僕の力
大広間から逃げ出し、城から出て、王都を囲む城壁を突破した僕は行く当てもなく、王都から離れた場所にある森の中にいた。
「もう、なんでだよ。自分の部屋にいたのに、なんであいつらと一緒に異世界転移するんだよ!」
僕は絶望にうちひしがれながら、森の中を彷徨ったのである。
「なんだよ、〈塔〉って建築してどうやって魔王に勝てって言うんだよ!」
僕はやり場のない怒りをぶつけた。その時、聴覚を無視して僕の中に何者かが、直接話しかけてきた。
(はい、マスターお呼びでしょうか?)
「えっ、誰?」
僕は周囲を警戒するが、誰も見当たらない」
(ここですよ、ここ、ここ、私はあなたの頭の中にいますよ)
(頭の中だと)
(そうです、私はマスターが持つ〈塔〉のナビゲーター、気軽にナビ子さんと呼んでください)
どうやら、僕の中に直接語り掛けてくるのは、前回の勇者が妖精と言ったものの正体か、
(それで、ナビゲータなら、僕の力の詳しい説明をしてよ)
(分かりました。ではまず、塔作成と唱えてください。
(?、塔作成)
すると、目の前に、横幅、高さともに十メートルほどの石のレンガでできた建造物が現れる。
(なんか、ホールケーキみたいだな)
(そうです。この力は、この上にどんどん同じ大きさの建物を積み重ねていくことで、拡大していくダンジョン作成スキルなのです)
(ダンジョン作成スキルだと、それって普通魔王が持つものなんじゃないのか)
(ええ、三日くらいでしょうか。前回のマスターも、そう言って、塔から出て戦い速攻で死にました。)
どうやら、前回のマスターは使い方を間違ったため瞬殺されたと見るべきだろう。しかしこれはいい、引きこもりには最高のスキルではないか。僕は建物に唯一ある木の扉を開ける。
明らかに内部は、建物を外から見た時よりも広かった。平均的な一軒屋くらいしかなかったはずなのに、内部の広さは陸上競技場と同じくらいの広さだろうか。高さも三、四十メートル近くある。床も壁も天井もすべてコンクリートのような物でできており、固くて灰色であった。また、天井の一部が光っておりそれが照明の代わりになっている。
(では、マスター、ダンジョン内部の資料を脳内にインプットします)
ナビ子さんがそう言うと頭の中に様々な情報が流れ込んでくる。
(この残ポイント100000ってのはなんだ?)
(ポイントを消費することで、階層の追加、フロアの内装変更、オブジェクトやトラップの設置、モンスターの召喚が行えます。ポイントはダンジョン内部で侵入者が死亡するとその者の強さに応じて増加します)
なるほど、ゲームで使うダンジョンポイントみたいなもんか、階層の追加が1000ポイント思ったよりも格安だな。
(一層目のみ、ポイント消費なしでダンジョンを作れるので、何か変更したみたらいかがでしょうか?)
(そうだな、では草原にしてみよう)
頭の中で念じると、風景が大きく変化する。今まで殺風景だった空間が、突然、緑豊かな草原に変わる。
「すごい、天井が青空になって壁もない、どこまでも続いているようだ」
思わず、声を出してしまった。しかしそれほどこの光景は美しい。
(部屋の広さは同じなので、ある程度歩くと見えない壁に阻まれますので注意してください)
ナビ子さんが注意をしてくる。
(で、どうしますか?このままこの場所に塔を建設しますか?ちなみに、一階層のみ作る仮建設はいくらでもやり直せますが、二階層目以降を建設するとやり直しできなくなります)
ナビ子さんが尋ねてくる。この場所で建てるのは危険だな。まだ王都からそう距離が離れていない、あいつらに見つかったら、きっと喜んで攻略してくるだろう。僕が引きこもるためには、このダンジョンには何者も寄せ付けない鉄壁の防御力が必要だなと思う。
ここでは、だめだ。もっと王都から離れた場所に建てなくては、僕はそう思い王都から離れるために、移動を開始した。