【序章】
変哲のない日々
それがこんなにも素晴らしいものだったなんて
誰もきっと気が付かない。
なくなってから気が付くというのは知っていたのに
それを実感したのはなくなってしまってから。
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バサッと布団をベランダに干して一つ頷いた。
「いや~お洗濯日和だわこれは」
サンサンと照り付ける太陽に時折吹き抜けるさわやかな風
青い空に心まで浮足経つ。
今日のノルマは午前中に平日の間にたまりにたまった洗濯ものを洗濯し干すことと、午後に1週間分の食材を買いに行くこと。
とりあえず午前中はクリア。
あとはお昼ご飯を食べてスーパーに行けば、今日もゆっくり心置きなくだらだらできるだろう。
よしと自分を叩き部屋に戻るために窓から部屋へ一歩踏み入った。
踏み入った途端真っ白になる視界。
ここでまさかの眼前暗黒感か?足元がおぼつかなくなりながらも体勢を整える。
突然だがここで眼前暗黒感をご存じない方に説明しよう。
ざっくばらんに説明するとすればそれは立ちくらみである。
目の前が一瞬真っ暗になることを指し、きっと全世界のほとんどの人が経験したことあるものだと思う。
それを難しく言うと眼前暗黒感である。中学生ごろによく目の前が真っ暗になる現象が多くなり
現代人の強い味方グー〇ル先生にお尋ねしたところこのワードが浮かび上がってきた。
当時は厨二病が流行っている時期だったこともあり、私はこのワードにとらわれてしまい、それ以来立ちくらみがあればその度に「やべぇ…眼前暗黒感が…」と盛り上がっていた。
そんな昔話をしていれば治るだろうと待っていたのだが、なかなか戻ってこない視力。
あれ…?なんで気が付かなかったんだろう…
眼前暗黒感は文字のまま目の前が真っ暗になること。なのに、今は目の前が真っ白…
あれ…?あれれ…?これ、やばい感じ?眼科か?眼科に駆けつけるべきか?
少し不安になってきだしたところで声が聞こえた。
「聖女様ようこそおいで下さいました。」
私…一人暮らししていて今は家に誰も居ないはずなんだけどな…
あっれれ~おかしいぞ~?
おおっとついうっかり365日殺人事件と向き合う中身は大人見た目が子供な人が出てきてしまった。
そもそもおいで下さいましたはおかしいここは私の家だぞ。
聖女か、例え人の家に不法侵入してきた不届き者だとしても私をそう呼ぶとは悪くない。
「あの…聖女様?」
え?美人?あらやだ嬉しい。もっと言ってくれちゃってもいいのよ?え?美しく可憐な聖女?ありがとう。
いやいやいやいや調子に乗るんじゃない自分。
聖女とか柄じゃないだろう自分。
ここで落ち着かなくていつ落ち着くんだよ…今でしょ…
「……聖女様?」
おおっとこれは古い。やってしまった感があるな。あの先生は今もテレビで拝見するがネタは古かったようだ。時代は進むね。
そうこう無駄な思考で時間を稼いでいたのだが、一向に戻ることのない視力。長いよ。普段はもっとあれ?真っ暗?と思った瞬間に治るだろう。
目は開いているのに世界が見えない。今自分がどういう表情をしているのか考えるだけで怖い。
視力が戻らないままでこの不届き者と対峙しなければならないとは。
いやでも、しかしだな単純と思われるかもしれないが、この不届きものは私がこうやって無言で時間を稼いでいても接触すらしてこなかったのだからきっといい不届き者なのだろう。(いい不届き者とはなんだろうか)
「ごめんなさい、今あなたが見えないの。あなたは誰?」
とりあえず振り返ってみても私とこの世界とのエンカウントは上出来であったといえよう。