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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
第五章 王都解放編
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迫りくる恐怖

 王都の市街地をヴァンパイア・ホースに騎乗しながら三騎のヴァンパイアが疾走していた。この小隊のリーダーである男性型のヴァンパイアが先頭を走り、そのヴァンパイアの部下として蝙蝠顔の二体のレッサー・ヴァンパイアが後を続いた。


 このように、ヴァンパイアを小隊長にして、二体のレッサー・ヴァンパイアが部下としてつく三人一組の小隊が全部で二十五部隊あり。どの小隊も王都を疾走し敵を蹂躙していた。ちなみにこの編成を考案したのは、ノーライフキングのブラドである。


 さて、街中を疾走していたヴァンパイアの小隊が角を曲がると、五体ほどの下級悪魔が槍を構えて待ち構えていた。 


「しゃあああああー」


 掛け声と共に槍を投げつけるが、リーダーであるヴァンパイアが適切な指示を出したため、全員回避に成功した。その後も悪魔達は遠距離系の魔法を放つもヴァンパイア達は容易に回避をし、悪魔達との距離一気に詰めた。そして、そのまま剣が届く位置まで近づき、剣を見事に振り回し悪魔達の息の根を止めた。


 ヴァンパイア・ホースに騎乗しているヴァンパイア系のモンスターは戦闘力が一段階強化されるが、その中でも機動力に関しては何倍にも強化される。その姿はまさしく人馬一体、ブラドの訓練の元、磨かれたその動きはケンタウロスを帆彷彿させるようであった。


 なので、縦横無尽に走りまわるヴァンパイアに対し下級悪魔では攻撃を当てることすら難しいのだ。


 こうして、圧倒的機動力を有しつつ組織的に行動するヴァンパイア達の手によって王都の悪魔達は一掃されつつあった。




 僕は吉村さん達にこれまでの僕のいきさつを簡単に話した後、塔から王都までどうやってきたのかを説明した。


「なるほど、つまり時間短縮のために洞窟を通過したら、王都から逃げ遅れた民がいて、その中に元騎士で王都の地下水路に詳しい人がいたから、案内を頼んだのね」

「そう、僕とここにいる配下のモンスター達が地上で囮役をしている間に、高木はその元騎士と共に王宮を目指していたわけだ。だけど恐らく入れ違いになったな」

「ええ、予定通りならば、今頃本隊の方はそこに見える東門とは反対の西門の辺りまで移動しているはずよ」


 周囲の敵をあらかた始末したため、僕達の傍にヴァンパイア騎士達の大半が集結していた。ブラドのみは独自に部隊を率いているため、ここにはいないが、それ以外の戦力全てが集結していた。


「それにしても、凄く強そうな騎士達だね。あとイケメン」


 ヴァンパイア・ホースに騎乗するヴァンパイア達を見て、女子生徒である小林さんが呟いた。確かに七割近くを占めるレッサー・ヴァンパイアは蝙蝠顔だが、残りの三割を占めるヴァンパイア達は男女共にイケメンと美人だ。なので、先ほどから妬ましい視線にさらされていた。


 なんだか気まずくなった僕は、話題を変えようと今後どうするかを囮部隊のリーダーである吉村さんに尋ねた。


「できるだけ敵を引き連れて、すぐそこにある東門を向けて王都を離れるのが当初の計画だったけど、津田君達の登場で状況が変化しつつあるわね」


 一番隊の活躍のおかげで、王都に、はびこっていた雑魚悪魔の半数近くは始末した。魔王も僕個人の力で何とかなるレベルだった。なので、王都からの撤退を止めて、一気に反撃に出るべきではと吉村さんは考えているようだ。


 こっちも元々を奪還するためにきたのだから、吉村さんの意見に賛成だ。戦力の面での不安もない。一番隊のヴァンパイア達だけで、敵を圧倒できたのだ。このまま一番隊のみで王都を奪還するのも不可能ではない。さらに援軍としてまだ到着していないが、二番隊と三番隊も控えている。負ける要素が見当たらなかった。


 魔王が配置していた水晶、いわゆるモンスタースポットから生み出されるオークやサキュバスと言った魔物はどうやら王都周辺の関所に配置されているようだ。よって、王都の守護をしているのは、黒川が呼び出したとされる下級悪魔達だった。


 その下級悪魔達の強さだが、僕の見立てではレッサー・ヴァンパイアと同程度くらいだ。しかし、それはレッサーヴァンパイア単体で見た場合の評価だ。


 現在、王都で戦っているレッサー・ヴァンパイア達はヴァンパイア・ホースに乗ることで戦闘力を倍増させていた。ヴァンパイア・ホースに騎乗して戦うことで、単純に計算して1:1だったのが、1:3くらいにまで強くなっていたのだ。


 個々の強さも上がったがそれだけのではない、三人一組の小隊を組むことで、戦闘力をさらに向上させていた。もしかしたら一個小隊あたりの戦力は金卵くらいあるのかもしれない。


 金卵、つまりユニークモンスター級が最低でも二十五体分はいるわけだ。我が軍の雑兵にあたる部隊でこの強さだ。まさに圧倒的ではないか我が軍は状態だ。


 当然、ブラドの指導力がなければ、これほどの戦力は生まれなかっただろう。色々懸念すべき点はあったが、ブラドにヴァンパイア系モンスターの支配権を与えたのは成功だったと判断して良いだろう。今度機会があったら十五階層にある訓練場を見学しようかなと思うくらい素晴らしい戦力だった。


「さて、雑魚悪魔はヴァンパイアに任せていいだろう。後、問題なのは、やはり魔王か」


 僕の懸念にエリザベスを含め全員が頷いた。配下は雑魚でも強大な魔力とクリフォト能力を持つ魔王はやはり別格の存在取ってもいいだろう。僕以外の勇者では複数で戦わないとあっさりと負けてしまうだろう。


 こちら側の戦力で魔王と一人で戦えるのは、僕とアルカナ能力と高い魔力を持つエリザベスとサクラとクーアン、そしてガブリエルくらいだろう。ブラドもアルカナ能力を持たないが指揮能力が高い、配下のヴァンパイア達を上手く扱えば、もしかしたら勝てるかもしれない。


「今まで、堕落しきった生活のつけね。勇者なのに私達完全にお荷物になっているわね」


 吉村さん含め勇者達は己の無力さを噛みしめていた。


「気にしなくてもいいと思うよ。戦うだけが全てではないさ。では、魔王の相手は我々がする。護衛を付けるので君達は地上を走って、脱出部隊の本隊が地下水路から出てくる西門の付近に行ってくれ」


 吉村さん達はしばらく思案したが、その方は良いと判断し、僕の提案に乗った。ヴァンパイア騎士を二個小隊護衛につけた。よほどの事態に会わなければ問題なく本隊と合流できるだろう。


 去り際に吉村さんは心配そうに王宮の方を向いた。先ほどから気になっているが、王宮周辺から激しい戦いの音が聞こえているからだ。この激しい戦いをしている者達の一方は吉村さんが召喚した大天使であり、もう一方は魔王だそうだ。なので、その召喚した大天使を置いて移動するのは気が引けるようだった。


 僕は心配する吉村さんを安心させるためにあることを告げた。


「大丈夫、王都に着いてすぐに、うちの大天使があの爆発音がする方に飛んで行ったから。あいつがいれば何とかなるよ」


 アドラメレク戦で、すでに知っているメイルとリサさんを除き、吉村さんを含め勇者達全員が僕が大天使を連れていることに驚いた様子だった。


「津田、お前もう何でもアリだな」

「津田君の〈塔〉が一番の当たり能力だったわけね」


 クラスメイト達は呆れながら呟くと、護衛のヴァンパイア達と共に激しい戦いが繰り広げられている王都の中心部を迂回して西門に移動を開始した。


 彼らを見送った後、僕はヴァンパイア達に次の指示を出した。


「三個小隊は僕と共に王宮の方へ移動する。残りの小隊は散開して敵の残党を掃討しろ。もし魔王級の敵に出くわした場合は迷わず撤退すること。以上行動開始!」





 場面は津田が黒川と再会する頃に戻る。


 吉村達勇者を逃がした大天使ラファエルは、第四魔王アスタロトと激しい戦いを繰り広げていた。


「ホーリー・レイン!」


 ラファエルが魔法を唱えると、光の粒子がまるで洪水のように全方位からアスタロトを襲った。だが、後少しで光の粒子を浴びるという瞬間でアスタロトは能力を発動し、全ての粒子を弾いた。その光景を見てラファエルは心の中で舌打ちをする。そしてお返しとばかりに、今度はアスタロトが反撃に転じた。


 アスタロトは大事に持っていた熊のぬいぐるみを地面に置き、ラファエルに向けて自身も左手をかざした。そして、ラファエルの体はその左手に吸い込まれるように飛んで行った。


「ギガント・アーム」


 アスタロトが魔法を唱えると反対の右手が巨大化した。華奢の体には不釣り合いな恰好だが、この魔法のおかげで一定時間アスタロトの右手は普段の百倍の力を得た。そしてラファエルの体が自分の左手に触れる直前に巨大化した右手をラファエルの体に叩きこんだ。


「ぐはっ」


 あまりの速度で吸い寄せられるため、体勢を立てることも満足にできなったラファエルはアスタロトの拳をまともに受けた。口から吐血したラファエルは殴られた勢いで、そのまま周囲の家に突っ込んだ。


 がれきと化した家の中でラファエルは忌々しそうに呟いた。


「くっ、流石は第四魔王、ワタクシ一人では荷が重いですわね」


 ラファエルは天使の最高位である大天使ではあるが回復に特化した天使だ。大天使故に基礎戦闘力は高いが、それでも限界はあった。


 それに対して第四魔王アスタロトは戦闘に特化した魔王だ。上位魔王である第一、第二、第三魔王とそれ以下である中位及び下位魔王の間には越えられない壁がある。とは言え、第四魔王と言われるだけあってアスタロトは中位以下の魔王の中では最強クラスだった。


 さらに、アスタロトの持つクリフォト能力〈無感動〉も戦闘用の能力だ。その能力は引力と斥力を操るというものだ。非常に強力な能力だが、一つだけ制限があった。それは引力操作と斥力操作は連続にはできないということだ。引力、斥力、引力と必ず交互に行わなけれればならない。だが、千年に渡って使いこなしているアスタロトにとってはその程度の制限など制限の内に入らなかった。


「確かにワタクシ一人では厳しいですわ、だが!」


 勝機はあるとラファエルが叫んだ矢先、どこから懐かしい声がラファエルの耳に飛び込んできた。


「ガブリエル~キックー!」


 声の主であるガブリエルは、味方であるはずのラファエルに対していきなりドロップキックをかました。


「ぶっへぁ!」


 再び飛ばされるラファエル。そしてまた一つ家屋が倒壊した。


「くっ、相変わらずですわね。…だけど、待っていたわよ!ガブリエルちゃん!」


 ラファエルは両手を広げてガブリエルを迎えた。それに対しガブリエルは身震いしながら叫んだ。


「黙れ、この変態!いやショタコンが!」


 そう、ラファエルは天界一の少年好きいわゆるショタコンだった。


「もう、連れないないわね。ガブリエルちゃんは」

「黙れ、お前なんかと一緒にするな。私はお前と違って男子を愛でる趣味はないぞ」


 ガブリエルは昔、有能な部下兼世話係にしていたカリエルという少年天使をラファエルの手によって骨抜きにされた過去がある。ガブリエルはラファエルの犠牲になり、骨抜きにされた少年の姿を今でも忘れてはいない。そして根に持っていた。普段やる気を見せないガブリエルが喜々として行動しようと思うくらい復讐心を抱いていたのだ。


「天界では私闘は禁止されているから貴様に復讐できなかったが、ここガイアならその制約もない。思う存分痛めつけて、カリエルの仇を取ってやる!」


 体からメラメラと炎を出すガブリエルに対し、ラファエルは人差し指を口元に置き、愉悦に浸りながら微笑んだ。


「カリエルちゃんなら、ワタクシの秘密の花園で今でもワタクシに安らぎを与えてくださりますわよ?」

「あれだけ優秀なカリエルを己の肉欲のためだけに使いおって!」


 ガブリエルも噂で聞いたことがある。天界のどこかにあるというラファエルの秘密の花園には、ラファエルが各世界から集めてきた少年達がいるそうだ。その少年達の末路を考えるだけで吐き気が催しそうだが、今はそれ以上にガブリエルには心配する事があった。


「勇者達はどうだった?」

「勇者ね。あれはダメですわ。もう旬が過ぎていて心に時めくものがありませんわ」



 だろうな、とガブリエルは心の中で呟いた。今回の勇者は皆十八歳もしくは十七歳だ。ラファエルのストライクゾーンから外れていてもおかしくはない。一人を除いて。


(私のマスターである津田健也、小柄で童顔だ。恐らくあの変態のストライクゾーンにもろに入っているはずだ、だから確実にお持ち帰りされる。奴とマスターを絶対に会わせてはいけない)


 決意を固めたガブリエルは拳を強く握りしめた。


(マスターの身は私が守る。二度とカリエルの二の舞にはしない)


 ガブリエルは魔王アスタロトを無視して、同僚であるはずの大天使ラファエルへ激しい敵意を向けた。

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