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カウンセリング その3

「あらやだ、もうこんな時間!? 洗濯物を取り込まなきゃ!」

「もう日が暮れてきたんだ……」


 なんてことない些細な話から、普段は口にすることがない女性ならではの話など、話に盛り上がっているうちに、外はだんだんと日が暮れ始めていた。

 わたわたと食器類を片付け始めるオルカをよそ目に、バリューは赤々と染まる空を窓から見上げ、ほぅと吐息を漏らす。

 ティーカップを流し台に置いて戻ってきたオルカが一瞬硬直するほど、肘をつき憂いを帯びた目で空を見つめているバリューの姿は映えるものだったが、自分の問題を考えていた時とはまた違う表情だったこともあり、ためらいがちに声をかける。


「あら、そんなに驚くことだった?」

「……うん。ここまで誰かと長話するのは多分初めてだから」

「ライトくんとは話さないの?」

「話さないことはないけど……。ほら、ライトって余計なことは喋りたがらないから」

「まあそうよね。だって、話していてもつまらなさそうだし」

「つまらなくはない、と思う。ただ、自然に途切れちゃう感じ」

「ふぅん」


 その辺りは彼が自然と切れるような流れで話しているからかもしれない、と先ほどバリューと会話していた時に案外お喋りなんだなぁと感じた、オルカは結論付ける。

 同時に、会話しているうちに気がついた点について、どうしても彼女へと聞いてみたくなり、手に持っていた洗濯カゴを下ろすと、そっとベッドへと近づいた。


「わたしがバリューちゃんに驚いたことは、エルフだからとしても俗世に疎いことね。さっきの言葉から受け取ると、今まで誰かと話す機会はあまりなかったのかしら?」

「うっ、そ、そんなことはなかったと思うけど……、確かに興味がなかったのはなかったけどさ……」

「ふむふむ、なるほどねぇ」

「な、何!? 急に近づいて来て……!」


 笑みを浮かべたままのそのそと近づいてくるオルカにだいぶ怯えながら、ベッドの角へと追いやられるバリュー。

 はたから見ると一部のコアなマニアに人気な、サメの奇抜喜劇(シュールコメディ)の一幕にしか見えなかった。


「バリューちゃんって、もしかしなくても騎士じゃないかしら?」

「さ、さっきからどうしてわかるわけ!?」

「だって、そんな鎧を着ている冒険者なんて殆ど見かけないわよ。人と話す機会がないとか、主を守る為なら多少盲目的に敵と戦ったりする騎士ならよくある話だし、バリューちゃんが生身でも戦えるエルフだから尚更ね」

「むむ……。ライトみたいに推理してるし……」

「イルカは頭も良いのよ? でも安心して、わたしも旦那も二人の事情を詮索する気は無いから。でも、ライトくんとはよく話し合う仲だから……もしかして、ライトくんってどこかの国の王子さまだったり!」

「流石にそれはないから……」


 間違いなくライトは王様ではないと思うが、オルカがそう言うものだから、何の気なしに王冠を被り豪勢な衣服を着用している彼の姿を思い浮かべてみる。


(……うん、やっぱり似合わない。というかとにかくダサい。王様っぽさが感じられないし、愛想笑いとか絶対下手くそだもん)


 心なしか相棒のことを散々ディスっているが、彼女にとってのライトは、仏頂面で頭の固く、嘘がとにかく下手くそなただの青年に過ぎない。

 それか、彼が言っていた『跳ね回る百科事典』だろうか。

 ちょっとだけ想像してみると、ページをパラパラ開きながら、左右にぴょんぴょん飛び跳ねている分厚い本が、バリューの脳内に思い浮かぶ。

 ……そのまま吹き出してしまいそうになったので、ぶんぶんと頭を振り、わけのわからない物質を頑張って忘れた。


「さてと、お菓子も紅茶も仕舞ったから、あとは洗濯物ね……。そろそろライトくんも返ってくると思うけど、他にわたしに聞きたいこととかないかしら?」

「じゃあ、一つだけ。……やっぱり、あと数日はベッドの上じゃなきゃダメかな?」


 会話していた時のバリューは楽しそうではあったが、やはり通常ならば森に住まうエルフゆえか、動けないということは非常に辛いようだった。

 業務上、活発に運動することはないオルカでも、流石に彼女をこのままベッドに縛り付け続けるのは、精神に更なる苦痛を与えかねないということぐらい気づいている。ならば……。


「うーん……。身動きできないのは酷だし、軽い外出だけならいいんじゃないかしら」

「それって、ロウエンから叱られたりしないの?」

「散歩も許さないほど、わたしの旦那は厳しくないわよ、多分。それに、バリューちゃんが何か悪さすれば、この島のどこにいてもすぐにバレちゃうから」

「えっ? 何それ?」

「わたしの口からはこれ以上は言えないわねぇ。旦那に直接聞いたらいいわよ」

「???」


 唐突にわけのわからないことを口走られたので、話についていけなくなりかけているバリューに気がついたのか、オルカは咳払い一つすると惚気た笑みを真面目な表情に戻す。


「だから、絶対に無理しちゃ駄目よ? バリューちゃんの精神性は随分と若々しかったけれど、身体年齢から考えると十分おかしいことになっているわけだから。(まるで、ここの島の人たちと同じみたいだもの……)」

「ここの島の人……?」

「あ、な、何でもないわ! さぁて、あまり食べ過ぎちゃったらお夕飯に食べきれなくなっちゃう。バリューちゃんも話し疲れちゃったでしょ? 少しおやすみなさいな」

「ふぁあ……。うん、そうする……」


 オルカの提案を首肯するようにバリューは大きな欠伸を発する。

 ライト以上に重傷で体力の消耗も激しいというのに、お菓子を食べてオルカと長時間の会話をしているのだから、当然と言えば当然のことだった。


(……ライトは、今頃何を考えているのかな)


 シーツを被り、久々の枕に顔を埋めて目を瞑ると、自然と頭に浮かんできたのは、この場にいないライトのこと。


(大声で笑ってる姿も、涙を流して泣いてる姿も、私は見たことがないけど……、ライトは私をどんな風に見てくれているのかな……)


 答えのない問いは次第に薄れ、安らかなる眠りへと誘われていった。

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