それはもう突然です
アレン様からのご連絡がパッタリと止まりました。
手紙の返事もありません。
シェリー様と上手くいった?
真面目なアレンのことだから、それならば報告があるはずである。
今までも何かあれば手紙を下さって知らせてくれた。
メリッサは自分のした粗相に思い出そうとする。
一つはラブラブに見せよう作戦。
二つは強気に説教。
三つはジルの意地悪…
思い出そうとすればいくらでもあるのですけれど!
頭が痛くなって、ベッドに横たわった。
やっぱり私に婚約者はおろか、主要人物の取り巻きなんて無理だったんだわ。
これからは大人しく、野次馬として生きていくの。
ウトウトとまどろんでいると、急にメイドから揺すり起こされた。
「アレン様がいらっしゃいました!」
「ほへ?」
変な受け答えをしたあと、髪を無理矢理整えられて応接間に向かった。
「メリッサ様!」
久しぶりに見たアレンはやっぱりかっこよくて遠い人に思えた。
しかし、次の瞬間ハグされる。
あれ?私たちこんなに距離が近かったですか?
強い力で抱き締められ、メリッサは動けなくなってしまった。
これは、何?
「この度は私が絶縁となってしまい、お家間での婚約関係は無くなってしまいました。しかしこの婚約を進めたく思っております。」
アレンが固まってしまったメリッサの頰を撫でる。
「メリッサ様、結婚してください。」
アレンは跪くとメリッサの指先にキスをしてそう言った。
誰と誰が結婚?
メリッサは頭が真っ白になり、そのまま後ろへ倒れた。
**
ブースブース!
分かっておりますわ!ったくジルが結婚しようと、誰が結婚しようと祝ってあげるわ!
なんたって私はみんなに祝われてめでたしめでたし、のみんなになるんだから!
私が欲しいのは小さな幸せ!それ以外いりません!
私が調子に乗った時に見る戒めの夢だ。
そして幸せの呪文。
脇役だといつも幸せでいられた。
わら他人の幸せを自分の幸せにするとすぐに満たされた。
それがまやかしの幸せだったとしても。
メリッサはゆっくりと目を開けた。
視界には心配そうに見つめるアレンの姿があった。
「もう大丈夫ですから、そんなお顔なさらないで。」
そう言って、メリッサは微笑みかけた。
「愛しています。メリッサ様。」
アレンがメリッサの手を握る。
その瞬間、メリッサは目を見開き、全身が逆立つような感覚に襲われてしまった。
訳の分からぬ理論を聞かせられて頭がついていかない。
混乱していると、メリッサが倒れたと聞いた父と兄が部屋に入ってきた。
「メリッサ!大丈夫かい?」
「ええ。もう大丈夫よ、お父様。」
メリッサがニッコリと笑うと父は安心したように肩をなでおろした。
兄の方はメリッサと手を繋いでいるアレンを睨みつけている。
「この度はメリッサ様との婚約継続のお許しをいただきに参りました。」
アレンがメリッサの手を握ったまま話し始める。
これでは二人で申し合わせたように見えてしまう。
しかしメリッサは混乱して動けない。
「私が父とは縁を切ってしまったため、お家同士の婚約破棄になると後日連絡があると思います。しかし、私はメリッサ様とは婚約を継続したいのです。」
「失礼ながら、今は何を?」
アレン必死の訴えに対して兄は冷たく言い放った。
流石の父も眉間にしわを寄せて、聞いている。
「今は騎士として身を立てています。以前の様な生活を提供はできないかもしれません。しかし、メリッサ様と離れたくないのです。誠心誠意メリッサ様を大切にします。どうか、どうか!お許しいただけないでしょうか!」
是とも非とも言えない空気が流れる。
それを切り裂いたのはメリッサの母だった。
「あら!まぁ素敵!やっぱり結婚には愛が必要ですものね。流石旦那様のお見立てですわ!」
メリッサの父に寄り添い、目を見ながらウットリとした表情で言う。
そうなれば、父も何も言えない。
「ですが、母上!」
「そろそろ妹離れして貴方も結婚してはいかが?」
次は兄が絶句する。
もう反対する人間はいない。
母はやったわよ、と言わんばかりにメリッサに目配せをしている。
「メリッサ様は私に教えてくれました。大切な人は決して離してはいけないと。私にとって決して離したくない人はメリッサ様なのです。」
外堀を埋めて落城寸前のメリッサはキョロキョロと辺りを見回すが、味方はいない様だ。
嫌でもないので、強くも拒絶できない。
こうして策士、メリッサは策に溺れてしまったのである。