帰還
今日はもう一話投稿する予定です。
「またこの天井か」
王宮内にある自室のベットで目覚めた俺は辺りを見渡した。何も変わりはないが、窓際に置かれた花瓶の見るに、毎日誰かが手入れをしてくれていたようだ。
「うん?、体が重い」
立ち上がろうとするが、上手く体がいうことを聞かない。どういうことだと思った矢先に、誰かが部屋に入室してくる気配を感じた。
「高木君…」
手に花を持って部屋に入ってきた人物は、俺に悪魔召喚を進めた女、二条白雪であった。
「高木君っ」
二条は勢いよく走りだして俺に飛び掛かって抱きしめた。そして、そのまま泣き出す。
状況がいまいちつかめない。なぜこいつは泣いているんだ?俺は二条の肩を掴んで優しく引き離した。そして何があったかを尋ねた。
「ぐすっ、高木君があの悪魔に魂を魔界に持っていかれてもう二か月が経ったんだよ。それまでずっと眠っていたままだったの。だから、もうこのまま帰ってこないかと思ったんだ!」
二条は目から涙を流して泣いた。その姿を見て、今まであやふやだった記憶が蘇ってきた。
「そうか、俺は魔界に行っていたんだったな」
「そうだよ。他のクラスの人達は高木君がどうなってもお構いなしだし、王国の人達も魔界に連れていかれた魂は戻らないといって最低限の事しかしてくれなかったんだよ!」
二か月か、だが、魔界でずっと戦っていた俺から見ると数年はあっちにいた感覚だった。
その日は、部屋で泣く二条をなだめて一日が終わった。そして翌日、俺が目覚めたのを知ってかクラスの連中が顔を出すようになった。皆喜びの声をくれたが、もちろん二条のように俺を心配して言ってくれた奴は皆無であった。
「おい、高木、目が覚めたようだな。悪運の強い奴だ。魔界で死んでいればいいのに」
「魔界で修行したわりには大して魔力が上がってないぞ。無意味な二か月だったな」
「この二か月で、朝倉と佐伯達は城を出て行ったぞ。朝倉は相変わらず不愛想だったが、佐伯は心配していたぜ。いじめ相手がいなくなったからな!」
二か月もの間、意識不明だったクラスメイトに対しても悪口を言えるこいつらはある意味すごい。もうまともな精神ではない。異世界での暮らしがこいつらを変えてしまったのだろう。
さて、色々と気になることができた。クラスの連中の手厳しいお見舞いがひと段落ついたところで、俺は二条からこの二か月に何があったかを尋ねる。
「えっと、どこから話せばいいのかな?」
悩みながらも、二条はきちんと最初から教えてくれた。
まず初めに、王宮から旅立った者についてだ。俺を魔界に送った張本人である神宮司は責任を感じてはいたが、友達である朝倉が外に出ると言いだしたため、最後に二条に俺の事を頼んで、朝倉についていってしまったそうだ。
佐伯達は俺と言う存在が消えたことで張り合いをなくしたのか、王宮の宝物庫から宝を盗んで逃げたそうだ。あいつららしいクズっぷりである。しかし、一か月ほど前から消息がつかめていないらしい。あの連中が簡単に死ぬはずはない。仕返しをしてやるためにも生きていることを祈るばかりだ。
一方で、佐伯達が消えた今、残ったクラスの連中の大半が魔王退治は朝倉達が何とかするだろうと言い出し修行もまともに行わずに堕落した日々を送っているそうだ。つまりニートというわけだ。なので王国の貴族達からは勇者貴族と影口を叩かれているみたいだ。
その勇者貴族の中でリーダー面しているのが、山城弘だ。柔道部だった奴で性格も佐伯ほどではないが過激な奴だ。二条のように距離を置いている人もいるそうだが、大多数のクラスの連中が山城をリーダーと認めているようだ。
この話を聞き、王国もわがままばかり言う勇者貴族の面倒をいつまでも見切れないだろうと考えたが、幸運なことに朝倉達がこの二か月の間に隣国で第七魔王バールを仕留めてたおかげで、王宮内での勇者に対する風当たりが弱まったらしい。
つまり寝たきりであった俺を含め王宮にいる勇者の立場は危ういものだったということだ。まだ勇者は役に立つと貴族達に分からせてくれた朝倉達には感謝しよう。
そして一番驚いたことは、あの津田が一人で第八魔王アドラメレクを倒したことだ。これには国中が驚いた。俺も驚きだ。雑魚のくせに大殊勲をあげたと言っていいだろう。いや俺も雑魚だといつまでもバカにはできないな。俺だって雑魚だったんだ。津田がこの世界に来て変わったとしてもおかしくないだろう。決して表に出すつもりはないが津田の健闘を讃えた。
俺もいじめられる側を経験したことで津田に対しては今では親近感すら覚える。機会があれば謝罪したい気持ちで一杯だ。だが、津田に詫びる前にまず自分の状況を改善する必要がある。
「高木君、本当に山城君と決闘するの?」
「ああ、自分の力がどの程度のものか知りたかったからな」
目覚めてから一週間が経ち体が万全になった頃、俺は王宮に残った勇者達のトップにいる男子、山城弘に決闘を挑まれた。山城曰く、復帰した高木君の歓迎会と修行で力を付けた俺の力をみんなに見せつける機会を与えるとのことだが、実際は山城の自分自身の力を見せつけ自身の権力基盤を盤石にしたいのだろう。
そんな、浅い考えが透けて見える申し出だが、俺は受けることにした。俺も自分の力がこの世界でどの程度通用するのか知りたかったところだったからだ。
「では、審判は私がします。日時は明日、場所は練習場ということでよろしいですね?」
審判役になったのはイギリス人とのハーフである吉村アリサだ。以前から思っていた、どうでも良いことだが親譲りの見事な金髪を持つ彼女は、西洋人風の人間が多いこの世界の人間の中にいても違和感が感じられない。
「ああ、それで問題ない。体の方も随分調子がいい」
二か月前は練習場には、いつも誰かがトレーニングを行っていたため行きづらかったが、幸運なことに堕落を覚えた勇者達が今更修行などするはずもなかったので、ほぼ貸し切りであった。
雑魚扱いされている俺が心配するのも変だが、山城達は全く訓練もしてないのに決闘とか大丈夫なのだろうか?
「明日は、クラスの子達以外にも王国の貴族の方がたも来られるそうです。ああ、後、あまり気にすることではないかと思いますが、多分黒川さんは来られないと思います。最近、王都の繁華街に赴いて商売を始めたという噂もありますし、彼女は一体何しているのでしょうか」
黒川?確かクラスでただ一人の水泳部だった女子だ。彼女と絡みがなかったためよく知らないが、商売を始めたということはビジネス面での才能があるのだろう。戦うだけが勇者の仕事ではない。黒川のような戦い以外に道を見出す生き方も面白いかもしれない。
昔の俺なら、魔王を倒すという一つの目標が提示されればそれのみに没頭していたに違いない。だが、無能の烙印を押され、クラスの頂点から蹴落とされ、いじめられて、魔界で極限の状態に追い込まれたことを経験し色々と考えさせられた。
頂点と底辺を知っている俺だからこそできることがきっとあるはずだ。明日の試合は俺が自信を取り戻すのが一番の目標だが、同時に未だに俺を見下し堕落しきってしまったクラスの連中の目も覚まさせてやろう。
無能とされた俺が山城に勝てば、クラスの連中も考えを変えてくれるはずだ。昔のように再びクラスのトップになることにこだわりはないが、少なくとも俺を対等に扱って欲しい。
そのために明日の試合は絶対に勝たねばならない。俺は体を万全な状態にするために今日は早めに床についた。




