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旅路の途中、盗賊に絡まれる

騎士とは、己以外の誰かを守る者である。


誰に対しても誠実で、強き信念を持つ者である。

また、不屈の闘志と恐れを知らぬ勇気、そして戦闘技術を兼ね備えた者である。

だからといって、正義と平和を忘れず、決して驕るべからず。

常に崇高で、統率の取れた行動を心掛けよ。

礼儀を重んじ、正直かつ高潔であれ。

弱きを守り、寛大であれ。


さすれば己が守りたいものを、守護できることであろう。


―――『十忠制度誓約書』前書。『騎士とは何者か』より抜粋。

「なあ、金、持ってんだろ? 何も言わず、さっさとこっちによこせよ」


 そこは、人里から少しばかり離れた、左右を森で囲まれた一本道。

 その道を進もうとした二人の旅人は、盗賊のような姿の男たちに道を阻まれていた。

 弓矢を背負い、不潔そうな服を着たリーダーらしき男は、先ほどまで目の前を歩いていた二人組へナイフをちらつかせ、ニヤニヤと下品に笑う。

 周りにいる仲間らしき奴らは、その様子を見つつも、リーダーの前に立つ二人へと、睨みを利かせていた。


「いえいえ、俺たちはただのしがない旅人です。必要最低限の持ち物しか持ち歩かないので、俺と後ろの彼が、次の町で宿を借りるくらいのお金しかありませんよ」


 頭以外は比較的柔らかいレザープレートを身に纏った、どこにでもいそうな黒目の青年は、ツンツンと尖って見える黒髪とは裏腹に柔らかい物腰で、後ろにいる人物に目を配りながら少々自虐的に答える。

 青年が言っていることに偽りはない。彼らにとって贅沢は敵であり、身の程をわきまえていないと言わんばかりの事である。

 そのため、彼らの財布はいつでも空に近く、基本的に野宿して生活しているのだ。

 しかし、恐らく盗賊であるだろう周りの男たちは青年たちの身なりを見て、金を持っているのだと勘違いしているようだ。

 まあ、そう思われるのも無理はないだろうなと青年は思う。

 なぜなら……。


「いや、あんたらは絶対大金を持ってる。なにせ、そんな立派な鎧や武器を持っておいて、金がないはずがないからなぁ」

「そうですか……?」

「こう見えても俺は元鍛冶屋なんだぜ? 造りを見ただけで、その鎧が一級品の物だってわかんだよ。あんたらきっと、どっかの国の騎士様だろ?」

「……凄いですね、貴方の審美眼は。感服するほどです」


 男の洞察力は鋭く、見事なものだった。

 確かに、青年たちは騎士である。

 だが、こんな森奥で鎧を着ているやつといえば、追剥に成功して慣れない鎧姿をさらしている盗人か、護衛対象を見失い焦っている間抜けな騎士のどちらかとしか考えられないため、結局のところ二択問題にしか過ぎない。

 ……まあ、青年たちはそのどちらにも当てはまらないのだが。


「…相変わらず、ライトは交渉事が不得意だな」

「小声で言ったようだが、聞こえているぞ、バリュー。そういうお前の方が大概だ」

「…そんなことは―――」


 今まで一言も発していなかった、全身を巨大で堅牢な鎧で覆っている人物……バリューに小言を言われ、青年……ライトはむっとしながらも返事を返す。

 愚痴を返されたバリューは文句を続けようとするも、男の方が我慢できなくなったのか、少し険悪になっている二人へ再度告げる。


「人数的にも其方の方が不利だってわかるだろ? 勝てない相手を前にうだうだ言ってないで、早く金をよこせ」

「…『勝てない相手』、か」


 その言葉が、足止めされてイライラしていたバリューへ油を注いだ。


「…そもそも、私達が一級品の鎧を持つ騎士だと判っているのであれば、争いになるようなことは避けるべきではないか? 少なくとも、私たちはお前たちに負けるほどやわではないぞ」

「おい、バリュー……」

「おや? 後ろの旦那は全然喋らない木偶の坊かと思っていたが、結構血気盛んなおバカさんじゃないか」


 男の言葉に興味がないのか、バリューは慌てるライトへと言葉を返す。


「…話を聞かない奴の相手をするのは時間の無駄だ。さっさと片づけるぞ、ライト」

「はぁ……。分かったよ。(無用な争いをする方が、よっぽど時間の無駄だと思うんだがなぁ……)」


 明らかに蹴散らす気になっているバリューを見て、ライトは肩を落とし溜息を吐く。

 だが、男たちの様子を観察すると、金を渡してくれなければ武力行使に出ることは明らかだった。

 今回ばかりは、武力で制圧しないと諦めてくれそうにないことを悟り、ライトは腰の剣へと手を伸ばした。


 確かに、人数としては盗賊たちが有利だろう。

 だが、如何せん装備が貧弱だ。

 鎧を着ているものは誰もおらず、持っている武器はリーダーらしき男以外、全員ナイフ一振りだけだった。これならば多少人数の差があっても、本物の騎士である二人が相手では勝ち目があるかは微妙である。

 しかし、男は二人が臨戦態勢となる様子を見ても、顔に笑みを残したままだった。


「おっと、流石に鎧すら着ていない俺たちじゃケガしちまうからな、あんたらの相手はこいつらにしてもらうよ」


 男が告げると同時に、周囲の木々の影から大小さまざまな鎧を纏い、短剣や槍、槌や斧など多種多様な武器を持つ戦士たちが現れた。

 ……そう、最初から二人は囲まれていたのだ。


「……なるほど、卑怯者がやりそうなことだな」


 臨戦態勢となったライトは先程の柔らかな物腰とは一転し、髪型と同じように鋭くとがった雰囲気となる。


「ほざいてろ。あんたらの鎧は高く売れそうだったが…まあいい。金さえ奪えたらそれで充分だ」

「…所詮、盗品で武装した集団だ。相手にならない…すぐに終わる」

「それはどうかな? ……やれ!」


 リーダーらしき男の合図とともに、戦士たちは一斉に二人へと襲いかかった。

 騎士たちはたったの二人、対する盗賊たちは圧倒的な人数に、豊富な武装があった。

 そして、抵抗しようとした哀れな騎士たちは、なすすべなく死体を晒すことになる。


 ―――そのはずだった。


 人数差や武装を比べると、こちらの方が明らかに有利な戦いだと考えた男は、勝利を確信していた。

 だが、戦闘が開始してひと時の間もなく、二人組の騎士を殺しきれると踏んでいた戦いは、一向に終わる気配がない。

 それどころか、戦士たちの方がじわじわと押されている状況に、盗賊の男は焦り始めていた。

 ライトはまるで全方向に目が付いているのではないかというほど、戦士たちの動きをかわし続け、的確に相手の武装の弱点を突いてくる。

 対するバリューは、戦士たちの攻撃を受け止めながらも微動だにせず、敵の動きが大降りになった隙を逃さず、剣を振るって薙ぎ払う。

 未だ二人の騎士は余裕を持って行動しているのに対して、盗賊たちが雇った戦士たちは、焦燥の表情を浮かべ始めていた。


「おいお前ら! たった二人相手に何手間取ってんだ!」


 男は、苦戦を強いられている戦士たちへと怒鳴り散らす。

 それは、人数差もあるが、立派な武器を持っているのに一撃も二人組へと当てられていない事が大きかった。


(なぜだ……! なぜあいつらはあんな武器で俺たちとやりあえる!? あんな武器でこの大人数を圧倒するなど……何かの間違いだ……!)


 そもそも、二人は防具こそは上等ではあったが、武器はおかしな代物だった。

 ライトが持つ剣は、所謂、装飾品の類とみられるものであろう。

 直方体の黒い剣身に、その剣身の角に合わせて伸び、途中で角の方へ爪が伸びている鍔。

 出縁(しゅつえん)型でやけに大きく、取り回しが悪くなりそうな柄頭をもつ、真っ黒な直刀を扱っていた。

 また、バリューは、その巨大な鎧ですら隠し切れないほどの大きな剣を背負っていたが、そこまで巨大な剣は持つことすら常人ではほぼ不可能である。

 それに、柄頭に至るまで全てが剣身であり、その一部をくり抜いて柄がはめ込まれているといった形状では、うまく振るうことなど到底不可能だと思わせる。

 さらに、その表面は傷や刃こぼれが多く、明らかに物を切れそうな見た目ではない。


「畜生……どうなってやがる……!」


 一向に思わしくない戦況に男は忌々しく呟く。

 見たところ戦えるとは到底思えない変な武器で、目の前にいる騎士二人はこの大人数を捌ききっている。

 それが、男にとっては全く解せなかった。


 男が混乱するのも無理もない。

 なにせ、彼らは普通とは呼べない剣で、剣術とは一線を画した剣の扱い方をしているからだ。


 ライトが扱っている剣、正式名称を『破剣』というが、その扱い方は棍や槌に似ていた。

 直方体の刃や出縁型の柄頭を相手の武器や防具に打ち付け、耐久性を削ると共に、打撃のダメージを鎧の上から与える。

 また、相手の刃を直方体の剣身で受け止め、鍔へと滑らせた後、てこの原理を用いて剣を根元から破壊していた。


 そしてバリューが扱っている剣、正式名称を『壁剣』というが、その扱い方はまるで盾のようであった。

 バリューが着ている鎧よりも大きなその剣は、前方に持ってくるだけで十分に巨大な盾となり、相手の攻撃を殆ど弾くことができる。

 それだけでなく、そもそも、バリューが着ている鎧自体も非常に硬いため、四方から切られようが平然としていられるのだ。

 それに気づかず攻撃してくる奴らは、大きさや重量には見合わない速度の大剣で横へと薙ぎ払われる。

 その威力は、屈強な男であろうが無傷で済まされないどころか、遠くへと吹き飛ばされるほどであった。


 自称鍛冶屋の男が混乱するほどに、どちらとも見た目は明らかに戦闘能力などなさそうな代物なのだが、知る人ぞ知る業物であり、彼らがその剣を自らの手足のように扱うからこそ、彼らが操る剣に名が付けられたのである。


 男が呼び出した戦士たちは、目の前にいる二人と実力がかけ離れているということも知らず彼らと対峙し、直剣で武器や防具を破壊され、大剣で吹き飛ばされ、ことごとく大地へと突っ伏していった。


(ちぃっ! こうなったら…!)


 ピュィィィィィィィィィィィィ!!


 男は背負っていた弓矢を構え、上空へと放った。

 矢は甲高い音を響かせながら空へと昇っていき、音を聞いた戦士たちは倒れた仲間たちを引きずりつつ、急いでその場から離れていく。


鏑矢(かぶらや)? 急になんだ……?」


 矢の音を聞くとともに戦線を離脱した戦士たちを見つつ、ライトは疑問を覚える。

 だが、その疑問を解決する前に、男が二人へと駆けよって来た。

 警戒を解くことなく、再び武器を構えなおした二人に向けて、男は―――。


「いやいや、数々の無礼を働いて、大変申し訳ありませんでした!」

「…は?」


 急に、二人から少し離れた場所で、地に足を突いて謝りだした。

 それは、先程まで恐喝していた姿とはかけ離れた、潔い謝罪っぷりだった。


「あなた方が、まさかこれほどの実力を持つとは、夢にも思わなかったのです!」

「…何言ってんの、あんた?」


 今にも泣きだしそうになっている男に対して、バリューはまるで汚物を見ているかのような、絶対零度の視線を送る。

 やっぱり、バリューは怒らせない方がいいな。とバリューを横目で見て、ライトは肩の力を抜き、破剣を腰のベルトへと戻した。


「これ以上の武力行使は、もはや意味がないものだと悟りました! あなた方は実にお強い! どうか! これまでの無礼を許してはいただけませんでしょうか!!」

「…へぇ、さんざん鬱陶しいことをしてくれた割には、平謝りで許してもらおうと思っているのか」

「どうか! どうか‼」

「…知るか! ってかあんたの放った鏑矢うるさい! いつまで鳴り続けているんだよ!」


 怒りが収まらないバリューは、未だ鳴りやまない鏑矢に対してまで、矛先を向けて文句を言い始めていた。

 ……だが、ライトはそこに違和感を覚えていた。


(―――おかしい。撤収合図にしては、まだ殺気を感じる)


 鏑矢は殺傷能力が低く、合図としてよく使われていた矢である。

 その矢を上空に放つということは、何かしらの指令を伝えたことだと考えられるが、撤収合図をわざわざ鏑矢で行う必要が無い。

 それに、違和感はもう一つ。


(どうして、鏑矢は鳴り続けている? ―――いや、違う、鏑矢じゃない! これは…!)


「バリュー! 上だ!」

「そうですね……」


 ライトが警告の声を掛けるタイミングと同時に、男は語った。

 そして、下げていた頭を振り上げ、上を見上げた二人を見つめる。

 その顔は満面の笑みをしていた。


「あんたらが死ぬまでだよ!!」



 ―――瞬間、辺りに閃光が走り、二人は爆発に飲み込まれた。

皆さま、初めまして。影斗かげますついたちと申します。

若輩者ですが、何卒宜しくお願い致します。


これ以降の後書きは、各話の最後に書かせて頂きます。

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