最終回 引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら
朝倉さんを倒した俺は、願いを叶えてもらうため、戦いを見守っていたケルビムの元へ行く。そして、ケルビムは俺の右肩に手を乗せ、何やら唱えると願いは叶ったと言う。
「随分あっさりとですね。それで生き返った連中は?」
「生き返った勇者達は今頃、始まりの場所、即ちローレンス王国の王城で目を覚ましているじゃろう」
なるほど、この世界で最初に目覚めた場所か、確かに生き返る場所としては相応しい所だ。
これで一通りの用は済んだ。そう思った俺は、折角なので、何か面白い話でも聞こうとしたが、突然、ガラガラと何かが崩壊する音が耳の中に入ってきたため、慌てて音のする方を向く。
「これは!?」
音のする方をよく見ると、二十三階層にある城や階層の壁が音を立てながら崩れ始めていた。
「え!? どういうこと?」
突然、階層が崩壊していく様を見て慌てふためく俺に対してケルビムは余裕そうな感じで答える。
「落ち着け少年よ。〈塔〉を持っていたルシファーが死んでその力が天界にいるメタトロンの元へ戻った。その影響で、神の力で支えられていたこの塔はただの建造物になり自重で崩壊しているじゃ」
何てこった。これじゃこのまま生き埋め、いや待て、拠点となるこの塔が消えるのはとっても不味い気がする。
「安心せよ。特別にこの塔のモンスター達は全て復活させて、外へ逃がしておいた。なので、この塔に残っているのは儂とお主だけじゃ。そして、ここに出口を作っておいた。この扉の先は塔の外でお前さんのダンジョンモンスター達が待っておる。最も今のお前さんはダンジョンマスターではないから、モンスター達がおとなしくいう事を聞くかは別じゃがの」
もう至れり尽くせりだ。俺はケルビムに心の底から感謝の言葉を伝えると、一礼してさっさと脱出しようとした。
「待て、少年よ、最後に問おう」
だが、扉を開ける直前で、ケルビムに呼び止められる。早く脱出したいが、ここまで色々と手を回してくれた神様を無下にできないので立ちどまるしかない。
「引きこもりだった君じゃが、ダンジョンマスターになってみてどう思った?」
何だその質問は?と思ったがここまでしてくれた恩人のために正直に答えた。
「引きこもりとダンジョンマスターの相性は良いと思う。怖い外の世界から身を守るために努力するから。でも俺は引きこもり歴半年の素人だ。だからルシファーにあっさりと突破された中途半端なダンジョンしか作れなかった。もし、次にアルカナ能力〈塔〉を誰かに与えるなら、ちゃんとした引きこもりにした方がいいよ。その方が絶対に面白い」
これが俺の正直な意見である。きっと本物の引きこもりなら俺の想像以上のダンジョンを作り上げるに違いない。
「そうか、今後の参考にさせてもらおう。では行くがよい!」
「はい! 色々とありがとうございました!」
俺は、崩壊するダンジョンから出るために、ケルビムが用意してくれた扉を開けた。
崩れゆく塔の最上階から津田健也という少年が出て行くのを見送った儂は、先程の少年の答えを思い出し、自分の考えと照らし合わせた。
少年の言うように、確かに本格的な引きこもりにやらしたら、無敵のダンジョンを作るじゃろう。しかし、そう言う輩は自分以外の意見を聞かない。それを個性と呼ぶ者はいるが、そういう奴は勇者には向かない。引きこもりである前に彼らは勇者なのだ。勇者とは即ち勇気をもつ者、嫌な事にから逃げ、引きこもる奴に強大な悪に立ち向かう勇気は宿らないじゃろう。
引きこもりとダンジョンマスターの相性は良い。しかし、極度の引きこもりでは、生き残ることはできない。
前回の塔の勇者は人一倍臆病な引きこもりで、ダンジョンマスター不在時の能力喪失を恐れて、自身を含め配下を一切外に出さなかった。そして、外の世界を知らないまま、ろくに戦闘も知らず、まだダンジョンが未熟内に強大な力を持つ魔王に敗れた。
その失敗から、今回は心の闇を抱えながらも、それを振り払える可能性のある者、即ち、津田君、お主が選ばれたのじゃ。まあ、最初は危うかったから大天使が助けたし、前回の勇者みたいに引きこもらないように、ナビ子に扮して色々と嘘をついたがの。
津田の心の中の天秤はブレブレじゃった。確固たる信念がない。他人の言葉ですぐ惑わされる。極めて未熟だ。じゃが、未熟だからこそ、前回の勇者ように保身に固執せず、自分でも気づかない内に、能力を失う恐怖を克服し、〈塔〉能力で生み出した仲間達と共に外の世界に踏み出せたのじゃ。
ダンジョンマスターとしては、いまいちじゃったが、最後には敵に奪われ堅牢な要塞を取り戻すため、一人で挑むという勇気も示した。それは、勇者として、当たり前だが、とても素晴らしい行いだと儂は思うよ。
今回の戦いは色々と良いものを見せてもらった。最後に勇者達に労いの言葉を送るとするかの。
「天晴じゃ」
倒壊する塔の中、誰もいない最上階で一人呟くと、儂はガイアから飛び立った。
一気に外で出ると思ったが、扉の向こうは、学校の廊下を思わせる長い通路であった。そして、廊下の先には扉が一つある。きっとあの扉の先がダンジョンの外なのだろう。なので、俺は廊下のような通路をゆっくりと歩きながら、今後の事について考えた。
最初にやらなければならないのは、塔という住処を失ったダンジョンモンスター達の新しい拠点探しだ。何故なら大半のモンスターは冒険者に狩られるただの魔物なのだから。
王宮で蘇ったクラスメイト達との交流も重要だ。特に俺が殺してしまった佐伯君達と和解するのは至難の業だろう。しかし、クラスメイト達とやり直すと言った以上逃げ出すわけにはいかない。
それに、ルシファーは滅んだが、この世界にはまだベルゼブブなど魔王の残党もいる。そしてなにより、愛する二条白雪が蘇ったので、魔界にいる高木を何とかして召喚せねばならない。
ちょっと考えるだけでも、やらなければならないことが山ほどある。
しかし、本当に苦労したのは、ラファエルに掛けられた呪いがまだ解除されていないことであり、呪いを解除するためにあちこちを奔走するのだが、この時の俺はまだ知る由もなかった。
気が付くと長いようで、短かった廊下は終わり、俺は扉の前に立っていた。そして、俺は最後の扉を開けて、仲間達が待つ外の世界に飛び出した。
ついに完結しました。
元々私は読専でしたが、他の方々の作品を読んでいるうちに一度くらいは自分で書いてみたいと思い筆を取ったのが執筆したきっかけになります。ですが、書き始めてすぐに自分には文才がないことに気が付きました。頭の中に描いていることを文章にできず、非常に悩んだものです。今、思い出してみても三回はエタりそうになりました。
それでも、一度始めた以上完結させるのが筆者の責務だと思い、歯を食いしばって書き上げました。その時に支えになったのは、アクセス数やブクマといった読者の皆様の応援です。皆様の応援がなければとうの昔にエタっていたのは間違いでしょう。
ですので、応援してくださった読者の皆様には感謝の念しかございません。今まで読んでくださり本当にありがとうございました。




