さっきのあれに反応できなかったりしたし」

「……あぁ。まあ、そうだな」

「何その顔」


 バリューがそう言ってしまうほど、ライトは変な顔……困惑したような顔つきで唇を噛んでいた。


「いや、わかってはいるんだ。だけど、考えながら戦っているせいか、想定外の動きをされると、一から考えなおさないといけなくなって困る」

「咄嗟に避けるとか、剣で受け止めるとかしないの?」

「無駄な動きをして、あまり隙を晒したくない……とは流石に言えないか、結局やられているわけだから。それと剣で受け止めたいのは山々だが、この剣だとただ受け止めるのには不向きなんだ。だから敵の剣を滑らせて柄で折るか、そもそも攻撃をされないように動くことが一番良いんだけどな」


 そう言いながらライトは足の上に置いていた剣の剣身を撫でる。

 ライトの瞳のような黒く鈍い色合いのその剣は、激戦をくぐり抜けてきたとは思えないほど、傷跡が見受けられなかった。


「あ、それでずっと私の鎧ばかり狙ってたんだ」

「ああ。それに、バリューの剣ぐらいの大きさがあるものだと、流石に一発で壊すことは出来ないからっていう理由もある」

「なるほどね」

「改善策を上げるとしたら、どうする?」

「そうだねぇ……ライトも反撃戦法をやってみたら? 割に合う、合わないはさておいて、やってみたらなにか考え付くかも」

「どうだろうな。まあ、考えておくことにするか」

「そうそう、それに―――」

「いや、それは―――」


 あれほど話かけることに躊躇していた二人だったが、手合いを行ったことで気分転換にもなったのか、率先してお互いの良い部分、悪い部分を言い合い始めた。

 そのまま、手癖や体勢、体の動きなどといった技術面を、数分にわたって二人は話し尽くす。

 二人の火照った体は、この頃にはもう夕風によってだいぶ冷やされていた。


「とりあえず、戦闘に関してはこれぐらいか……」

「そしたら、次は普段の事かな」

「そうだな、どちらかというとこっちの方が重要だろう」

(凄く小言を言いたそうな顔してる……)


 不敵な笑みを浮かべ始めたライトを見て、バリューはそう思わざるを得なかった。


「じ、じゃあ、えっと、ライトは……」

「とりあえずバリューは、売られた喧嘩を簡単に買うことを今すぐ止めてくれ」

「ちょっと! 私が先に言おうとしたのに、口を挟まないでよ!」

「そういう短気なところを直せって言っているんだ」

「むう……」


 色々と言われそうだったので、先手を取って喋りだそうとしたバリューだったが、ライトに敢え無く遮られてしまった。


「お前はおおざっぱだから、どうしても不器用さが目立つ。それに強情なところは少し変えるべきだと思う。あとは世間知らずなところがあるぐらいか。これはどうしようもないだろうけれど……ってどうかしたか?」

「急に酷くない!? さっきから、悪口を言われているとしか思えないんだけど!」

「欠点っていうのは自分以外から見た方が正確だ。それに、嘘は言っていないぞ?」

「ぐぬぬぬぬぬぬ……!」


 いろいろと言われ続けて、バリューの顔は段々と赤く膨れていた。

 悪びれもしない生真面目な表情で言ってくるものだから、彼女の神経は逆なでされていく。

 ……とはいえ、ライトが言っていることが間違っているわけではないので、なおさらバリューは何も言い出せなかった。


「だから、バリューはそれ以外のところで頑張ってもらいたい」

「……えっ?」

「そうだな……例えば、天候や環境の変化。これは俺じゃ判断できないことの方が多い。それに力仕事も俺がやるよりはバリューがやった方がいいだろ。……また惚けた顔しているが、大丈夫か?」

「ううん! 何でもない、何でもないよ!」


 人の悪いところばかり言っているかと思ったら、それ以外でバリューができそうなところを提案してくるあたり、やはりライトは悪口しか言わない奴ではない。

 ……ただ、言い方はだいぶ直接的ではある。


(そんなにビシバシ言ってくる必要はないんだけどなぁ)


 さきほど言われた言葉で少し機嫌が直ったバリューだったが、いまだ口元を曲げながらこっそりと思う。

 確かに自分だとわからない欠点だってあると、彼女だって把握していた。

 だが、先ほどライトから言われたことは自分でも把握していたし、気を付けようと思っていたところでもあった。

 言われなくてもわかってる! と言い返したくはあったが、それに対しての改善策を考えていないあたり、そんなことは言えないなぁと内心でしっかりと反省する。


「……あとは、それだ」

「それ? 私、何かやったっけ?」

「言い返したいことがあるなら言えばいいのに、すぐ黙り込むだろ」

「それは……」


 その原因として思い当たる節を、バリューはちゃんと理解している。

 でも、()()を言ってしまうことで、ライトの厚意を否定することにならないのか?

 彼女にとって、そうなるのは避けたかった。

 ()()を伝えてしまうのはダメだ。きっと、彼はその行為をとても嫌がる。

 だからこれは、私一人だけ知っていればいい。

 たった一人でも、解決できる問題のはずだから。

 そうやって、バリューはいつも蓋をするのだ。


「とにかく、何でも背負い込もうとすることはバリューの欠点だ。何かあったら俺を頼ればいい、一人で旅をしているわけじゃないだろ」

「うん……。そう、だね」

「わかってくれたならそれでいい。とりあえず、バリューはできる範囲のことをやってくれ。あとは俺ができるだけやる」

「―――ふうん? できるだけ、ねぇ?」

「ど、どうした?」


 ついさっきまでしおらしくなっていたはずなのに、急に不満げな声を出したのでライトは戸惑う。

 バリューの視線は、いつの間にかねめつけるように強くなっていた。


「ライトってよく、細かいことを気にするよね?」

「それがどうかしたか?」

「どうもこうもないから!」


 唐突に言葉を荒げるバリューに、ライトは思わずたじろぎ、後ろに仰け反った。

 どうやら思いがけないアクシデントに弱いのは、戦闘だけでなくどのような状況であってものようである。


「いやいや、細かいことは悪くないと思うんだが……」

「悪いよ! 私がおおざっぱなのは認めるけど、ライトは細かすぎなの!」

「そ、そうか?」

「そうだよ! ……いつでもそんなに気を張り詰めていると、疲れるでしょ?」

「そんなことは……確かにそうだな、反省する」

「え、反省するのってそれだけ? 他にもいろいろとあるよね?」

「……まあ、一つだけじゃない、よな」


 その強い眼光と口調に、つい、ひるんでしまったライトは、観念したかのように溜息を吐いて姿勢を正した。

 はたから見たら女房の尻に敷かれる旦那の図だが、生憎二人とも未婚どころか、恋愛のれの字も経験したことがない。

 恋をする機会が無かったわけではないが、本人たちにその気が無かったことが、今でも独り身である一番の原因だろう。

 せっかくの騎士という役職を持ち、二人とも顔つきが良く、モテなくはなさそうな外見をしているにもかかわらず、一切そういったことに無頓着であるせいで、彼らの主たちはもったいないとばかり言っていた。

 とはいえ、本人たちにその意思がない以上、何があったとしても恋や愛になびくことはないだろうが。


「あのさあ、考え事に集中して周りが見えてない時があったり、私が知らないところで無茶している時もあったよね? 強情なのはライトだってそうだし、嘘も下手くそでしょ」

「殆どは認めるが、最後だけは納得いかないんだが……?」

「大体の嘘がバレているくせに、よくそこまで言えるよね……」


 一度会話のペースを掴んだバリューは、ここぞとばかりに文句を告げていく。

 対するライトも小声ながら反論するが、一人盛り上がっている彼女の耳には届きそうにもない。


「毎回人に会うたびに嘘を言ってるような気がするけど、そのたび嘘吐いているってバレてるんだから、下手くそだと認めるしかないんじゃない?」

「バリューよりは上手だと思うけどな」

「そんなことは、絶・対・ない・から!!」

「えぇ……? そこまで強調するほどか?」


 俺が……! 私が……! と口論になり始めたが、ののしり合いが激しくなるにつれ、二人の表情は段々とほころびはじめる。

 結局、なんだかんだ言っても、彼らは喧嘩するほど仲がよかった。

 今までが殺し合うほど険悪だったのだから、そのぶり返しなのかもしれない。


 そんな笑顔の裏側。ライトは内心で、一切笑っていなかった。

 それは先程、笑いかける彼女の口から発せられた「嘘がへたくそ」という言葉に関して、バレないように至極真面目に考えていたから。

 もし、本当に嘘をつくのが下手だとしたら、人生の半分以上を偽って生きてきた彼にとって、自分の全てを隠すことができずに生きてきたことと変わりない。


 ……だが、バリューは彼がつき続けている嘘に、まだ気づいていない。

 それに安心してしまっていることこそが、ライトの最大の欠点だった。

 もし、嘘がバレてしまったら、きっとこの旅を続けることができなくなる。

 それどころか、周りに多大なる迷惑をかけるだろうし、ひと時も与えられずに、()()()()()()()()()()()ことだろう。

 言わずもがな、目の前で腹を抱えて笑う彼女にも、飛び火するに違いない。

 その屈託のない笑顔を、奪うことになるならば、俺が俺であることを一生偽り続けるべきだと、ライトは思っている。

 この世界に自分の居場所なんて、とうの昔に存在しない。

 ならば、俺は一生、誰にも悟られないような、嘘吐きで居続けてやる。

 それが、自分が生きていく唯一の方法だと、自分にも嘘を吐きながら、彼は今日まで生きてきたのだから。


「ん? 何か言った?」

「いいや、何も?」

「……これも、さっきライトに言われた言葉を返すことになるけど、隠し事は無しだよ。一人で旅しているんじゃなくて、私と一緒に旅をしているんだから」

「……ああ、わかっている」


 いつの間にか心配そうな表情をされたので、考え事を止めたライトは、心から謝る。

 バリューにここまで気遣いされてしまうとなると、彼は本気で反省せざるを得なかった。

 いまだ不安気な表情をした彼女をライトは慰める。

 短気な割に、人のことをよく見ているなと思いながら。

 けれども、彼女はあまりにも他人に関わりすぎている。

 関わることに問題があるわけではないけれども、深入りしすぎるのはあまりにも良くない。

 相手に隙を晒してしまうその行為は、常に危険と隣り合わせな戦闘時だと、愚かすぎる思考だと言わざるを得ない。

 けれども、ライトはバリューの欠点として、誰に対しても優しすぎるということを言わなかった。

 戦闘中にも関わらず自分以外に気を配り、当時敵であったライトにすら慈愛の手を差し伸べるほど、バリューは周りの事ばかりしか見ていなかった。

 それは欠点であるかもしれないが、それを否定してしまったら、バリューの個性を否定していることと何ら変わりない。

 それに、その優しさのおかげで救われた人も多くいる。


 ―――ライトだって、そのうちの一人なのだから。


「それにしても、反撃戦法を取っていたバリューが、まさかあんな技を使うとは、全く思わなかった」

「そうでしょ!? 私だって、いつもと同じ戦い方じゃダメだって、思ってはいたんだからね!」


 吐いた嘘がバレるというなら、話をすり替えるのはどうだと言わんばかりに、咄嗟に話題を替えると、バリューは何事もなかったかのように、話に乗ってきた。

 それが、本当に話に乗って来たのか、彼の事を思いやって話に乗ったのか……物知りを自称するライトでも、それだけはわからなかった。


「そういえば、二人ともダメなところって話してなかったけど―――」

「俺達の欠点か。まあ、お互い心配性なところは直すべきだな」

「あっ、それはそうだね……」


 幾度となく危険な状況に置かれているせいでもあるが、おそらく、騎士であった時間が長かった事が原因だろう。

 二人ともどちらかが怪我をすると、

「あとは俺がやるからお前は休んでろ」

「怪我をしているんだから安静にしてて」

「調子が悪いのに無茶するな」

「何時も無理しているんだからここは私がやるから」

 等々……。

 何かがあれば、互いに相手の代わりを務めようとしていた。

 それだけならまだいいのだが、どちらも張り切りすぎる節があるので、休ませようとした側も怪我をしたり、調子が悪くなっていたりする。

 それは、あまりにもよろしくない。

 この旅を途中で中断するわけにはいかないから。


「つまり、何事も適度であることが一番なんだよね」

「そういう事だ」

「そしたら、二人とも手足が出なくて、どうしようもないときは?」

「ああ、それなんだが……そういったときは試行錯誤して、その場を乗り切るしかない。それでダメだったなら、すっぱりと諦める」

「え、諦めるの?」

「ああ、いつまでもその問題ばかりに目を向けていたら、他の事に目を向けられないからな」

「確かに……」


 諦める、なんて言葉が口から出てくるとは思っておらず、目を点にして驚いたバリューだったが、その理由を聞いて納得する。


「だからと言って、何もしないわけでもない」

「まあ、そうだよね」

「そのようなことにならないように、常に新しいこと、既に知っている事の応用を学び続ける必要はあるだろうな」

「あ、そうか。問題を解決するために前もって勉強すればいいよね。それじゃあ、ガンバレ!」

「何言ってんだバリュー、お前もだぞ?」

「えっ、私も……?」

「当然だ。俺が居ない時とか役に立たない時は、お前だけが頼りなんだから」

「そう言われてしまうとやるしかないよね……。うん、勉強は苦手だけど頑張る」


 呆れたようにライトが語ると、さも当然のように頼ろうとしたバリューは、肩を落としながらもその意見に納得する。

 そんな、想定していたよりも会話が弾んだ意見交換も、気づけば手合いをしていたほどと同じぐらいに時間が経過し、太陽も相当に傾いていた。


「さて、いい加減に日も暮れるだろう。ここに居座り続けるのもあまり良くないな」

「じゃあ、そろそろ出発する? もうひと歩きするぐらいならできると思うけど」

「……と、その前にやることがあったな」

「やること?」

()()の後始末だ。やはり放置していくのが一番だと思うが、バリューはどうだ?」

「うーん……。あまり気乗りしないけど、それが一番かなぁ」


 それでは、改めて振り返ってみよう。

 ここはだだっ広い草原で、獣の気配はなく、人の手が加えられた形跡もない。

 それでは、二人はどうして急に、それぞれの役割や能力について話し合う必要があったのか。

 なぜ、ライトが「これ以上にいい機会はない」と言ったのか。


 答えは、二人の目の前。仰向けに寝そべり目を回している、四本の腕を持つ小綺麗な盗賊達の言葉が原因だった。


 彼らは、何処かの名も無い民族で、戦闘に優れている種族だとか。

 その民族の王族で、世界的に見ても強いだとか。

 果てには、束になれば竜をも落とすのだと、誇大表現をした後に、有り金を置いて行けと脅しをかけてきた。

 相変わらず喧嘩を買ったバリューのせいで、やむを得ず戦闘をする羽目になったのだが…その結果がこれである。


 二人は少しも苦労することなく、三人を気絶させた……というよりは、彼らが振り回していたこん棒が、そのまま味方に当たって昏倒しただけだった。

 ただ自爆してしまっただけの三人組を見たライトは閉口し、バリューは自分たちがこうなっていないかと不安になってしまうほど、あっけない戦いだった。

 そのようなことがあったせいで、手合いをしたり話し合ったりすることになったわけだった。


「結局、この人たちは一体何を言いたかったのかな?」

「自身の技量を相手に教えることで、相手から戦意を喪失させようとしたんじゃないか? 俺たち以外が聞いても、多分、どうってことなかっただろうけどな」

「ん? それってつまり?」

「そうだな、要するにただの自慢だ」

「あぁ、納得した。……バカだなぁ」


 バリューは憐れみを向けるような表情で、倒れている三人組へとポツリと呟く。


「あ、そうだ」

「どうかしたか?」

「この人たちがどんな種族か分からない私でも、これだけは言えるよ」

「……ん?」

「何者を相手するとしても、過度な自信、自尊心、怠慢、慢心はダメ。絶対に」

「ああ、そうだな……」

「ライト……? ちゃんと聞いてる?」


 急に辺りを見渡し始める彼へと、訝しげに問いかけるが、帰って来た返事は、全く別の事だった。


「……おかしいとは思わないか?」

「何が?」

「この草原は危険な獣も、人の手が加えられた形跡もないだろ?」

「うん、それはさっきからずっとそうだよね」


 現に、そこで伸びている三人組以外の生物の姿を見ていない。

 肉食獣がいるなら襲い掛かってきていてもおかしくなく、羽虫がいるなら先ほどまでの手合いの最中に飛び出してきていただろう。

 二人の表情が鬼気迫るものだったから、恐れをなして襲ってこなかったのかもしれない。

 どちらにしろ、手合いの途中で乱入してきたところで、邪魔ものとして両者から制裁を受けるのは間違いないだろうが。


「俺もついさっきまで気付かなかったが、本来、この二つの状態が一致することはないはずだ」

「え、そうなの?」

「人の手が加えられているなら、獣や虫が居ないことはまだわかる。そして、その逆もそうだ。だが、どちらともこの場に存在しないということは、()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことにならないか?」

「……ねぇ、それって、マズいんじゃないの?」

「非常に不味い。呪われた土地か、毒草地、もしくは危険生物の温床か……。どちらにしろ、碌な場所じゃないだろうな」


 焦りが見える彼の表情を汲み取ったのか、バリューの顔もどんどん青ざめていく。

 毒草だったなら、彼女にとってはそこまでの問題はない。

 だが、思い返してみると、手合いの途中で精霊術を使うことができなかったことを思い出したのだ。

 つまり、この土地には精霊の加護すら存在しない危険地帯の可能性が高い。


「とりあえず、急いでこの草原から抜け出すぞ!」

「で、でも、この人たちはどうするの!?」

「やむをえないが置いていく! 何があるかわからないのに、他人に気を使っている余裕なんてないだろ!」

「―――そう、だね。正直置いて行きたくないけれど、こんな所で手痛い怪我を負ってしまうわけにいかないもんね……」


 茜色に染まりつつある空に、紅く照らされていた二人は、慌てて身の回りを整え、ついさっきまで手合いをしていた疲れを見せない走りで、その場を後にする。



 その後ろ姿を、三つの視線がじっと見つめていた。

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