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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
第五章 王都解放編
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ダイナモ作戦

 今日の正午には、二週間に渡って王宮を守っていた大天使ラファエルが張った〈聖絶〉が消える。食料不足の心配はないが、〈聖絶〉が消えれば魔王の攻撃が始まる。とてもではないが籠城するのは不可能だ。


 そのため、王宮にいる勇者や王族達は一大脱出作戦を計画した。作戦名は、第二次世界大戦において、ダンケルクの戦いで行われた連合軍の大規模撤退作戦から名前を取ってダイナモ作戦と命名された。転移前に勇者達がちょうどその辺りの事を世界史で学んでいたためこの名前がとられたのだ。


 ダイナモ作戦は王宮に逃れた計千人もの人間を王都の外に逃がすことを目的にしている。作戦を遂行するために二つの隊が編成される。


 一つは囮部隊、戦闘に秀でた者からなる精鋭部隊で、王宮を正面から出てグレース通りを通過し王都を出る。もう一つの本隊は貴族や市民、城使いなどの非戦闘員が中心となっており、勇者からも若干名護衛として配属されている。この本隊は囮部隊が囮になっている間に、王宮の地下から続く地下水路を通り王宮外に脱出する。


 囮部隊はラファエルを召喚した吉村アリサが指揮を執り、彼女を含め勇者六人とメイル、リサそして大天使ラファエルが配属された。はっきり言って犬死の可能性が高いこの部隊だが、隊員である勇者から怖れの二文字は感じられなかった。


 


 〈聖絶〉消滅まで残り僅か、王宮の外には〈聖絶〉がもうじき消えることを見越してか多くの悪魔達が取り囲んでいる。そして本隊が地下の方に移動を開始した頃、囮部隊の隊員達は本隊の方にいる知人と別れを済ませ、城門の前に集合した。


「死にたくないなら、本隊の方へ行っていいんだぜ」


 囮部隊に配属された山城弘は、見て分かるほど膝が震えていた花田透に声を掛ける。


「馬鹿を言え、あの二人を見ろ、女なのに顔色一つ変えてないのに、男の俺が引くなどあってたまるか!」


 山城が刺した先には、彼らと共に囮部隊に志願したメイルとリサがいた。


「なあ山城君、僕この戦いが終わったらメイルさんに告ることにした」

「馬鹿!お前それ死亡フラグだぞ!」


 友達の突然の告白に驚いた山城だが、すぐに大声を出して制した。突然の大声に周囲の目が集まったため二人は会話をするのを止める。


「はい、はい、みんな準備はいい?一応、点呼を取るわよ」


 囮部隊の隊長である吉村は無駄口止めと言い、点呼を取り始めた。


「山城君」

「おす!」

「花田君」

「はい!」

「鈴木君」

「いるぞ」

「高野さん」

「いるわ」

「小林さん」

「はい」

「リサさん」

「いますわ」

「メイルさん」

「はい」

「最後にラファエルお姉さん」

「おりますわ」

「本隊に配属された橘君と桜井さん以外みんなちゃんと揃ったわね」


 自分を入れてこれで九人、全員逃げずに集合したのを確認した吉村は、皆を見据え出陣の前に一言話すことにした。


「正直言ってよくこんなに無謀な作戦にみんな志願した思うわ、三週間前の堕落しきった私達では、誰かのために犠牲なるなんて選択などしなかったと断言できるわ」


 吉村の発言にその通りだと頷く勇者達、


「ここまで私達を変えてくれた高木君は二条さんと一緒にあの時逃亡してしまった。でも魔界から帰還した高木君が魔王に臆して逃げ出したなんて、私は今でも考えられえない。きっと理由があるに違いないわ」


 この話を聞いていた勇者達も同じ思いだ。それだけ高木はここにいる勇者達から信頼を得ていたのだ。


「堕落した日々から私達を救ってくれた高木君はここにはいない。でも彼がいたから私達は今日立ち向かうことができた。だからみんな高木君に感謝しましょう」


 吉村は白色のベールのような〈聖絶〉を見上げた。あちこちにひびのようなものが発生しており、すぐにでも崩壊が始まりそうだった。


「それと、この世界に来てから王宮の人達は多大な迷惑を掛けた。堕落しきった私達を追い出さずに養ってくれたことのお礼を今こそ果たすべき時だわ」


 多少なりと罪悪感を感じていた勇者達は顔を伏せる。


「最後にこの無謀な作戦に参加してくれたメイルさんとリサさんにはなんとお礼を言えばいいのか、ともかく一緒に戦ってくれてありがとう」

「気にしなくてもいいわよ」

「国を守ることも我々の務めですわ」


 二人の冒険者からの暖かな返答を聞き、勇者達は心強く思った。もう残り時間は僅かだ。吉村は最後に叫ぶ。


「とは言え、ここで死ぬ気はない。みんな生きて王都を脱出しましょう。行くわよダイナモ作戦開始!」


「「「「「おおー」」」」」


 絶望をかき消すほどの声を共に、彼らは〈聖絶〉を飛び出した。




 

 魔法の一斉発射で、王宮を取り囲む悪魔達の包囲を突破した囮部隊は王都の出口まで一直線に続くグレース通りを走り抜ける。以前は活気にあふれていた通りだが今は人影一つ見当たらない。追撃してくる悪魔と待ち構える悪魔を倒しながら彼らは進む。


「次の角から三体出てくるわ」


 アルカナ能力〈運命の輪〉を持つ高野明美が警告する。〈運命の輪〉は自分の周囲にいる者の心の声を聞くことができる。この力で見えない所にいる敵を把握できるのだ。


「これでも、食らえぇー」


 高野の指示に従い、〈月〉のアルカナ能力を持つ花田が能力を発動させ、槍状の物体を角から出てきた悪魔目掛けて放つ。


 アルカナ能力〈月〉は相手の五感に働きかけ幻覚を見せる能力だ。槍で体を貫かれたと錯覚した悪魔達はそのまま気絶した。


 その後も冒険者達と囮部隊の勇者達は走りながら、この二週間で即興で鍛えた能力で悪魔達を迎撃する。


 かなりの数の悪魔を倒し、出口まで半分まで差し掛かった時、ここまで魔力の温存のため戦いを見守っていたラファエルが叫ぶ。


「みなさん、このまま後ろを振り向かず走ってください!」


 この二週間、おっとり系のお姉さんの印象があったラファエルの慌てふためきように驚く囮部隊の面々、しかし、彼らすぐに何故ラファエルが慌てたのか理解した。自分達の背後から凄まじい速度で魔王と思われる存在が一体迫っているのを感じたからだ。


「ラファエル姉さん、後は頼みます!」


 冒険者達と勇者達は背後をラファエルに任せて全速力で走った。その姿を見守ったラファエルは後ろを向き、背後に立っていた熊のぬいぐるみを持つ少女に挨拶をした。


「五百年ぶりね、第四魔王アスタロト。今回も可愛いらしいぬいぐるみを持っているわね……」

「…」


 挨拶の返答のつもりか、アスタロトは無言まま頷いた。そして天使と魔王の戦いが始まった。






「流石に疲れたな」


 誰かが溢した言葉に囮部隊の何人から無言で頷いた。魔力で体を強化しているとは言え、三キロ近い距離を全力で走るのは厳しい。


「でも、とりあえずのゴールが見えてきたわ」


 高野が指し示すように、グレース通りの八割くらいを走った彼らの目にゴールである城門が映る。襲撃してくる悪魔の数も大分少なくなってきた。このまま脱出できるのではと一同が安堵したその時、勇者達の耳に聞き慣れた声が聞こえてきた。


「このまま、楽に逃げられると思うな。シャドウ・バインド」


 その声が聞こえてきた瞬間、囮部隊の面々の影がロープのように伸びてそれぞれの体に巻き付き、体を拘束した。


「二週間ぶりだな。諸君」


 ゴールまで後五百メートルくらいの位置で、城門を背にして裏切りの勇者、黒川華凛と魔王アスモデウスが立ちはだかった。


「黒川さん!」


 この中で唯一未だに黒川が全ての元凶だと信じ切っていない吉村が何故こんなことをするのと叫んだが、黒川は相手にしない。


「うるさいなぁ、これから君達の死刑執行人を呼ぶから黙ってくれ」


 黒川が指を鳴らすと、彼女の周囲に五つの黒い靄が現れた。その靄は次第に晴れていき、やがて今まで相手にしていた悪魔よりも一回り大きい悪魔が姿を現した。


「取っておきだ。今まで君達が相手をしていた悪魔とはレベルが違うぞ。なんせ、この五体は後一歩で大悪魔とも肩を並べることができる悪魔なのだから」


 筋肉隆々で立派な武装をしているその悪魔達が放つ魔力を感じ囮部隊の面々の顔を絶望に染まっていた。


「いいね、その顔最高だ!この悪魔達は魔力量だけなら下位魔王に匹敵する。クリフォト能力を持たないからと言って侮るなよ」


 そう言って、黒川は余裕の表情を崩さず、勇者達の拘束を解いた。拘束を解かれた囮部隊の面々がそれぞれ顔を見合わせて覚悟を決めたその時、彼らは城門をくぐり、馬に乗ってこちらに向かってくる一人の騎士らしき人物に気付く。


 黒川達が気づかなければ、前後から挟み撃ちできるのではないかと、見知らぬ騎士の登場に期待したが、残念ながらすぐにその騎士の登場は気付かれてしまった。


「なんだ?あの騎士は、はっ! たった一人で王都を取り返しにきたのか?」

「笑いごとではありません。防衛線を突破できる可能性があるのはセレン方面の軍のみ、ということは関所に向かったリリスが敗れたのでは」


 アスモデウスの発言に馬鹿なと答える黒川。魔王を支配している黒川は支配下にある魔王が死ねばただちに知ることができる。黒川はリリスを今なお支配していると感じているためその可能性はないと切り捨てた。


「折角の勇者とのパーティーを邪魔するとは無粋な奴だ。お前達あの愚かな騎士を始末しろ!」


 黒川は五体の悪魔達にこちらに向かってくる騎士の始末を命じる。


 悪魔達はそれぞれ遠距離系の魔法を放って騎士に攻撃を仕掛けた。だが、なんと魔法が当たる直前で騎士は剣を振り回して、魔法を弾いた。


 これには流石の黒川も驚いた。あれだけの威力の魔法を剣一本で弾くなど尋常ではない。黒川は侵入者に対する警戒レベルを一段階上げ、次の指示を出そうとするも一足遅かった。


 謎の騎士は、剣を振りかぶり斬撃を飛ばした。その斬撃の余りの速さに回避できず、五体いた悪魔の内に一体は体を真っ二つに切り裂かれ絶命した。


 初めて驚き顔をする黒川。下位魔王級の悪魔を一撃で殺した相手に対して黒川は警戒レベルを最大まで上げた。対して勇者達は剣の技量そして、危険な王都にわざわざ来たという二点から、この騎士の正体は高木ではないかと推測する。


 高木は自分達を見捨てていなかったと勇者達の期待が高まる。そして彼らの傍まで来た馬は足を止めた。


 謎の騎士の顔を見て最初にその正体に気付いたのは、冒険者であるメイルとリサだった。この世界に人間が気付いたのだから、自分達の知っている人間ではないと一瞬、残念な顔をした勇者達だったが、メイル達と同様に勇者達もすぐにその騎士の正体に気付いた。そして、その意外な人物の登場に声も出せないほど驚いた。


「ほ~う、貴様生きていたのか」


 謎の騎士に対して最初に声を上げたのは、黒川だった。黒川も黒い馬に騎乗する人物と面識があったからだ。


「久しぶりだな。みんな」


 その騎士の正体は津田健也、かつて勇者達がいじめた相手であった。


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