side~高木拓斗 都落ち
しばらく主人公交代です。
クラスメイト達を置いて一人逃げ出す俺、後ろを振り向くと炎上している王都が見える。炎上する王都は、今、魔王達と多くの魔物によって破壊と殺戮の場と化してしまった。
この惨劇はたった一人の裏切り者の勇者が引き起こしたのだ。
他の勇者達は今も懸命に王都を守るために戦っているだろう。俺も残って戦いたかった。だが、できなかった。俺は彼女に掛けられた能力のせいで、王都からの逃亡を余儀なくされている。
俺の意思に反して、体は王都から逃げようと必死に走る。いや逃げているのではない王都外にいる仲間の集めて再び王都を取り戻すのだ。そう自分に言い聞かせなければ、罪悪感で自分を見失いそうであった。
あいつらはどうなっただろうか?置いて行ったクラスメイトや王都に住む人達のことを考えると不安な気持ちになる。だが、いつまでも不安なままではだめだ。
彼女の命令通りなら、俺が目指すはセレンの街の近郊にある津田が建てたと言われる謎の塔。俺はかつて自分がいじめた相手、津田健也に助けを求めに行くのだ。
その道中、俺は気を粉らすために、約三か月前、この世界に来た時の事を思い出す。この俺、高木拓斗がリリア王女に無能と呼ばれたあの日の事を。
「残念ながら〈愚者〉はすべてのアルカナ能力の中でも最も使えない能力です。能力は一言でいえば無能、あらゆる才能を失い、天に見放されたかのように、何をやっても上手くいきません」
何を言っているんだこの女は俺が津田よりも劣っているだと。俺は王女にすぐに反論した。
「えっ、今なんて言った?俺が無能?もしや津田よりもこの俺が劣っているというのか」
「はい、残念ながらその通りだと思います」
リリア王女の発言に理解が追い付かず困惑していたクラスメイト達も、今の会話で理解が追いついたようだ。
今までクラスの頂点に立っていた俺を憐みの眼差しで見るクラスメイト達、だがこの時の俺はまだ真剣に考えていなかった。無能になるということがどういう意味か考えず、大した事ないと考えていたからだ。だが、後から思えば、この瞬間に俺は全てを失ったのだろう。そのことを理解するのはもう少し後の事になる。
転移初日は、王女の父であるひげが生えたいかにもな国王との謁見と貴族とのパーティーで幕を下ろした。
そして、翌日から本格的に勇者としての訓練が始まった。
午前中は座学、午後は実技のプログラムでこの世界の知識と戦闘技術を学んだ。皆、思う所があるのかもしれないが学校の授業と同じく座学は何も問題なく行われた。問題があったのは実技である。いやそもそも問題があったのは俺だけだ。
「スゲー、本当に炎が操れる!」
「俺は重力だ。アニメのキャラになったみたいだ」
「見て、私の姿見えないでしょう?」
王宮内の練習場で、皆、自分のアルカナ能力を発動させ、突然手に入れた力に酔いしれていた。その光景を眺めていると、いつも俺とつるんでいる取り巻きの一人橘が声を掛けてきた。
「スゲーぞ、高木。俺のアルカナ能力は〈皇帝〉なんだけど、このようにバリアが張れるんだぜ。かっこいいだろう?お前はどうなんだ?」
俺が無能の存在になったのを忘れたのだろう。橘はいつものように無邪気な笑顔で尋ねてきた。どうすればいいか悩んでいると王国騎士団長バルトライルが遮るように橘に声を掛けてきた。
「忘れたのか橘殿、高木殿の〈愚者〉の事を」
騎士団長の言うように、俺の能力は〈愚者〉、能力者を無能の存在にする力だ。つまり火を出すことも姿を隠すこともできない。クラスの連中のような超能力は一切行えないのだ。さらに魔力量でさえ俺はクラスの連中よりも遥かに低く、この世界の一般人レベルだそうだ。
「ああ、ごめん。高木、悪気はなかったんだ。許してくれ」
橘は謝罪すると、他の連中の元へ向かった。俺はまた誰かに声を掛けられないように、こっそりと練習場の隅に移動し、自分の置かれた現状を把握した。
俺は元々、勉強もスポーツも万能で、超人揃いと言われている三年三組の中でも二番目に位置していた。朝倉楓というぶっちぎりのトップがいるが、あれは例外だ。俺の才能はあくまで県レベルの話だ。日本屈指の天才と比べても仕方ない。
だが、朝倉は何故か誰かとつるんだりしなかった。よって俺は親父の権力をちらつかせてこのクラスの覇者として君臨することができた。
しかし、この世界に来て無能の烙印を押され全てを失った。親のコネもスポーツや勉強などの自身の才能もアルカナ能力に比べたらゴミ同然だ。
俺は練習場で楽しく自分の力を見せびらかすクラスメイト達を見て、ふと津田のことを思い出した。クラス内のいじめが激しかった時、津田は輪の中に入れず、一人隅から俺達を眺めていた。
そう言えば、一人省かれた津田はいつもどうしていたんだっけ?と思い出そうとするが、その答えはすぐに自分自身が身を持って知ることとなった。
「おや~、いつもクラスの中心にいる高木君がこんな隅っこで何してるのかな~」
ニヤニヤと笑いながら、俺のとこに来たのは、クラス内で独自の勢力を保っていた佐伯達であった。仲間達とずっと話していればいいのにわざわざ俺のとこに来るなんて暇な奴らだと最初は思ったが、すぐに俺が津田をいじめていた時と同じことを今度は俺に対してやるつもりかと思い、身構えてしまう。
「そんなに身構えなくてもいいよ。高木君、君はクラスのリーダー何だから後ろでずっしりと構えていればいいんだよ」
相変わらず、笑顔を絶やさない佐伯の言葉に取り巻きの一人西村が続いた。
「でも、リーダーなんだから。みんなよりも優れてないといけないよね!」
それは、時折爆発音さえ聞こえてきた練習場の騒音をかき消すほどの大声であった。練習場にいた全ての人が手を止めこちらを見据える。
「ほら、みんな、俺達のリーダーである高木君の能力が見たいだってさ、ほら早くリーダーの恐ろしくも偉大な力を見せてよ」
笑いながら俺を取り囲む佐伯と寺尾と西村の三人。そしてそれを見守る人々。佐伯達は俺が何もできないことを知って茶化しにきたのだ。
〈愚者〉の能力が俺じゃない奴に宿っていたら、きっと俺は佐伯達と同じように橘達を連れ、そいつを茶化していただろう。それが分かっているだけに今の状況を複雑な気持ちになった。
さて、この場をどう切り抜けるかと悩んでいると、場を納めようとリリア王女が声を上げた。
「佐伯殿、それ以上の狼藉は私が許しません。お引きになってください」
王女に補足する形で騎士団長も続く。
「この中の誰かが〈愚者〉を引く定めだった。その不幸を高木殿が引いてくれたんだ。貴公らは高木殿に感謝こそすれ、蔑むというのは勇者としても器が小さいと思われかねんぞ」
正論だろうと察しのだろう。佐伯達は俺から離れ、クラスの連中も再び能力の見せ合いを始めた。この場は丸く収まった。だが、この時の出来事が俺とクラスメイト達との間に距離を生み出してしまったことを俺はすぐに知ることになる。
翌日から、すぐに変化があった。まず挨拶がなくなった。元の世界ではいつも朝登校すると男女問わず皆挨拶をしてくれるが、それがなくなった。次に一緒のテーブルで食事をしてくれる奴が消えた。三日後にはとうとう話しかけてくる奴も消えた。小学校からの付き合いである橘でさえ俺を避ける始末だ。
代わりに俺に絡む奴らが現れた。佐伯達だ。
「この前、練習場で器が小さく見られるぞと騎士団長に脅されたはずだろう?」
今日も懲りずに夕食後に食堂で、絡んでくる佐伯達に問いかけた。
「いやいや、何を言っているんだ高木。これは親睦を深めるためにやっているんだ」
「そうだ、最近友達が少なくなってしまった高木君のためにお友達になってやろうという俺達の親切心さ」
「まあ、とりあえず、パシリから始めようか?パシリを積み重ねて親睦を深めたら友達と認めてやろう」
「西村そのアイディア最高。あの高木が俺達のパシリ、はははっはははははは!!」
俺はこいつらには付き合いきれんと、無視して自室に戻ろうとする。だが、俺の体を抑えて壁にぶつけた佐伯が言う。傍から見ると壁ドンされてるみたいだ。
「おいおい、高木さんよ。これは今までお前が哀れな津田君にやっていたことと同じことだぜ」
「そうだ、そうだ。自分がいじめられる覚悟もない癖に、他人をいじめるな」
全く持って正論だ。いじめられる側になって初めて俺は津田には申し訳ないことをしたと思うようになった。だが、その論理で言うとお前達にはいじめられる覚悟はあるのか?
俺の問いに「もちろんあるとも」と笑って答える三人。その顔を見れば覚悟がないことがすぐに伺えた。
もうこいつらとは話しはしたくないと佐伯の手を振りほどき、俺は王宮内にある勇者一人一人与えられた自室に向かう。
背後からは、俺の事を笑う佐伯達の笑い声が響いた。
この世界に来て一週間が経った。ついに俺を避けていた奴らまで俺の敵になった。一刻も早く魔王討伐を目指す朝倉達は眼中になしだが、他の連中は俺を虐げる事に快感を覚えたようだ。
「ちょっと、あんた取柄がないんだから、今日の買い物に付き合いなさいよ」
「これ片づけとけ、無能!」
「近づくな、無能が移るだろう!」
「能力の練習をしたいからサンドバック代わりなってくれや」
何不自由のない生活が送れても、慣れない環境にいればストレスが溜まるだろう。佐伯達は皆のその部分を上手く付き、俺をいじめ、ストレスを発散させるように誘導したのだ。
これらのいじめは王国側の人間に分からないように行われた。俺はすぐに騎士団長に通告したが、残念ながら対策が行われることはなかった。
申し訳なさそうに言う団長曰く、国王を始めとする上層部は、勇者の精神的安定のためにも、誰か一人を生贄にし、ストレス発散に使用すると決定したそうだ。なんだか、佐伯達の意図を感じるが、調べようがない。
その後の一週間は俺にとって人生最悪の一週間となった。もう外にいられないと津田のように自室に籠っていても、笑いながらクラスの連中は出て来いと扉を叩き続けるのであった。
俺の精神はすっかり参ってしまった。安息の地がどこにもない。いっそ津田のように王都を出ようかと本気で考え始めた時、俺は自分の運命を変えることになる彼女と出会った。いや出会ったというのは間違いだ。そいつは今まで全く接点がなかった二条白雪というクラスの女子であったからだ。




