【序章】
私の部屋に不法侵入してきた不届き者はアルフレッドと言い、そのアルフレッドが驚きの新事実を私に教えてくれた。
なんと、不法侵入の不届き者は私だったらしい。
いや、こう表現してしまうと誤解されそうだがベランダから自分の部屋に戻ったまでは事実なのだ。
しかし、その瞬間にこちらの世界≪ヘルムフルス≫に召喚されてしまったらしい。
不法侵入といっても望まれ不可抗力で侵入してしまったのだから法には触れないだろう。
いや、このアルフレッドが言うことが本当であれば法すら違うのだから、治外法権が成り立つのかも怪しいが。
まぁ、何はともあれアルフレッドの言うことによれば私は聖女として世界を救うためこの世界に召喚されたらしい。
ちなみにだが、私の視力は一向に戻る気配がない。
世界を救うとか以前に誰か私の視力を戻してください。
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柔らかいソファーの上に座り紅茶を飲んで一息着く。
アップルティーに似たフルーティーさを出した紅茶で、入れられている容器は私の家には無いような高級そうな細めのティーカップであることからもこのアルフレッドの言うことに真実味を帯びてきた。
目が見えないのが本当に痛い。痛覚的な意味ではなく。
私の隣にはアルフレッドが座っている。
最初私が目が見えないと発言した際、彼はそれに慌てることなく対応してきた。
「手に触れますよ」と言いながら手にゆっくりと触れ優しく促す。少しの距離を歩き最初の部屋とは違うであろう部屋に私を導きソファーに座らし「とりあえず一度落ち着いてください」と紅茶のカップを握らせてきた。
目が見えない中の移動で心細かったが、思ったよりも不届き者もとい、アルフレッドがいい働きをしたのでそこまで慌てることなく流れに身を任せられていた。
落ち着いてはいたが喉が渇いていたのは事実だったので紅茶をいただき一息ついたところで冒頭の説明を受けたのだった。それがここまでの流れで、その存在を私にわかるよう少し触れるくらいの距離に座ったアルフレッドはそれはそれは丁寧な奴であった。
丁寧過ぎて癇癪を起す暇がなかった。
人よりは転生や召喚なんかが頻繁に起こる異世界系のネット小説を読んでいたので「あ~これが噂の聖女召喚か。すげぇ」という至極冷静な感想を持ったのだが、一つだけ叫んで怒鳴ってやりたいことがあった。
「なんで目が見えないの!!!!」
そう、こんな最初から難易度マックスな異世界召喚小説的展開望んでなかった。
普通に召喚してくれよ。いやそれはそれでいやだけど。まだましだろう。
目が見えないなんて異世界感を楽しめないではないか。
町の景観や王城なんかを見て異世界に来たのだと実感する展開は定番だろうが。
神よ…何故ここ一番大事な場面で目が見えないなんていうオプションを付けてくれたんだ。それなら最初から召喚なんてしないでくれ。生殺しだ。殺生だ。
この理不尽な状況に叫んでやりたい気持ちは山々だったが、アルフレッドの丁寧さに流されてしまいタイミングを逃してしまったのだ。一生の不覚。
だから普通に聞いてみた。
「ねぇ、あなたは私が目が見えないと言ったとき余り慌てていないようだったけれどどうして?」
すこし高慢なしゃべり方になっていることには目を瞑ってくれ。役に入り切っているのだ。
「それは、これが伝承通りだったからです。」
彼の言うことには。
この世界では昔から何度か聖女の召喚は行ってきたそうだ。
(なぜそんなに何度も世界が危険に瀕しているのかが謎だ)
毎度召喚された聖女のどこかに欠陥があり、それは召喚された際に生じたものらしかった。
私の前の人、先代は耳、先々代は足、もっと遡れば記憶をなくした聖女もいたらしい。
だから、今回の聖女もどこかに欠陥を持って召喚されると予備知識として備えていたらしい。
「まさか目が見えないとは思っても居ませんでしたが」
しかし、そう悲観するものでもないらしい。
時期はバラバラだが、召喚時に生じた欠陥はいずれ治るらしい。
それがいつになるかは不明で、何がきっかけに治るのかもわかってはいないらしいが。
「聖女の仕事には差し支えないの?」
「はい、ありません。基本的に聖女様が居てくださるだけでその地域は活性化し魔物は弱体化するのです。なので少し国中を回っていただくだけでこの国は豊かになり聖女様のお仕事としてはそれだけで十分です。」
国中を回るって、そんな簡単に言うけど結構難しいんじゃないか?と思いながら分かったと頷いた。
思っていることを飲み込んで賛同してしまうのは日本人の悪い癖だがしょうがないだろう。
私が聖女か…笑えねぇ~~