大作戦!
「夜会お好きなのですか?」
続く夜会へのお誘いにアレンがメリッサに訊ねた。
「いえ、まったく。しかし、策あってのことですわ。」
メリッサのシナリオ的には、アレンが元婚約者と再会のち再燃、自分は臨機応変に応援、またはスパイス係に勤しむという計画である。
自爆は辛いですが、これも私とアレン様の幸福のため!
私はロマンス堪能し、アレン様は愛する人と結ばれる…利害の一致ですわ。
想像するだけでメリッサは笑いがこみ上げてきた。
メリッサは今宵もハンカチを手にして笑みを隠す。
これだけでは飽きられてしまうと髪飾りも勿忘草にしたりと、小さな努力を重ねてきた。
あとは、ヒロインを見つけるのみ。
「シェリー…」
アレンが小さく呟き、足を止めた。
そこには華奢で大きな瞳を持つ妖精のように美しい少女がいた。
あたりですわ!
メリッサの胸が大きくときめく。
私はこの時を待ち望んでいましたの!
アレンはシェリーと言う少女を無視して歩みを進めた。
シェリーの悲しそうな表情にメリッサも心を痛めながら、アレンについて行く。
私を紹介するなんて野暮なことはできませんものね。
でも、安心なさって!私は味方ですわ。
今よ!
メリッサは丁度シェリーと言う少女の前でハンカチを落とした。
あとは時を待つだけ。
「あら?私ハンカチを落としてしまったみたい。」
我ながら演技が上手だなと思いながら、メリッサはアレンに伝える。
「来た道を戻りましょう。」
そう言って一生懸命ハンカチを探すふりをして組んでいた腕を離した。
メリッサの読みが当たったようにシェリーがハンカチを持っているのを確認し、適当な場所でアレンからも離れていった。
メリッサはメインホールに一人で向かう。
きっと今頃、アレンとシェリーは運命的な再会を果たしてるだろう。
最初はぎこちなく、でも抑えていた感情が溢れるように見つめ合い、互いに想いを通じ会わせるの。
私のような脇役には一生訪れないような、幸せな時間を。
メリッサは必要なくなった髪飾りを取った。
少し寂しいが、清々しい思いだ。
もしこれでダメなら、悪役としてつついてあげなきゃ…でも嫌だな…
嫌われたくない、そんな気持ちが湧いてくる。
物語を面白くするためだけの自分がそんなこと思うなんて、なんて図々しいんだろう。
メリッサは初めて現実を知った気持ちになった。
「メリッサ、何ショボくれてんの?」
「ジル…ベアトリクスの所に連れて行って。」
話しかけてきたジルにメリッサが言う。
メリッサは今どんな顔をしているのか自分では分からなかった。
「メリッサ!どうしたの?そんな泣きそうな顔して。」
ベアトリクスがメリッサに駆け寄り、ジルの方を睨んだ。
「違うって。」
ジルが慌てて否定する。
「うん、違うの。私…脇役のクセに羨ましいとか思っちゃって…」
この気持ちをどう表現した良いのかわからないけれど、一つ言うのならばアレンとシェリーが羨ましかった。
脇役でいいと言いながらも、本当は好きな人のお姫様になりたかった夢を捨てきれなかったのだ。
「メリッサの人生はメリッサが主役なんだからいいじゃない。現実を見れるようになったじゃん。いいことだよ。」
ベアトリクスがメリッサを優しく抱きしめた。
「うん、少し自分についても考える。もしもの時はジル、誰か紹介してね。」
安心したようにメリッサは深呼吸する。
迷子になってしまった心が居場所を見つけたようにすっぽりと治った。
「今のは自業自得だから慰めないからね、ジル。」
「分かってるよ。」
「メリッサ様!」
息を切らしたアレンがメリッサを呼んだ。
「あの…何故ここに?」
メリッサは不思議そうに首を傾げた。
「ハンカチをなくした挙句、貴女まで見失うなんて…今日はもう帰ります。」
アレンがメリッサの手を掴む。
「嫌がってるんじゃないの?」
ジルがアレンの前に立ち塞がった。
ジルも父や兄さんのように過保護だ。
私が変な顔をしていたから気にかけて守ろうとしてくれているのだろう。
口は悪いし不器用だけど。
ベアトリクスとジルはなんだかんだで、私のことに気づいてくれて助けてくれる、私の大切な親友。
「嫌がってはいませんが、怒っています。説教しないとですね。」
メリッサが静かにそう言った。
多分今はいつもの笑顔でいられた気がする。