地獄のモンスターガチャ
「ナビ子の最後の言葉は一体何だったのだろう」
まるで、引きこもりを更生しようとする意図があるような発言のようである。
「少し気になるが、まァ深く考えなくていいか」
そんなことよりも、これからどうするか考えるべきだろう。何をすべきか考え始めた時、空から何かが降ってきた。
凄まじい轟音を立てて、拠点となるログハウスのすぐ横に落下してきた。煙が晴れて、降ってきてものの正体が判明する。それは巨大なガチャポンであった。
「あ~モンスターガチャ本日開店、振るって回してください!!!」
ガチャポンには拡声器がついており、そこから陽気な声が流れてくる。というかこの声。
「ナビ子何しているの?」
「ナビ子?そんな人知りません」
「いや、声一緒だし」
「おっと、しまった。声変えるの忘れてた。あ、いや、なんでもないです。あなたの言う人と私は別人で~す。私はガチャの精、マスターのガチャ欲を湧き出させるための存在です!」
もはや意味が分からない。まぁそのうちボロを出すだろう。僕はおとなしく、ガチャの精に話しを合わせることにした。
「それで、ガチャの精は何してくれるの?」
「よくぞ聞いてくださいました。ポイントを支払うことで、ダンジョンに配置するモンスターを召喚することができます」
そういえば、ナビ子はモンスターの説明を何もしていなかったな。そうか、ソシャゲのようにガチャを回してモンスターをゲットするのか。
「この世界には、ゴブリンやオーク等のモンスター、もしくは魔物と呼ばれる生物がおります。このモンスター召喚で呼び出されるモンスターは、外のモンスターと同じ強さですが、マスターの命令は絶対順守であることと、この塔の中なら死亡しても条件を満たすと復活するというメリットがあります」
もう、勇者じゃないな、魔王だ。
「それで、どうすればいいの?」
「簡単です。ハンドルを回してください。そうすれば自動的に100ポイント引かれて、モンスターを召喚されます」
ご丁寧にハンドルの上部に残りポイント数50140と表示されていた。仕方ない回すか、護衛のモンスターはどちらにしろ必要だし、
「じゃあ、30000ポイント分回すよ」
「おお、太っ腹!!ではどんどん回してください!!」
通常のガチャポンの三倍くらいの大きさのハンドルを回す、残りポイント数が100減り、人間が入れそうなくらい巨大な取り出し口から、銀色の卵が落ちてくる。
「銀か、外れですね」
卵は外に出る勝手と割れ、中からゴブリンが一匹出てきた。
「銀は外れとか言ってたが、卵の色の種類で、強さが変わるのか?」
「はい、銀卵は基本的に雑魚、たまに使えるのもいますが、金卵はユニークモンスター級、絶対出ないと思いますがクリスタル卵は魔王級です。ちなみに、今週は金卵のユニークモンスター、鬼族の少女剣士サクラの的中率三倍です」
とうとう、ソシャゲの謳い文句みたいなことを言い出し始めた。
「ちなみに、元の出現確率は?」
「さぁ~どうでしょうか、なんせ表示する義務はありませんから」
こいつ、法律も何もないからって調子乗りやがって。おまけに中身が分からないように、上部の中身が見える部分が黒塗りになってやがる。
「それより、魔王級が出るクリスタル卵ってやばくねぇか、いいの?そんなの配下にして」
「大丈夫です。まず、出ません。出すなら百万回くらい回さないといけませ~ん!」
ガチャの精は速攻で答えた。そこまで言うなら出してやろうじゃない。だが、百回引いた所で、僕はこれが罠だということに遅まきながら気付いた。
「全然出ねぇ~、もう百回も引いてるのに金一つだぞ、ってか腕が痛くなってきた」
唯一出た金卵は、スカルドラゴンとかいう、家ほどの大きさの巨大な骸骨竜だった。ガチャの精曰く当たりらしいが、あまり強そうに見えない。代わりに銀卵のバリエーションは凄かった。正直みんなゴブリンかと思ったが、オークや巨大な昆虫、サメ、熊、ゾンビやスケルトン、銀卵でも珍しい部類に入るホムンクルス(メイド)(執事)、後ゴーレムとかが出てきた。
「この塔に挑む、侵入者はマスターがそれぞれの階に設定されたボスモンスターを倒すことで、次の階への入口が現れる仕組みになっています。なので、強いモンスターを引いて、階層ボスにしないとすぐに陥落しますよ」
それは知っている。だからこそ焦っている。早く、強いモンスターを引かねば、僕はポイントの減少におびえながら、金卵出ろと祈り続ける。そして、
「もう残りポイント20000ですが、どうします、回しますか?まだ、金二体しか出てないですし、当然回しますよね?」
煽る煽る、ガチャの精。確かにまだ、金卵のモンスターは二体しか出ていない。最上階を除いて、九階層もあるのに、ボスが二体しか用意できていなかった。
「くそっ、残りのポイントで、この層をもっと充実させようと思ったのに」
何故か、設置できるオブジェクトの一覧には、マッサージチェア(1000ポイント)とか寝台ベット(2000ポイント、)プール付き豪邸(15000ポイント)等、この世界では手に入らなそうなものが多数ある。
「出るまで回さないと、今までの投資が無駄になりますぜ、ケッケッケ」
当初の予定通り、30000ポイント使ってしまった。でも、階層を任せるユニークモンスターの数が明らかに足りない。
「仕方ない、とりあえずピックアップが出るまで回すか」
悔しい、本当に悔しい、何が悔しいかって、こいつに乗せられていることが何より悔しい。その後、僕はポイントをほとんど使いきるまで、泣きながらガチャを回し続けた。
「五体ですか、まあまあの出来ですね」
約五百回引き、出た金卵の数はスカルドラゴンを含め五個。女帝蜂とかいう人間サイズの蜂の女王、毒を出すらしいポイズンスライム、ビッグ・タートルとかいう巨大亀、そして五百回回してようやく出たピックアップ(笑)の鬼族の少女剣士サクラである。
気が付いたら麦畑一面が、今までに出た者達で埋め尽くされている。さてどうするか悩んでいると、なんと向こうから話かけて来た。
「「「「「マスターなんなりとご命令を」」」」」
「金卵と一部の銀卵のモンスターは、人語を理解し、人間と同等な知能を有します。これは外のモンスターにも当てはまります」
これは大問題だ、こいつは別にしても、こんなに多くの人間?と接することができるか!引きこもりに仲間はいらないのだ。
仕方ないとっと配置に就かせて、この場所から去らせるか。
「えっと、僕はこの塔の心臓部であるこの十階に身を置くので、君達はこれから指示する階に向かいその場所を防衛してくれ」
僕はモンスター達にそれぞれの階層に行くように命じると、彼らはその場から一瞬で消え去った。
「あれ?あいつらも僕と同じように階層移動できるの?」
「はい、侵入者がいなければ、自由に移動できます」
どうやって移動するのか気になったが、問題なかったようだ。
「マスター、ポイントが140残っていますが、使わないんですか?」
モンスター達が去った後、唐突にガチャの精が煽ってきた。コイツ最後の一滴まで絞りつくす気だ。
「いや、ゼロになると不安で」
それ以上にこいつに乗せられて、ポイントを全損するのが嫌だったが、
「そんなこと言っても、140じゃ、何もできませんよ」
「確かにそうだけど」
クソッ、確かに、こいつの言うように140ポイントじゃ何もできない。もういいや、どうにでもなれ。
「分かった、回すよ、回せばいいんだろう、こんちくしょう!!」
「それでこそ、マスター」
ちくしょう、上手く乗せられたのは分かっているが、引きたいという衝動は抑えられない。どうせ、銀だろうと思いながら、ハンドルを回す。しかし、
「「えっ」」
僕達の予想を裏切り出てきたのは、クリスタルの卵であった。
十階 麦畑 拠点 ログハウス
九階 神殿 最終防衛地点 切り札配備
八階 迷路 フロアボス 鬼族の少女剣士 サクラ
七階 氷海 フロアボス 適当な雑魚(覚えていない)
六階 沼地 フロアボス ポイズンスライム
五階 砂漠 フロアボス 適当な雑魚(覚えていない)
四階 森林 フロアボス 女帝蜂
三階 水辺 フロアボス ビッグ・タートル
二階 墓場 フロアボス スカルドラゴン
一階 平原 フロアボス ゴブリン(一番最初に出た奴)
ガチャって怖いですよね