力の差
久しぶりの対面だ。ヴァンパイア・ホースに乗って一人王都に突入した僕はいきなりクラスメイト達と再会した。
「生きていたのか津田、そう言えばお前がいたのを忘れていたよ」
僕を忌々しい目で見つめていたのは、高木が諸悪の元凶と言っていた黒川華凛だ。黒川も気になるがよく見るとこの場には見知った顔も見かけたので、とりあえず黒川の事は置いて現状把握をしてみることにした。
先ずは黒川達の奥にいるクラスの連中側だ。ここにはクラスメイト達が六人いた。それと何故かアドラメレク戦で共闘したメイルとリサさんもいる。僕の登場に驚いたようで、彼らは僕を幽霊を見るような目で見ていた。対して黒川の方は、魔王と思われる女悪魔が一人と一体は始末したが、まだそれなりに強そうな悪魔が四体残っていた。
事前に集めた情報通りなら王宮に張られた〈聖絶〉の中にいるはずの勇者達が何故、王都の出口付近にいるのか、その辺はよく分からない。ともあれ、敵の親玉である黒川がここにいることに感謝しよう。こいつを倒せば大体の事に肩がつくのだから。
「とりあえず、黒川お前は僕の敵だ!」
僕の宣言を聞き、黒川が見下すような顔で笑った。
「はっ、なかなかの剣術を持っているようだから、どんな強者が来たのかと思ったら。日本にいた時にいじめられていた津田か。ここ最近いじめのターゲットは高木だったから、お前の事は忘れていたよ。それにしてもお前のその自信に満ち溢れた顔はなんだ?日本にいた時みたいに弱者らしく顔を伏せたらどうだ?」
確かに日本にいた頃の僕はいつも自信が持てず、顔を伏せながら過ごしていただが、今の僕は違う。
「ふんっ、最近少し闇落ちをしてね。少しばかり顔芸が達者になったのさ」
「闇落ち?お前に何が起こったか知らないが、〈愚者〉の力を使いこなしたという高木ならともかく、この世界に来て真っ先に逃げ出したお前が相手では少々役不足だ。だが、お前達!全力を出すことを許可する。だからこの雑魚を早く始末しろ!」
黒川が、叫ぶと四体いた悪魔達が一斉に姿を変えた。魔力量は変わらないが、全身に棘ようなものが生えて、大きさも二倍くらいになった。そして、赤い瞳からは理性というものを感じない。
「「「「ウオオオオーーーー」」」」
一言で言うとバーサーカー化したと言っていいだろう。まるで破壊こそが本能というべき状態だ。そして悪魔達は魔法で巨大な剣を作り出すと僕に向かって振り回してきた。
「何故だ!何故、準大悪魔級の悪魔が四体もいて何故、津田に傷一つ付けらえない!」
津田と悪魔達の戦いを見て、黒川は柄にもなく叫んでしまった。こちらが油断していたとは言え、津田が最初に悪魔の一体を斬撃で倒してのを警戒して、黒川は禁じ手であるバーサーカ―化の使用を許可した。バーサーカ―化とは理性を失う代わりに戦闘力が格段に向上する上位悪魔専用の魔法の一つである。にも関わらず、津田は剣術と体術のみ四体の悪魔達を子供を相手するようにあしらっていた。
(ありえない。確かに津田の持つ〈塔〉の能力は知らないが、前回の聖戦の時に〈塔〉の勇者はほとんど役立つことなく早々に散ったと聞いている。そう考えれば未知数の能力と言えなくもないが、それにしたってあの強さはありえない)
黒川は頭をフル回転して津田の強さを考察した。先ず、津田の魔力はアスモデウスよりも若干低いくらいだ。この時点すでに黒川が知っている他の勇者と一線を画している。正直これだけでもすでに厄介だ。だが、津田の強さは魔力だけではない。
(魔力は置いても、あの体術と剣術はどうやって身につけた?分からない、あの剣術も〈塔〉の能力の一端なのか、それともあれは単に津田個人の技量なのか?だとしたら津田はまだアルカナ能力を使っていないことになる)
津田のあまりの強さから、もしかしたら自分の計画は津田一人に潰されるのではないかと感じ、黒川の顔から一滴の冷や汗が地面に落ちた。
上手く行ったな。王都で戦うにあたって僕には心配すべき点があった。それは高木との戦いで指摘された戦闘不足からくる戦闘の間にできる間のことである。一瞬の判断を誤って敗北する可能性があるのはゆゆしき問題だ。
だが、高木曰く、僕が見せる隙というのは魔界で極限レベルまで戦闘技術を高めた高木でようやく分かるレベルだそうだ。つまりよほどの達人でなければ隙を突くどころか隙があることも分からないそうだ。
また魔界の悪魔達は基本的に知能が低く本能のまま戦っている者が多く、戦闘中に相手の弱点を突こうと考える者はほとんどいなかったそうだ。もちろん極一部の悪魔はそういったことが理解できる者もいたみたいだが、幸いなことに目の前の悪魔は知能が低い悪魔のようだ。
もっとも、バーサーカー化しているので、知能面の心配は必要なさそうだ。
目を血走らせながら、武器を捨て両手を広げて僕を捕らえようと迫る悪魔に対して逆に背負い投げして遠くに飛ばした。
どうやら、能力の制御の方も上手く行っているみたいだ。現在、僕は能力者のありとあらゆる力を倍化できるアルカナ能力〈力〉を制御して筋力と動体視力のみを倍化している。高木との戦いで分かったことだが、魔力を倍化したまま極限まで戦うと、能力使用後に体に激痛が走るのだ。
この現象について高木は身の丈以上の魔力を使用した負荷が体にかかっているのではないかと推察した。限界まで戦わなければ起きないことだが、今回の遠征はいつ終わるか分からない長期戦だ。ここでの黒川を倒してもまだ魔王がいる。なので魔力の倍化は限界まで控えた方がいいという判断をした。
さて大体の事は把握した。よって四体の悪魔達との戦いにそろそろ蹴りをつけようとした矢先、ふいにどこからか金色の針のようなものが悪魔達目掛けて放たれ、それぞれの体に命中した。針が命中すると今まで血走っていた悪魔達の目が虚ろになり、行動を停止した。
一瞬誰だと警戒したが、背後からその針を飛ばしたと思われる人物の声を聞きすべてを理解した。
「なんだ?手こずっているようだな、マスターよ」
振り向くと、そこには金色の髪をなびかせる美女、オリジン・ヴァンパイアのエリザベスが立っていた。
優雅に佇むエリザベスとは対照的に黒川は金切り声を上げた。
「どういうことだ。何故、そこの悪魔達の支配権が消えたのだ?」
うろたえる黒川に対し勝ち誇ったような笑みでエリザベスが告げた。
「勇者と言っても精神力は対してことないぉ、それとも我がマスターの余りの強さにビビッて気が動転したかのぉ?ともかくそこの悪魔達に対するお主の支配力は弱まったおかげで、妾のアルカナ能力〈女帝〉の洗脳がきちんと働いたようだ」
「こいつは何を言っている?アルカナ能力は勇者専用の力だ。それを何故勇者でもないこの金髪の女が持っている。そもそもお前は誰だ?」
ついに喚き散らした黒川に僕はこちらの手の内を見せた。
「そうだな、折角だから、さっきから驚きの余り魚のように口をパクパクさせているそこの勇者達も聞け!かつてお前達が見下した津田健也は、お前達よりも遥かに強くなって帰ったきたぞ」
この場にいるすべての者に聞こえるように大声で叫んだ。
「僕のアルカナ能力〈塔〉は、ダンジョンを作り、護衛のモンスターを生み出し、さらにダンジョン内で死んだ相手の能力を奪う能力だ。そして、僕の作ったダンジョンにはこれまで多くの侵入者が現れた。魔王アドラメレク、勇者佐伯一派。僕はそいつらを殺して持っていた能力を奪った。また、奪った能力のいくつかをここにいるエリザベスのようにダンジョン内にいるモンスターに能力を譲渡したのだ!」
能力の譲渡はアドラメレクから奪った(貪欲)のおかげだが、そこまで丁寧に教えてやる必要はないだろう。
さて、皆の様子を見る限り、僕が何を言っているのかすぐには分からなかったのだろう。だが、次第に僕の言っていることを理解したのか、黒川も勇者もそして魔王も揃って大声を出した。
「「「「はぁぁぁぁぁ~~~」」」」
驚愕する声を無視して話を続けた。
「僕はダンジョンで生み出したモンスターの大軍を率いてこの王都を奪還すべく来た!今王都のあちこちで僕の連れてきたモンスターと黒川の悪魔が戦闘を開始しただろう」
感覚を研ぎ澄ますと、予定通りブラド達が作戦を開始したみたいで、ヴァンパイア達の魔力を多数感じることができた。
顔色を見るに、黒川もこちらが攻撃したことに気付いたのだろう。見る見るうちに顔が青ざめていった。だが、それも一瞬だった。事態を把握した黒川はすぐにこちらを睨み叫んだ。
「何故だ!何故、津田のような地を這う虫けらが私の邪魔をする!」
酷い言われようだ。なので僕も少し言い返すことにした。
「黒川、敵になったお前がどう思われようがもう興味はない。僕がここにきたのは、クラスの連中に僕の力を見せつけるため、だから、はっきり言ってお前には何一つ興味をないし、因縁と呼べるものもない」
「だったら邪魔するな!」
「そうはいかない。さっきも言ったが、僕の力を見せつけるには敵が必要だ。分かるな黒川?因縁のないお前は僕にとってはただのモブだ。だから精々、立派に僕の踏み台になってみせろ!」
いや~我ながら良くここまで酷い事が言えるものだ。高木に再会するまで調子に乗っていた間に少しばかり口調も人格も変わってしまったようだ。
「もういい、アスモデウス出番だ。あのゴミの口を黙らせろ!」
目に見えるほどの怒りを纏いながら、黒川は魔王に命令を下した。ここが勝負どころだ。僕はアルカナ能力〈力〉で魔力を倍増させた。
次の瞬間、僕の圧倒的魔力が周囲の空間を支配した。この場にいる者の中で最も魔力が高いのは黒川と共にいた女魔王だったが、魔力を倍化した今、僕の魔力はその女魔王の倍以上に膨れ上がっていた。
今まで感じたことない魔力に勇者達は震えを抑えるために、お互いに体を抱き合っていた。恐怖を感じてか足を震えながら黒川そして女魔王も僕から一歩引いていた。
「な、な、なんだ、その魔力は?もはや人間が出せる魔力ではないぞ」
黒川は途切れ、途切れに必死になって言葉を紡ぐ。だが、流石はそんな主人の哀れな姿を見て臆することもなく女魔王は即座に行動に移した。
「ダークネス・ミスト」
黒い霧が発生して周囲を包んだ。メイル達の当たることを恐れた僕は攻撃はせず、自然に霧が晴れるのを待った。しばらくすると霧が晴れたが、黒川と女魔王の姿はなかった。
「逃がしたようだなぁ、マスター」
「少し残念だが、気にするな、あの様子ではこちらの勝ちは揺るがないよ」
魔力を解放しただけで、黒川達は去ってしまった。周囲の敵もブラド達によって一掃されたようだ。安全が確保されたので、僕は少しだけ警戒心を解き、久しぶりに再会したメイル達に彼女達の状況を聞くことにした。




