夜会でご挨拶
まだ正式な婚約ではないが、挨拶回りをするために夜会へ向かう。
「家族以外にエスコートしていただくのは初めてですわ。」
はしゃいでいるメリッサと対照的にアレンはずっと浮かない顔をしている。
「…申し訳ありません。」
その謝罪の意味を着いて早々理解する。
「そちらが次の婚約者様ですか?」
メリッサを舐め回すようにじっと見た後、可哀想な視線を送られる。
これが、アレン様がやってきたこと。
幾度となく婚約破棄を繰り返してきた。
例えそれがお家の為とは言え、何も言わずに従っていたアレンは同罪に見られている。
でも流石にイライラしますわ。
「アレン様、私の差し上げたハンカチをお持ちですか?」
「はい、もちろん。」
「お借りしますね。」
私のハンカチを大切に使ってくださっているアレン様を私は信じたい。
メリッサは挨拶回りの際、刺繍の入ったハンカチを口に当てて笑う。
盛大に勘違いすれば良いわ。
気づく人は気づくだろう。
アレン様と同じ色の刺繍と勿忘草の意味を。
それを私に贈ったと勘違いすれば、私とアレン様の関係も盛大に勘違いされるはず。
そこらへんの宝石をいただくよりもわかりやすく情熱的な愛の示し方である。
そして、盛大な自爆でもある。
「自分の首を絞めてしまいましたわ…」
挨拶回りが終わり、一息つくと不意にメリッサは言葉が漏れた。
「そこまでしなくても…」
「私が悔しかったので後悔はしておりません!しかしながら、アレン様、本当に大切な方だけは離さないでいてあげてくださいね。」
メリッサは強い目でアレンを見る。
「…はい。」
「それでは仲直りしませんか?」
アレンを圧倒した後、メリッサは柔らかく笑って手を出した。
「はい!」
アレンはメリッサの手を取り、ダンスホールへ向かう。
それは仲良さげな婚約者同士そのものだった。
「やるべきことはやり終えましたね。」
「メリッサ様にはご迷惑をおかけしました。」
「婚約者とは分かち合うものでしょう?破産になった際も分かち合ってくださいね…」
一曲終えてメリッサがアレンと話していると、急に二人を塞ぐように男性が現れた。
「ジル?」
メリッサが男性の名前を呼ぶ。
「メリッサ、ご婚約おめでとう。」
そう言ってジルはさっきメリッサに当てられていた視線をアランに向けた。
「ジル!なんか態度悪いよ!」
加えてジルのメリッサへの馴れ馴れしい態度にアレンがムッとする。
「ごめんなさい、アレン様。幼馴染のジルです。こちらがアレン様、私の婚約者ですわ。」
メリッサがそれぞれ紹介する。
「へーあの噂の。」
ジルはいつになく喧嘩腰である。
「ごめんなさい、アレン様。ジルはこの通りな人で…幼い頃は私もよくブスといじられたものです。」
その言葉にアレンの目つきが鋭くなった。
「そんな昔のこと!」
ジルも少し慌てている。
「まぁ、世間知らずな私を目覚めさせてくれて感謝しているんですけど。」
幼い頃、溺愛してやまない兄と父から甘やかされてきたメリッサはきっとお姫様になれると信じていた。
しかしジルから散々ブスだと罵られ鏡を見た結果、今のメリッサが出来上がったのである。
今の脇役人生でとっても幸せだし、あのまま夢を見過ぎて痛い目を見なくて良かったとも思う。
全ては結果オーライである。
「それよりジル、アレン様に謝って!」
「…すみません。」
昔の話で弱気になったジルは素直にアレンに謝った。
「では、仲直りしよう!」
「はしたないなぁ。」
メリッサの差し出した手を文句を言いながらもジルが取る。
「アレン様、少々お待ちください。ついでに他の知り合いに挨拶してきますわ。」
メリッサは再びダンスホールへと向かった。