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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
第六章  冒険者編
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ヒーローは遅れてやってくる!!

「進めえーーー!!」


 カリヤの掛け声と共に、前進を開始した第三軍の半数がしばらく行軍すると、狭い一本道だった谷間を抜けて、かなり開けた場所に出た。


 まるで、闘技場のように円の形をしたその場所の周囲は、中にいる者を逃がさないように高い崖に囲まれている。


 そして、その地の中心付近に先ほど声の主が立っていた。


「ウィッハッハッーー!! 良く来た虫けら共、歓迎するぜ!!俺様の名前はベリアルだ!!」


 足の先から頭まで二メートルを越す黒い全身鎧を身に纏っているため、素顔は見えないが声から男性だと容易に判断できる。


 べリアルは、身の丈ほどはある巨大な一本のグレートソードを、まるで小枝を持つように軽々と振り回していた。


(全軍がこの空地に入るまで、時を稼がねばな)


 時間を稼ぐ必要があると判断したカリヤは会話をしてベリアルの気を引くために、頭をフル回転させる。


「貴公が名高いベリアルか? なるほど確かに強そうだ! 私の名前はカリヤ、第三軍の司令官だ!」


 他の冒険者よりも一歩前に出て、カリヤはベリアルとの会話を始めた。その間にカリヤは目くばせで、部下に、全冒険者をこの空地に入れてあいつを包囲しろと命令を下す。



「そうか!カリヤというのか、覚えておこう! 最も貴様が死ぬまでだがな!」

「それは、こちらも同じだ! 我々は魔王ルキフグスを倒すために来たのだ!貴様のような部下に付き合ってやるほど暇ではない!! とっと死ぬがよい」


 二人が会話を続けている間に、蛇口から溢れる水のように続々と冒険者が細道出て、ベリアルを包囲しつつあった。


 自分が敵に囲まれているというのに、ベリアルはその光景を興味深そうに目で追う。


「確かに、ルキフグス様に比べれば、俺様は前座に過ぎないだろう。だが、お前達程度ではその前座すら越えられないぞぉーー!」

「ふん、ぬかせ! この状況でまだ勝ち目があると思っているのか!!」


 第三軍の大半は、すでに空地に侵入し全方位からベリアルを囲っている。一対一万五千、圧倒的な戦力差による包囲網が完成した。


(さ~て、四方八方敵だらけ、さらに、包囲しているのはただの兵ではなく、軍隊に赴けば精鋭部隊に配属されるBランク冒険者だ。その数一万五千、それに対して敵は奴一人の上、地形的に逃げ場もない。…これは確実に勝ったな)


 カリヤは余裕の笑みを膨らませていたが、対するベリアルからは一切の怯えが見られなかった。


「では、それそれ始めるか、いつでもかかってくるが良い!!」


 ベリアルは手招きして冒険者達を誘った。その挑発を受け、頭に血が昇ったカリヤと冒険者達が叫んだ。


「全軍、突撃!!!」

「「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」」


 カリヤの号令を合図に全方位から同時に冒険者がベリアルに襲いかった。












「飛んでいるのは何だ……」


 後方まで下がったカリヤの側近がポツンと呟いた。


 一番最初にベリアルに襲い掛かった冒険者達が空中を飛んでいたのだ。それも一人ではない。何十人とまとめて吹き飛ばされていた。


 最も、五体満足で宙を飛んでいる者はいない、そのほとんどがバラバラとなった残骸と言えものであった。


 赤い液体と肉と骨だけの無惨な残骸が、まだ突撃していない冒険者達の頭上に降りかかる。だが、直接、死体を浴びた者も、その光景を見ていた者も、恐怖から出る悲鳴も驚きの声一つ出すことない。


 余りにも現実離れ過ぎた光景を見て、全冒険者の思考が停止してしまったからだ。


 最初に突撃をした冒険者達が、壁に叩きつけられて破裂した水風船のように散っていった姿を見て、後から続くはずの冒険者達の足が止まった。だが、さっきも言ったように止まったのは足だけではない、思考すら停止してしまったため、彼らの脳内には逃げるという選択肢も存在しない。


 黒い鎧を取り囲んでいた包囲網は最初の一撃で、すでに完膚なきまでに崩壊していた。

 

 ベリアルは、案山子のように地面に突っ立ている冒険者達をつまらなそうな感じで見ると、今度は自分の方から、巨大ロングソードを振り回し、次々と冒険者達を吹き飛ばし始めた。




「な、な、な、な、なん、何ですか、あれは!」


 ようやく、事態を理解して、まともに頭が回転し始めたカリヤの側近が悲鳴を上げた。


「お、おっ、冒険者が一人前の戦士であるBランク冒険者が飛んでいる!」

「そうだ! 一人前の戦士であるBランク冒険者だぞ! それがなんで、ホコリのように大量に宙を舞っている!」

「ユニークモンスターと戦っていてもここまで一方的な展開にはならんぞ!!」


 最初に落ち着きを取り戻した側近の声を聞き、他の側近達も徐々に冷静に思考できるようになった。


「あれは、何ですか?リーダー?」


 一人前の戦士であるランク冒険者を雑草を抜くように次々と血祭にあげるベリアルの姿を見て側近の一人がカリヤに尋ねる。


「……何って、そりゃあ、魔王の手下だろう」


 未だに思考が定まらないカリヤが出したその答えは正しく的を射ていた。そう、今暴れているあの黒い鎧は、これから討伐するはずの魔王の部下の一人なのである。


 魔王を倒すと勇んでみたが、その部下に蹂躙される様を見て、側近達は迷う事なく戦うことを放棄した。


「へ、兵を引かせましょう。このままでは全滅だ!」

「そ、そうだ、このままでは犬死だ!」

「犬死ならまだいい、戦いの中で死ねるのだから、だが、これは戦いではない! 一方的な殺戮いや、もはやただの殺処分だ!!」


 すでに、一割近くの冒険者が肉塊と成り果ていた。


 この戦場にいる大半の冒険者達は未だに現実を受け入れらない様子で、大して抵抗もせずに、ベリアルの剣の餌食になっていた。まるで勝ち目が見えない、側近達が退却を進言するのも仕方のないことではあった。だが、


「逃げるだと! どこへだ!!」


 カリヤは弱気な発言をする側近達を一喝する。その喝で、側近達も思い出した。すでに退路は断たれていたことに、先に進むという手段もあるが、それを口に出す者はいない。あの怪物を背にするなど正気の沙汰ではない。


 碌な抵抗もできぬまま、恐怖すらも感じぬまま、多くの冒険者が宙を舞い死んでいった。その姿を見て、側近達は生きる気力すら無くしていた。


 だが、退却も進軍もできない以上ここで死力を尽くして戦うしかないと判断したカリヤは、まず後方で温存していたAランク冒険者三十人を呼び寄せ、それから軍を立て直すために、喉が壊れるばかりの大声を出した。


「聞けぇぇえええええーーーーー!!!!! 自由の象徴にして、魔物退治の玄人である冒険者達よ!まだ終わっていない、これから我々冒険者の希望であるAランク冒険者達を投入する! その数、三十人!ユニークモンスターすら屠る人類の守護者だ!! 必ずや敵を撃破してくれるだろう。だから、皆、声援を!!この絶望をかき消すほどの歓喜の声をぉーーーー!!!」


 カリヤは、持てる全てを込めて叫んだが、待っていたのは沈黙だった。ベリアルも手を止め、興味深そうに事態の成り行きを見守る。


 完全なる静寂が、しばらく場を支配したが、やがて、一人の人間の声が響いた。


「う、う、うううう、おおおおおおおーーーー!!」

 

 その声の主は、最近Bランクに昇格した青年だった。長い年月を掛けてようやくBランクに上がった青年に待っていたのは、この一方的な殺戮の場だった。


 この悲劇の地で、一人前の冒険者であるBランク冒険者達を次々と処分していくベリアルの姿を見て、青年の体は完全に戦うことを諦めていたが、冒険者としての憧れから心までは砕けていない。


 だからこそ、彼は、カリヤの思いに最初に応えることができた。そして青年の声に続き他の者も喉を枯らすほどの声援を送る。一つ一つの小さな声は重なり、やがて大きなうねりとなった。


「「「「「ううう、おおおおおおおおおおおおおーーーー!!!!!!!!!!!」」」」」


 周囲の崖に反射して行き場を無くしたその叫びはやがて振動となり、大気と大地を揺らした。冒険者達は声だけで、絶望的だった状況をひっくり返したのだ。


「行けぇーーー!!」

「頼む、勝ってくれーー!!」

「お前達は俺達の希望なんだーーー!!」


 同じ冒険者達にここまで、言われてはAランク冒険者達も必ず勝つと覚悟を決めるしかない。


「頼んだぞ!」

「必ずや勝利を!!」


 カリヤは、心の底から願うように、Aランク冒険者達を送り込んだ。


「どうやら貴様らが、人間共の切り札のようだな。少しは俺様を楽しませてくれるのかな?」


 戦場の雰囲気は完全に人間側になっているのにも関わらず、余裕の笑みを浮かべたままベリアルはAランク冒険者達が自分の元へ来るのを待っていた。


 大声援の中、人類の希望の象徴であるAランク冒険者達、総数三十人が、ベリアルの前に立ちはだかる。


「貴様の進撃もここまでだ!」


 彼らのリーダーを務める男が、鞘から剣を抜くと、他の者達も各々の武器を構えた。


「食らえぇーーー!!豪波、海地剣!!!」

「ライトニング・ドラゴン!!!」

「ビッグ・エクスプロード・カノン!!!」

「とりゃーーー」


 そして、三十人のAランク冒険者達は、各々が持つ最強攻撃を、渾身の一撃を、勝利と希望と共にベリアルに向けて放った。









「カリヤ様……」

「カリヤ様!!」

「言うな、頼むから言わないでくれ……」


 先ほどまでの大歓声はもはや聞こえてこない。当然だ。何故なら、無傷で立つベリアルの足元にかつて冒険者達の希望だったものの残骸があるからだ。


 攻撃を仕掛けてきたAランク冒険者に対して、ベリアルがやったことは、剣を三回振るっただけだった。一度目で、迫りくる遠距離攻撃を吹き飛ばし、二度目で接近していた剣や槍などの近接系の武器を持つ冒険者をまとめて薙ぎ払い。最後の三度目で、後方にいた魔法使い達を叩き潰した。


 所要時間は僅か、十秒、その十秒で人間達の希望はあっさりと崩れ去ったのであった。








「……よし、そろそろ行くぞ!!」


 俺の合図を聞き、サクラとクーアンが準備を始めた。


 元々分断された第三軍の後方にいた俺達セレン組は、人が多くて空地に入りきれなかったため、狭い谷間から、戦いの様子を覗いていた。


 魔王ルキフグスの部下、三公爵、その強さは本物だった。下手したら今まで戦ってきたどの魔王よりも強いかもしれない。だからと言って戦わない道はないのだが、


 ずっと、いつ参戦するか悩んでいたが、冒険者達の大声援を聞いているうちに、俺もAランク冒険者を信じてみたくなったが、失敗だった。


 自分が出れば、彼らは助かると考えるのは傲慢だが、それでも無用な犠牲は出さずに済んだだろう。そう思うと後悔の念しか沸いてこない。


 こうなったら、せめて仇は取らないと奮起して、先を進もうとした矢先、ヒステリックな声を上げて何者かが俺達を呼び止めた。


「あ、あ、あなた達どこ行くのよ!!」


 俺達を呼び止めたのは、俺達を散々馬鹿にしていたエメラルドのリーダーイリンだ。


 美がどうとか言っていたが、今の彼女は腰を抜かしたように地面に座りこみ、また、恐怖の余りか、股の辺りが濡れていたが、それどころではないようだ。


「あ、あ、あなた達、何で立てる?、な、何で平気な顔していられるの?」

「そ、そうだ、何でお前ら、あれを見ても平気なんだ?」

「頭おかしいんじゃないのか?」


 イリンに続くように、今まで俺達に嫌がらせをしていたセレンの冒険者が声を上げたが、その大半が立っているのもやっとのようで、足腰に力が入っていないのが、丸分かりだった。


「ふう~」


 俺はため息を一つ溢すと、彼らに向かって言った。


「今まで実力を隠していたので、あれくらいじゃ驚きません。と言いたい所だが、正直勝てるか微妙なところだ。…だが、だからと言ってこのまま指を咥えて見ているわけには行かないはずだ!」


 ふと、脳裏にアドラメレクにやられ、寸での所でガブリエルに助けられた場面が浮かんだ。引きこもりで弱虫だった俺が誰かを助けるために立ちあがるとは、あの時の俺では想像もできなかっただろう。


「最後に、一つ言いことを教えてやる!俺の世界の有名な言葉だ、よく覚えておけ!」


「ヒーローは遅れてやってくる!!だから最後まで諦めるな!!」


 決まった…………と思ったが、何言っているんだこいつという視線の方が多い。もしかしたら、盛大に滑ったかもしれない。


 なんだか、居たたまれなくなったので、俺はさっさと、サクラとクーアンを連れて、完全に戦意を喪失して棒立ちしている冒険者の間を縫ってベリアルの元へと進むことにした。

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