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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
第六章  冒険者編
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連合軍

 大勢の冒険者と共にセレンを出て一か月後、俺達は、連合軍集結予定地であるビン渓谷の入り口に辿りつく。


「凄い数ですね」

「わー! 人が一杯だ!」


 サクラ達が言うように、辺り一面、見渡す限り人であふれている。宿泊用の簡易テントが所せましと張られ、ここまでの道中で疲れた冒険者や騎士が体を癒していた。


 俺達も少し休むかと、セレンのテント群に向かうが、着くやいなや、いつものように冒険者達から嫌味を言われる。


「へっ、ついにここまで来たのか、おチビ共!」

「逃げずに、来たことは褒めてやる!」

「だが、貴族のてめえらの出る幕などないからな」


 軽蔑な眼差しで、俺達を睨め付けるのは、一か月の道中で、散々俺達に嫌がらせをしてきたセレンの冒険者達だ。


 馬車には一度も乗せてもらえずにずっと徒歩、食料を僅かしか配らない、視界に入れば常に悪口などと、ここまでに受けてきた嫌がらせを上げればきりがない。特に、エメラルドを中心に女性冒険者からの敵意が激しい。


 馬鹿にされるのはクラスの連中で慣れていたので、俺は苦ではなかったが、クーアンとサクラは我慢の限界であった。なので、ここ一か月の俺は、今にも暴れ出しそうな二人を食い止めることに終始していた。


 彼らが俺達を軽蔑するのは、俺達の事を能力がない貴族と勘違いしているからだ。


 そのため、一回ガツンと力の差を見せつければ、嫌がらせがなくなると思うが、それをやった場合、圧倒的強さを持つ我々の力を知ったお偉いさん達が俺達を軍の中核に添える可能性がある。その結果、隠密行動がしにくくなり、ルキフグスの元へ行くのが困難になるかもしれない。


 そう考えた俺はひたすら耐えることを決断したが、やはりこの道は厳しいものだった。


「あなた達のテントはあれよ!」


 特にしつこく絡んでくるエメラルドの一員の一人が俺達の泊まるテントを指さす。


「テントなんてどこにもないではないですか!」


 サクラが言うように、そこには一枚の毛皮のシートが置かれていただけだった。本来はこの上に、テントを立てるのだが、骨組みとなるパーツも、その上にかぶせる布もなかった。


「ガキは、外で寝るのがお好きなのでは? おっほほほほほほーー!!」


 そう言い残し、その女は去っていった。


「ぐぐぐっ……もう限界です。マスター」

「クーアンも」

「堪えろ、もう少しの辛抱だ」


 ここまで、耐えてきたのだ。俺は二人をなだめると、テントの代わりになるものはないかと、辺りを探した。









 バベル達がビン渓谷の入口に着いてから三日後、連合軍全軍は三方向からそれぞれ侵攻を開始した。 


 帝国領南端、バーゼル要塞 


 一万人の兵士が守るこの要塞の中でひときわ警備が最も厳しい一室において、連合軍の頭脳とも言える作戦本部が設置されている。


 狭い室内には、長机が一つあり、その上には帝国南部一帯の地図が広げられていた。そして、机を囲むように、鎧や軍服を着た十人ほどの男達が座っている。


 この部屋にいる男達は各国から派遣された将軍達で、連合軍の指揮を任された者達でもある。


 要塞内には、前線にいる各軍と速やかに情報交換ができるように伝書鳩が待機している部屋があり、前線にいる伝書鳩から上がってきた情報を精査して、ここにいる将軍達が作戦を立案し、現場の司令官達に指示を出すのだ。

 

 

 そして、現在、連合軍の侵攻が始まったため、今回の作戦の参謀を務めることとなったダールトンという帝国軍の将軍が集まった他国の将軍達に向けて改めて作戦の説明をしている。


「ルキフグスが占領している帝国南部のブルセ地方に侵攻するルートは草原、湿地帯、渓谷の三つです。そのため、二十万の連合軍を三つに分けて、それぞれのルートから侵攻いたします」


 男は地図を指し示しながら、侵攻ルートの説明をする。


「帝国軍が中心となっている七万の第一軍は湿地帯を、共和国軍が中心となっている第二軍十万は草原を、そして、冒険者ギルドが中心となっている第三軍三万は、渓谷からそれぞれ侵攻致します。そして、侵攻する三軍は敵軍を撃破しつつ侵攻し、ルキフグスが拠点にしている街アルミを目指します」


 ここまでの説明を聞いたところで、今回の連合軍の総司令官に抜擢された、帝国軍大将フロキセンが口を開いた。


「よしんば、敵軍を突破し、三軍ともアルミに着いた後はどうする?そのまま攻め落とすとしても魔王はどうするのだ?」

「魔王に関しては、各国から集められた強者で編成された精鋭部隊百人が相手します。全員がAランク冒険者並みの戦闘力を持っていますので、まず間違いなく倒せるかと」

「その精鋭部隊の三分の一は我が共和国の勇敢な兵士だ!! 魔王如き敵ではないわ!」


 ダールトンの返答に追随して、共和国から派遣された将軍であるピピルトが高らかに声を上げる。


「ピピルト殿、今回の作戦に貴国のつわもの達を多数参加させてくれたことに深く感謝する。これで勝利は確実でしょう」


 フロキセンは頭を下げて、ピピルトに感謝の意を表す。最大軍事力を誇る帝国の大将でもあるフロキセンが、他国の軍人に頭を下げるのは異例な事だが、人類の存続のために共同で対魔王戦をする以上、少なくとも戦いが終わるまでは司令部に不和があってはいけないと判断したためだ。


 魔王を倒すためならメンツを気にしている場合ではないと、フロキセンが行動で示した姿を見て、各国の将軍達も気合を入れ直す。


 場の空気が落ち着いたの見計らって、ダールトンは咳払いをして、説明を続ける。


「おっほんっ! その精鋭部隊は現在この要塞におり、侵攻軍がアルミに到達する頃を見計らって出発する手はずになっております。また、人類最強であるギルド本部長のホンゴウ殿は今回の戦いでは単独行動を取っており、状況に応じて戦闘に介入するようです」

 

 ホンゴウという名を聞いて、将軍達の顔がはっきりと明るくなった。それだけ、ホンゴウという名前は人類にとって希望の名前なのである。


「勝ったな!」

「ああ、魔王め、人類の底力を見るがいい!」


 勝利は確実とこの部屋にいる者の誰も感じて高揚感に満たされている時、水差すように部屋のドアがノックされる。


「誰だ!大事な会議の最中だぞ!!」


 気分を害されたピピルトが声を荒げた。他の者も同様な気分だった。こういう時に入ってくる情報は大概碌なものではないからだ。


「はあ~ 入ってきなさい、大事な知らせがあるのだろう?」


 総司令官のフロキセンが、ため息つきながら部屋に入ってくることを促す。その声を聞き、扉が開かれる。だが、入ってきたののは伝令のための兵士ではなく、執事服を着た壮年の男だった。


「誰だ! 戦場に使用人を連れてきたのは!!」


 執事の姿を見て、ピピルトが怒るのも無理はない。戦場に使用人を連れて来るのは、この世界ではマナー違反を見なされるからだ。


 ピピルトはどこの国の奴が執事を連れてきたのかと問いただすも、誰からも返事がないため、執事本人に主は誰かと尋ねた。


「貴様!! どこの国の将軍の使用人か?」


 ピピルトの問いを聞き、一瞬だけ笑いを溢した執事は、優雅に一礼して、ゆっくりとそしてはっきりと告げた。


「初めまして、人間の司令官達、私は魔王ルキフグス様の執事をしておりますアザゼルという者です」


 男の正体が魔王にも匹敵する三公爵の一人だと知り、部屋中に緊張が走る。


「馬鹿な! ここには一万人の兵士と対魔王用の精鋭部隊がいるんだぞ!!」


 連合軍の最重要拠点にあっさりと、敵の侵入を許したという事実が認められないダールトンはアザゼルに向かって叫ぶ、その叫びを聞き、アザゼルは血が滴っていた自身の右手を見せつける。


「敵ですか……確かに百人ほど歯ごたえのある奴らもいましたが、私の敵でなかったですね。それ以外はいくら集まっても所詮は雑魚でしたし……つまり、この要塞で生き残った人間はあなた方のみです」


 一万の守備隊と対ルキフグス用の精鋭を何のこともないかのように倒した宣言したアザゼルは、抑えていた魔力を解放した。


 その途方もない魔力を感じ、この場にいた全ての者がこの男の言っていることが全て真実だと悟った。


 もはや、どうすることもできない。自分達は死を待つばかりだと全ての者が感じたが、誰一人として、怯えた目をした者はいなかった。それもそのはず、ここにいる者はほとんどが、性格はどうであれ、軍人としての枠を越えて、人間の未来について真剣に考えられる者達だからだ。そうでなければ、二十万もの大軍を指揮する役を与えられはずがない。


「和平の道などないぞ!!」


 フロキセンがそう告げると、自国優先思想が強いピピルトを含め、室内にいた全ての者達が剣を抜き一斉にアザゼルに斬りかかる。


「ほ~う、流石は人間の中では優秀な者達ですね。臆せずに私に歯向かったことだけは認めてあげましょう」


 将軍達は基本的に人間を見下しているアザゼルを称賛させることはできたが、彼らができたことはそこまでであった。









 その後、将軍達をあっさりと皆殺しにしたアザゼルは、各軍への指令を伝達する伝書鳩が待機している部屋へ赴いた。


「さて、各軍に送る偽の指令書の内容は、各軍共順調に敵戦力を倒しながら侵攻中、迅速に行動して、一気にアルミを目指せといった所ですか」


 こうして、アザゼルの書いた偽の指令書を携えた白い鳩達は、各連合軍の陣地を目指して青空を羽ばたいていった。


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