コミュニケーション
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僕が良く読んでいたクラス丸ごと異世界転移系のライトノベルでは、いじめられていた主人公がクラスメイト達に裏切られダンジョンなどに一人置いていかれるものが多かった。
そこから這い上がって、チート能力を得て、ハーレムを作るのがお決まりのパターンだ。そして、各地を旅をした末に、クラスメイト達に再会するのだが、その時に主人公達が取る対応は大体次の二通りだと思う。
A、クラスメイトなど眼中に無しで自分の目的を遂行する
B、自分を見捨てたクラスメイト達に復讐する
さて、Aパターンの方だが、現在これと言った目的を持っていない。一応魔王打倒という勇者共通の目的があるにはあるが、別に魔王が僕個人に何かをしたわけではないし、そもそも魔王の顔を名前も良く知らないのでいまいち敵という気がしない。アドラメレクみたいに向こうから来る場合は対処するが、危険を冒してまで倒そうという気も起きなかった。
この世界の苦しむ民を守る気はないのかという声をあるかもしれないが、残念ながら長らくダンジョンに引きこもっていた僕にはそういった正義の心はなかった。それと、元の世界に戻っても出席日数が足りず留年する可能性があるので、積極的に帰還を目指す気も起きない。
さて、パターンAはご覧のありさまだ。ではBパターンは?と思うだろうが、Bパターンは佐伯達と高木でもうやってしまったのだ。特に佐伯達は他のクラスメイト達と比べても過激に僕をいじめてきた連中だ。その佐伯達に対する逆襲は完了したので、実は僕の復讐心はかなり下がっていた。
確かに高木との戦いの後に、クラスメイト達と対等な関係で友好関係を築きたいと言ったが、復讐心がなくなったので、実は正直言ってそこまで仲直りしたいとは思っていない。それなのに、王都に軍隊を率いてやってきたのは、高木への義理を返すためと、最近ダンジョンに侵入者が来ないので暇だったのと今の僕が魔王に対してどのくらい戦えるかを確認したかったからだ。
なので、黒川達を追い払い、周囲の安全を確保してクラスメイト達の元へ向かったのはいいが、困ったことに上下関係が逆転した今、僕は彼らにどう話しかければいいのか分からなかった。
元々日本にいた時の僕は基本的に根暗で会話などほとんどしなかったコミュ障だ。だが、この世界に来てからは、力を身に着けたことで調子に乗って、色々と悪乗りしてしまった。漫画の主人公のように中二病発言を連発したのだ。冷静になって考えてみると恥ずかしい過去だ。黒歴史だ。
故に中二キャラを貫くのか、それとも元の根暗に戻るのかかなり悩んだ。しかし、高木との戦いで根暗の自分を変えると決めた以上、とりあえず今までの根暗の自分は選択肢から排除した。とは言っても、中二キャラを貫くのは恥ずかしい。だが、目指すべき自分のイメージも思い浮かべない。なので、とりあえず普通を目指すことにした。
とは言え、普通ってなんだ?引きこもりの僕にはそれが普通が分からなかった。よって、クラスメイト達にどう話し掛ければいいのか分からないのだ。
クラスメイト達の方も今の僕の戦いに心の底から驚いたようで、近寄りがたいみたいだ。中には物理的に距離を取ろうとしている者も見受けられた。また、以前僕をいじめたことに対して思う所があるみたいで、僕とどう接したらいいのか判断できず、向こうから僕に話かけてくれる雰囲気ではないようだ。
沈黙が場を支配した。お互いになんと言って話しかければいいのか分からず、だんまりだった。しかし、いつもでもこのままではまずいと言うことで、比較的友好関係が築けていたメイル達に話し掛けることにした。
「久しぶりだな、えっとメイルとリサさん?」
「なんで疑問系なのよ?」
「いや、クラスメイト達の前で少し緊張していまして」
低姿勢で接すれば、多少は距離感が詰めれるだろうという浅い考えだ。傍から見ればメイルと話しているように見えるだろうが、心の中では必死になってクラスメイト達がどう反応するのか観察していた。
「お久しぶりです。健也さん」
「お久しぶりです、リサさん」
メイルと違ってリサさんはきちんと挨拶をしてくれた。これが大人の対応だな参考にしよう。
「えっと、津田君?」
メイル達との会話で緊張がほぐれたのか、イギリス人のハーフである吉村アリサが話しかけてきた。
「とりあえず、まずは助けてくれてありがとう。それと失礼だと思うけどあなた本当に津田君?」
「いや、本物の津田健也だけど」
「そう、失礼な事聞いてごめんね。でも、黒川さんが言っていたように、今のあなたの顔は私が知っている津田君の顔とは別人だったからつい聞いてしまったの。日本にいた頃のあなたはいつも暗い感じだったのに対して、ここにいる津田君の顔はなんだか自信に満ちているから」
黒川と同様に吉村も今の僕の顔は自信に満ちているように見えるようだ。喜んでいいのか少し悩むな。
「第八魔王アドラメレクを倒したと聞いて、今までまぐれだと思っていたが、今の戦いを見て本当に魔王を倒したんだと実感させられたぜ」
「えっと誰?」
吉村の次に見かけないデブが話しかけてきた。思わず声を出してしまったが、顔を良く見ると少しだけ面影が残っていた。
「もしかして山城君?…えっと随分と太ったね」
「そうだよ!太ったよ悪いか!」
突然、逆切れした山城君に不覚にも少しビビッてしまった。何があったかは聞かないことにしよう。触らぬ神に祟りなしだ。
「あのね、津田君」
吉村は突然声を上げると、他のクラスメイト達と顔を見合わせ、やがて全員が意を決したかのように、僕の方を向いた。
「「「「ごめんなさい」」」」
えっ突然どうした?僕の理解が追いつかないうちに、クラスメイト達はみんな頭をさげて僕に謝った。
「津田君のことをいじめてごめんなさい。自分達が上手く行かなかったからって津田君をいじめていたことをみんな反省しているの」
何について謝っているのかと思ったら、どうやら日本にいた時に僕をいじめていたことについて謝罪しているようだ。まさか向こうから謝罪してくれるとは思わなかった。少しだけ涙腺が緩みそうだが、できれば今謝って欲しくはなかった。
「えっ、剣也、君、この子達にいじめられていたの?」
ほらこうなった。メイルとリサさんが憐れむような目で僕を見つめてきた。自分がいじめられていた過去を他人に知られるのは自分が低く見られるから嫌なのだ。後、メイル達の僕を見る目が変わりそうで嫌だった。一瞬、メイル達の好感度を下げるためにわざとやっているんではないかと勘ぐったが、彼らの表情は真剣そのものだ。なので、心の底から詫びていると判断した。
「そうか、分かった許すよ。でも代わり今度僕が困ったら助けて欲しい」
クラスメイト達に対する復讐心もないので、対応に困った。なので、とりあえず貸しを作っておくことにした。
「分かった、お前が困ったらいつでも相談の乗る」
代表して山城君が答えたが、他のみんなも気持ちは同じようだ。とりあえずこれで面倒事は肩がついただろう。
では難しいことはやめてそろそろ本題に入ろうと僕が提案したので、クラスメイト達も謝罪するのを止めて、自分達の現状を説明し始めた。
ほのかに悪臭が漂う地下水路を黒川とアスモデウスは歩いていた。勝てないと見て撤退したのだ、彼女達の足取りは重かった。
「くそっ!」
さっきまで無言で歩いていた黒川だったが、突然、壁に拳をぶつけ苛立ちを爆発させた。
「何故だ!何故、人間如きがあそこまで強くなれるのだ!」
アスモデウスは黒川をなだめつつも、人間を蔑むような言動を繰り返す黒川を見て、黒川もその人間なのに何故、彼女はこうも人間を見下すのかと疑問を持った。だが、この場には自分しかいない。主である黒川の怒りを自分一人で受けるのは得策ではないと判断したので、策を用いて黒川から離れることにした。
「黒川様、この地下水路には今かなりの数の侵入者がいるようです。これから各個撃破していこうかと思いますが、よろしいですか?」
アスモデウスの提案に対し、黒川は興味がないようで勝手にしろと命じた。アスモデウスはしめしめと思いながら、黒川から離れ、地下水路の闇に消えていった。
後に残ったのは、やり場のない黒川の怒りの声だけだった。




