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カウンセリング その2

「なるほどねぇ……。そこまで思い詰めるくらいなら、ライト君に素直に聞いてみたらいいと思うわよ」

「聞いたところで、気を使われるだけだって」

「あら、わたしはそう思わないわよ? 」

「……オルカは、ライトの気持ちがわかるの?」


 バリューの悲壮的な表情が突如、ジトりと睨みつけるように変わった。

 相棒のことをまるでわかっているように言われたことによる疑心か、はたまた嫉妬か、或いは……。

 とはいえ、これといって詮索することなく、コロコロと顔色が変わるものなので面白いなぁと思いながら、オルカは問いに答える。


「気持ちまではは流石にわからないわ。でも、わたしを正面から見て怯まなかったり、状況説明があそこまで上手だと、冷静で頭がキレる人だってことはわかるわね」

「あ、口を開いたら怖い顔だっていうのはわかってるんだ」

「あら、何か文句があるかしら?」

「な、ナンデモナイデス」


 オルカがちょっとだけ脅すように口を開いてみせると、バリューは狭いベッドの端に後ずさる。やっぱり面白い。

 しかし、今は彼女をからかう時ではなく、あくまでカウンセリングをしている場だと気持ちを改めた。


「さっき、自分の力を上手く使えないから後悔ばかりしているって言ってたけど、常に全力を出せて後悔をしない人なんていないわよ。そんなに悩まなくてもいいんじゃないかしら?」

「……わかってる、いつも役に立つなんて出来ないってことぐらい。でも、肝心な時くらい役に立ちたい。だから、今の自分を受け入れるって決めたのに、それからずっとライトの足を引っ張ってばかりいるのがつらい」

「そう……」


 オルカの相槌を首肯するように、強く拳を握りしめるとバリューは再び俯く。

 蒸気船では初めて見る光景にはしゃいでぼろを出しそうになり、海賊船内では医療知識がないためライトに適切な処置を行うことすら出来なかった。

 そして今、こうして酷い怪我を中途半端な治癒で直し続けてきたツケが回ってきて、長時間の安静を余儀なくされている。

 それが、彼女にとって酷く辛いことだった。


 とはいえ、そうなっても仕方ない事情もある。

 蒸気船では興奮している人の方が少ないほどの反響があり、海賊船内だとそもそも医療道具がないだけでなくや精霊を呼び出せない環境だった。

 道中の傷を精霊術で癒していたのも、その場に留まる時間を短く抑える為といった理由であり、決して雑な手当てをしていたわけではない。


 それでも、彼女は自身を責める。

 ……では、それはどういった理由からなのだろうか?

 水面に波紋を立てないように触れるように、オルカはゆっくりとバリューの心へと足を踏み入れる。


「――――でも、それってライトくんから叱られたりしたの?」

「それは……。注意はされるけど、そんなに強く怒られることはあまりないと思うけど……」

「うんうん、そうでしょうね。それこそが答えよ」

「――――? ちょっと、よくわからないんだけど……」


 戸惑いと恐れからくる震え声。

 聞いただけでオルカは半ば確信を持った。

 何かを成せないことに対しての恐怖に近い感覚、それこそが彼女における大きな問題ではないかと。


「さっき言ったけれど、ライトくんは頭がいい人だと思うのよね。だったら、善し悪しがあるときは、ちゃんとわかるように伝えてくれるんじゃないかしら?

 同じ旅路を歩む相棒なら尚更ね」

「……」

「だから、バリューちゃんが誰かに咎められる謂れなんてないわ。何が出来る出来ないなんて個人差なんだから。それにね、貴女は自分の問題に苦悩してより良くなろうと足掻いている。それだけでも十分に凄いことなんだから」


 水中のように静かでおおらかで、されどどこか強さすら感じられる言葉に、バリューは顔を上げる。

 影に沈んでいた室内はいつの間にか返ってきた日差しに照らされ、再び光の下へと浮上していた。


「どうして、心配してくれるの?」

「わたしがカウンセラーだから、じゃ駄目かしら?」

「そんなことはないけど……」

「バリューちゃんもライトくんも何かと重く考えがちなところがあるように見えるのよ。もっと気楽にいきましょう? 少なくとも、この島……はさておき、この診療所にはわたしたちがいるんだから、今はゆっくりと英気を養いなさいな」

「……うん。 ありがと、オルカ」

「どういたしまして。さて、この話は一旦やめて、お菓子を食べましょ。入れた紅茶も冷めたら美味しくないわよ?」


 悲痛な面持ちから一変、花が咲いたように笑いかけるバリューに微笑みを返し、中断していた食事の手を促す。


 ……それでもオルカは経験上わかっていた、彼女の不安を払うには一手足りないと。

 事実、バリューがこのように諭されたことは決して一度や二度ではない。

 だとしても、彼女の凹み様を見る限り、その言葉はそれよりも強い何かに打ち消されているかのようだった。


 きっと、表面上だけでは駄目。

 もっともっと深く、誰も触れさせなかった秘所。

 鎧と肉体で厳重に守られている心奥に触れなければ、彼女に突き刺さった幾重もの銛を取り除くことは不可能なのだ。


(問題は、そこまで深く潜れる人が居ないことかしら。バリューちゃんの過去に飛び込むことすら出来ないわたしは論外だから、ここはやはりライトくんに頼むしかないわね……)


 今頃ユニとアレスに案内されて、ストラク王と謁見しているであろう、誠実そうでいて色すらわからない深海よりも深い暗闇をその瞳に湛えた青年。

 彼も一癖も二癖もありそうだったので、そのうちカウンセリングしなきゃなぁ、と顔色を変えずに考え事に耽っていたオルカだが、あっという間にお菓子の半分を食べ尽くしたバリューに気付き叱咤する。

 懲りずに怒られることばかりやっているので、加減することなく大口を開いて威嚇すると、案の定、彼女はビクビクと怯えることとなった。

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