山賊の戦い
しばらく山賊のターンです。
その男の名前はバズ、年齢は三十代後半で、この山賊団のリーダーである。かつてはBランク冒険者として活躍していたバズの人生は、魔王達が出現したことによって転落することになった。
今から、五年前、セレンの街の東方にある山脈に魔王アドラメレクが出現、ローレンス王国の東部の大半を占めるグダル山脈を占領する。元々高い標高の山々であったので開拓もされず、無人の山々であったので、当初王国はアドラメレクについて警戒していなかった。
だが、アドラメレクの真の狙いはこの山脈の隅々にモンスタースポットを設置し、自らの軍勢を増強し、王国侵攻の橋頭保とすることにあった。山脈に偵察に出かけた冒険者がそのことに気付き、セレンの領主に報告すると、領主はすぐに王国上層部に掛け合い、街の防備を強化する。
そして、戦いが始まる。領主の迅速な対応により、セレンの街が落とされることはなかったが、それまで初級冒険者の訓練場所として名を馳せていたセレンはあっという間に魔王との戦いの最前線と呼ばれる街になり、王国の国外から多くの冒険者や戦士、騎士団を呼ぶことになる。
アドラメレクが現れるまで、バズはセレン一の冒険者と呼ばれていた。街で一番強く、新米冒険者を一人前にするために指導するバズは新米冒険者の教官として彼らの憧れの存在であったのである。
だが、アドラメレクとの戦いが始まると、次々とセレンにバズよりも強い冒険者が現れる。また、魔王の生み出す眷属達は強く、今までセレンの周辺で雑魚モンスターを狩っていたバズの技量も追いつかなくなった。こうして、あっという間に街の住民や冒険者からバズの名前は忘れ去ってしまう。
バズは挫折を経験する。自分が必要とされていないことに、そして自分の技量は胃の中の蛙だったことに。住民達から忘れられたバズは、セレンにいることに耐えられなくなり、自分を慕う新米冒険者共に充てもなくセレンを出る。だが、今まで狩猟しかしてこなかった者ができることは少ない。
セレンの周辺で最前線から反対の王都側の雑魚魔物を倒すことで当初は生計を立てたが、それだけでは、三十人の人間の食料を到底賄えない。ゆえに、食料が尽きた彼らがセレンの街に物資を運ぶ商隊に手を出すのに時間はかからない。こうしてバズ達は山賊となったのだ。
バズ達が山賊に身をやつしたことはセレンの住民の耳にも入ったが、魔王との戦いでは常に数多の英雄が生まれる。バズ達、戦いから逃げた過去の人間のことを気にする人は一人もいなかったのだが、そのことを聞いたバズは悲しんだと同時にある決意をした。大手柄を立て街の連中を見返してやると、だが、心の中でそう思っていてもバズ達のやっている山賊行為はセレンの街を困らせているだけであった。
そんな、バズの耳にセレンの背後に魔王の建てたと思われる建造物が出現したという情報が入り、バズは改めて覚悟を決める。部下には新しいアジトにするためとは言っていたが、本当は魔王の拠点を潰しセレンの住民達にもう一度自分の名前を轟かすことにあった。
「お前達準備はいいか?行くぞ!!」
「「「「「おおっ!!」」」」」
こうして山賊達は魔王が建てたと思われる未知の塔に突入した。
「本当に草原だ」
「ああ、それにゴブリンがいるぞ」
「襲ってこないぞ」
最初に塔に突入した男達が見たのは、どこまでも続く青空と草原そして無数のゴブリンとオークの群れである。先行して入った山賊達は身構えたが、何故かゴブリン達はこちらを睨んだまま、動かない。
「おい、後ろがつっかえているから、早く前に行け!!」
塔の入り口の扉は一度に大人一人が通れるくらいの大きさであるため、三十人いる山賊達は一人ずつ順番に入っていくしかない。
「それにしても妙だな。入口で迎え打てば、俺達を迎撃しやすいだろうに、やはりここにはモンスタースポットのみ設置されていて、指揮官となる魔物はいないのか?」
バズは奇妙な違和感を感じたが、それでも指揮官がいないことを幸運と思うべきだろうと判断する。だが、それは間違いだとすぐに気づくことになる。
「お頭全員突入しましたぜ」
「よし、ではゴブリン狩りと行くか」
山賊達全員が塔への侵入を完了した時、それは起きた。
「お頭!扉が入り口が消えていくぞ!」
「何、誰か早く何とかしろ!」
最後の一人が侵入した直後、入り口であった扉は跡形もなく消えてしまう。
「くそっ、退路を絶たれた。お前達、歯を食いしばれ、これは罠だ!」
バズは嵌められたことを部下達に叫んで伝えるが部下達はそれどころではない。
「お頭、後ろじゃなくて前をみてください。ゴブリン共が一斉に攻めてきました」
「くっ、そういうことか、ガリ達魔法使いは、防御魔法を張れ、アースマ達は右を、エドガー達は左を、残りは俺と共に正面の敵をやれ!」
バズが指示すると、男達はそれぞれの武器を手に取りゴブリン達を向かい撃った。バズも得物の大剣で迫りくるゴブリンの一体を一刀両断する。
「大丈夫だ。てめら、こいつらは、外にいるゴブリン共と強さは変わらねえ」
バズはゴブリンを倒した結果から一瞬でそう判断したが、問題は数だ、ぱっと見ても百体はいる。森に巣食うゴブリン達でも一度に戦う群れの数は、多くて二十体くらいだが、それは四、五人のパーティで戦う時の話である。今、自分達は三十人もいるので楽勝だと推察する。
おかげで、塔内に閉じ込められて焦りを感じていたバズは少しだけ余裕を持つ。だが、一つだけおかしな現象が見られた。そのことに気付いた山賊が大声で叫ぶ。
「こいつら変だぞ、倒すと何故か光の粒になって消えてしまうぞ!」
そう、このゴブリン達は何故か死ぬと死体を残さない、これは明らかにおかしなことであった。
「!?……まあ今は放っておけ、それよりも敵を倒せ!!」
しかし、どの山賊達も迫りくる敵を相手にするので精一杯でそこまで頭が回らない。
「ファイアーボール!」
「パワーアップ!」
「俺の一撃を食らえ!」
戦いは敵を倒すことに集中した山賊達の優勢で進んでいく。しばらくすると、百体はいた魔物達の数は半数近くにまで減っていた。
「オークがでてきたぞ!」
「大丈夫だ、さっき倒したが外のオークと同じだ。落ち着いてやれ!」
今までゴブリンの戦いを見守っていただけのオークが参戦してきたが、戦況に変わりはない。山賊達の勝利は揺らがないだろうとバズは確信する。
山賊達の優勢で戦いが進んでいくなか、山賊一人が一匹のゴブリン倒した時にある変化が生じる。
「おい、みんなこれを見ろ」
「なんだ?」
「扉だ。しかも二つあるぞ」
倒したゴブリンから出てきたのは、赤と青の二つの扉だ。大きさは入口と同じくらいで、赤の扉は「脱出」、青の扉は、「上の階へ進む」と書かれている。
「おまえ、その扉を両方開けてみろ!」
誰の指示かは分からないが男は両方の扉を開ける。赤の扉は外に繋がっており、森の木々が確認できた。それに対して、青の扉の先には延々と墓標が続いている。
「全員、赤の扉を出て脱出しろ!!」
その光景を見ていたバズは大声で叫ぶ。こうして山賊達は一人の犠牲もなく、塔からの脱出に成功した。
戦いの描写と三人称と一人称の使い方が大変ですが、頑張ります。応援してくださりありがとうございます。