夜会でご挨拶2
「いいのか、婚約者放っておいて。」
緩やかなダンスを踊りながらジルが言う。
「いいの。私がいたらアレン様が本当に好きな方が現れないでしょう。」
「あのな!」
ジルが少し声を荒げた。
「ジル、私の幸せは私が決めるの。見守るのが幸せだと私が言ったなら幸せなの。」
メリッサは落ち着いたまま、ジルの目を見た。
「それじゃあ、お前の幸せは…」
丁度曲が終わる。
「ジルが考えて。」
メリッサは悪戯に笑って、もう一人の幼馴染の所へ向かった。
「ベアトリクス、ご機嫌よう。」
「ご機嫌よう、メリッサ。ご婚約おめでとう。」
「ありがとう。」
赤毛の少し大人っぽい女性のベアトリクスはメリッサとジルの幼馴染で、幼い頃から3人でよく遊んでいた。
「ベアトリクス、聞いてくれよ!メリッサってば、自分の婚約者の恋愛を応援してんだよ。」
ジルがダンスの時の会話をベアトリクスに言いつける。
「…メリッサ、何考えるの?」
ベアトリクスは低めの声でメリッサを問い詰めた。
「だって…私と釣り合うわけ無いし…」
「自分の幸せは自分で考えないと逃げていくんだよ。ほら、婚約者様モテてるよ!」
ベアトリクスの視線の先をメリッサも向いた。
さっきまで一緒にいたアレンは整った容姿と家柄の良さからすぐに女性に囲まれていた。
「ふふ…これでアレン様も安泰ですわ!」
ベシッ
メリッサはベアトリクスから軽く頭を叩かれる。
「メリッサは誰と結婚するのよ?」
「別に爵位の無い方や平民の方でも良いし、小さな家に小さいけれど暖かい家庭を作るの!少しくらい苦労しても二人なら乗り越え…」
ベシッ
またベアトリクスから頭を叩かれた。
「本当に!夢は寝てる時にしろ!」
「私は至って真面目なんだけどなぁ…」
メリッサは頭をさすりながら遠くを見る。
自分とアレンが結婚するなんて想像もつかない。
なら誰と?
通りすがりの町娘は通りすがりの街人と結婚するのがセオリーだとメリッサは思う。
私は物語の中の通りすがりの町娘だ。
飛びっきり幸せになったりなどはない。
「じゃあ、ジルとかどうよ?」
「ジルには婚約者がいるでしょう?だから絶対に無い。」
「だってさ。」
ベアトリクスは慰めるようにジルの肩を叩く。
「ジル、もしもの時は誰か紹介してね。」
「メリッサは残酷だなぁ。」
落ち込むジルの肩を持ったまま、流石のベアトリクスも同情した。
「あと小説仲間たちにも挨拶しなくちゃ。」
「あぁ、あの夢見る乙女集団ね。」
ベアトリクスは現実派なので、メリッサは二人と離れて、違うグループへと向かう。
「メリッサ、婚約者おめでとう!」
「ありがとう!」
こちらではキャピキャピしながら話す。
この雰囲気落ち着くわ。
「ところでメリッサ、貴女はどの婚約者?」
「ちょっと変化系で相手の幸せ願っちゃう系友人婚約者ですわ。」
メリッサが鼻高々に話す。
「それって!円満誰からも祝福されるハッピーエンドじゃない!」
「激甘ですわ!」
一見、なんの話かわからない話も彼女達は通じているらしい。
「ふふ、もし好きな人が、いらっしゃるのならちょっと意地悪をして愛のスパイスになりたい気持ちもあったのですけど…」
「メリッサには無理だわ。優しいもの。」
「でも、物語に参加できるなんて羨ましいわぁ。」
「いやいや、役が大き過ぎて私なんかがこなせるか心配で…野次馬なら良かったのですけど…」
本当は今日の苦労を語りたいけれど、アレンの不名誉なことは言いたくなくてメリッサは言葉を飲んだ。
「そうね、野次馬が結局最高ですわね。」
「私たちは野次馬させていただくわぁ。」
「もう!ずるいですわ!」
メリッサも高みからの見物が一番良いけれど、一度首を突っ込んだからにはやるしかない。
私、本当にこれで良いのよね。
自分の幸せなんて考えられない。