エピローグ 過去そして未来
今から千年前、数多の世界を管理する天界に対し一人の天使が反逆した。その名はルシファー、女神の右腕とも言われたその天使は数多の天使を従え戦うも敗北。罰としてルシファーは体と魂を分離させられ、それぞれ異なる世界に飛ばされる。また反逆に加担した天使達も体を失い、肉体が不要な荒廃した大地のみが存在する魔界へと堕とされる。
五百年後、主を失った天使達は悪魔へと姿を変え、肉体と支配そして天界への復讐を胸に秘め、天界と最も結び付きが強い世界ガイアへと進出を果たす。魔王と呼ばれる悪魔達の中で特に力の強い十体を先頭に破竹の勢いで勢力を拡大する悪魔を止めるため、女神の力を携えて二十一人の勇者が異世界より召喚され魔王と激闘を繰り広げた。
数多の犠牲の果てにすべての魔王は討たれた。だが、その魂までは砕けなかった。精神的にはかなりの傷を負うも死ではなかった。よって魔王達は復讐を胸に魔界へ退くことになる。
そして再び、五百年の時が流れた現代。力を蓄えた魔王達はガイアにいる魔法使いを唆し、見事ガイアへの帰還を遂げる。
それから十年後、魔王の敵、津田健也達、三年生三組のクラスメイト達が女神の力を携え勇者としてガイアへと降り立つ。こうして聖と魔が覇権を賭けて争う三度目の聖戦の幕が切って落とされた。
先代の勇者とは思想も価値観も異なる者達であるが、先代と同じく今回も彼ら、勇者が魔王を撃退してくれるとガイアに住む全ての人々は期待していた。だが、
ローレンス王国王都トランシルバ、十万人が住むこの都市の地下には上下水道の役割を持つ地下水路が幾重にも張り巡られている。そのため、地下水路の整備を行うためかなりの数の無人の地下部屋が点在している。そのうちの一室に二人の人影があった。
「うう、ここはどこですか?よく分かりませんが、何者かに召喚されたような感覚でしたが。む、何者ですか?」
この地下室から遥か遠くから強制転移させた女性は、僅かな蝋燭の灯りだけが照らす室内を見渡す。突然暗がりに放り込まれて目が良く見えないが目の前に自分を召喚させたであろう人物がいたのは確認できた。
「あはっ、どうやら成功のようね。私があなたを召喚したのよ。初めまして第五魔王、残酷のアスモデウス。ここはローレンス王国の王都の地下だよ」
魔王アスモデウスは自分を召喚した者を知り二つの事で驚いた。一つは自分は魔界ではなく、ガイアにいたのにも関わらず召喚された事。もう一つは召喚者が魔法使いではなく、魔王の敵、勇者であった事だ。
「魔界にいる我々魔王をガイアに召喚することができる魔法はありますが、すでにガイアにいる魔王を召喚するというのは聞いたことがありません。それにあなたは見たところ勇者のようですが?」
アスモデウスの問いに、召喚者である少女が答える。
「どうやら驚いているようね。それにしてもこの距離でバレないなんて偽装は完璧ね。でも色々話す前に確認させて。ひれ伏せ!」
アスモデウスは魔王を前にしても物怖じ一つしない少女に感心したが、突然自分に命令を下したの聞き、なんて身の程知らずの少女だと考えを改めた。例え召喚魔法で召喚しても下位の悪魔ならともかく、魔王クラスに命令するのは不可能であったからだ。
アスモデウスは少女の命令を鼻で笑った。いやそうしたはずであった。
「えっ!?」
心は抵抗しているのに、体は王に忠誠を誓うがごとく片足を床に着き、少女にひれ伏していた。
「!?馬鹿な、なんでこの私に命令できる?」
「あはあっはははははは!!!」
地に伏す魔王の姿を見て、薄暗い室内を少女の甲高い声が包んだ。しばらくすると笑うの止め、魔王ですら戦慄するほどの笑みを浮かべ少女は口を開く。
「私の名前は黒川華凛、〈悪魔〉のアルカナ能力者よ!」
「〈悪魔〉ですって、ですがその能力は!」
「そう! 前回の〈悪魔〉の勇者はろくに活躍できないまま退場したそうね」
「そうよ!〈悪魔〉の能力は人の魂を生贄に魔界から悪魔を召喚するというもの。ただし召喚できる悪魔は最下級のものに限られるはずでは?」
アスモデウスの主張に当たりと答える黒川、そしてそのまま話を続ける。
「どんな能力も使い方次第では化けるのよ。私はこの〈悪魔〉の力を限界まで理解し高めたわ。その結果すでにガイアにいる魔王ですらも召喚し、その支配下に置くことに成功したわ!」
あまりの出来事に「そんな馬鹿な!」としか呟くことしかできないアスモデウスを尻目に黒川は上機嫌に今での苦労話を語った。
「…で、奴隷商人を勢力下に置き、悪魔の召喚に必要な生贄を集めたわけよ」
アスモデウスの両側には魔王を召喚する過程で召喚された下級悪魔達が整列をして立ち並んでいた。この部屋だけでも百体近い悪魔がいるが、黒川曰く、この十倍近い悪魔が人知れず地下水路を根城に活動しているそうだ。
「それにしても王国の連中もバカだよね。千人近い奴隷が消えても、何一つ気にも留めないんだから。いくら身分の低い奴隷でも多少は気配りが大事なはず」
これで、一通り話しは済んだとして、黒川はアスモデウスに命令を下す。
「予定では後一、二週間で王国に張られている結界が破れるわ。そうしたらあなた達の出番。一気に王都を占領して勇者達を皆殺しにするのよ。それまではバレないようにこの地下水路で待機ね!」
もう話すことはないと黒川は下級悪魔に命じてアスモデウスを別室に案内させた。その部屋でアスモデウスが見たのは、自分と同じように黒川に強制召喚させられた他の魔王の姿であった。
これは王都トランシルバ陥落の八日前の事である。
勇者残り、十六名 魔王残り、九名
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三章完結です。
次回から四章スタートになります。




