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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
第二章 魔王襲来編
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魔王の進撃

「ようやく戻って来たか!」


 ガブリエルの協力が得られず、意気消沈でログハウスに戻った僕に、別れる前に簡単に自己紹介をして名前を知った赤毛の少女メイル・セレンが遅いだろうとばかりに吠えてきた。


「それで、九階層の切り札とやらは使えるの?」


 メイルの問いを受け部屋中の視線が僕に集まる。どう言うか悩んだが、やはり真実を伝えるべきだろう。


「だめだった、切り札は使えない。ここにいる僕らと四階層から八階層の戦力のみで対抗するしかないだろう」

「それなのですが」


 リサという女魔法使いが残念そうに告げる。


「もう四階層は突破されて今魔王達は五階層に入った所です」

「何?!」


 早い!まだ、三階層で魔王を脱してから二十分くらいしか経っていないぞ。しかも四階層には金卵の女帝蜂がいたはずだ。


「女帝蜂はどうした?」

「見たことないユニークモンスターで素早い動き翻弄しましたが、部下のオーガーロード達に囲まれて、ハンマーの一撃で四散しました」


 これは、ヤバいぞ。残りの金卵はポイズンスライムとサクラだけだ。戦力を終結する前に各個撃破されてしまう。


「!?……それで、現在の状況は?」


 僕は恐る恐るモニターを確認した。五階層は砂漠エリアで、サソリやサボテン等の砂漠系のモンスターを配置していたが、どうやらオーガロードを止める力はないようで、まるで作業のように駆逐されていた。


「次々やられていますが階層ボスは誰なんですか?」


 山賊の一人であるガリに聞かれたが、実は覚えていない。確か砂漠系モンスター中から適当に設定したはずだ。


「今はそんなこと気にしている場合ではないぞ!」


 僕は逃げるように言うと、一人でその場でまだ無事な六階層に転移した。その階層に行かねばモンスターへの指示ができないからだ。僕は六、七階にいる階層モンスターを除くすべてのモンスターを八階に集結するように指示を出して最上階に戻る。


「どこへ消えたの?」


 白い目で見つめるメイル達にモンスターに八階層に集結するように指示を出したことを告げた。


「これで八階層に約二百体近いモンスターが集結したはずだ。しかも当たり銀が結構多いはずだから、一階層のゴブリン達よりも強いはずだ!」


 それでも、かなりの痛手だ。三階層分の戦力しか集められないのだから。


「新たに戦力を増やせられないのですか?」


 できることならそうしたいだが、こういう時に限って表のガチャの精は沈黙を守っている。


「無理だ! 侵入者がいる状態、戦闘中というが、この状態ではモンスターを増やすことができるガチャは使用できない」


 ガチャだけではない、戦闘中はポイントを使うあらゆる事が使用できないのだ。


 そして、完全に手詰まり状態であった僕らに、先程からモニターに釘付けであったエドガーが凶報を知らせる。


「よく分からんが、扉が現れたぞ、五階層が落ちたということではないか?」


 凶報を聞き、全員が慌ててモニターの前に集まる。結局誰が階層ボスか分からなかったが、画面には階層ボスを倒した証として、魔王達の前に二つの扉が出現していた。九階層が機能しない以上、これで最上階までの残りの階層は六階層から八階層のみ。そして残念なことに、短時間で二階層も突破した敵の撃破数はゼロだ。


「残存する敵戦力は魔王一人にユニークモンスターであるオーガロードが四体の計五体。こちらはユニークモンスター二体に雑魚二百体に我々六人か、かなり厳しいな」


 圧倒的な魔王の進撃を見て部屋中に絶望感が漂う。誰も声を出せない風囲気の中、その不安を拭うように今まで意気消沈していた山賊の頭であるバズが声を上げる。


「おい、ダンジョンマスターとやら、切り札が使えない状態でどうやって逆転するんだ?」

「先生もういいのですか?」


 バズを気遣ってかメイルが心配そうな顔をする。


「ああ、良くはない、部下達を殺し、力を奪った奴が目の前にいる。当然、仇を討ちたくて、手がうずうずしているが、ベルンを殺したあの魔王から逃れるには悔しいが今はこいつの力が必要だ。仮に今こいつを殺したところで、俺達もすぐにあの魔王に殺されるだろう。それだけはさせない、もうこれ以上俺の生徒を殺させはしない。だから取引だ。ダンジョンマスターの勇者、お前さんのダンジョンに勝手に侵入したことは謝るから。こいつらだけは助けて欲しい。頼む!」


 バズは自分の部下いや教え子を殺した僕に目に見える怒りを抑えながらも頭を下げ、残りの部下達の助命をした。その姿は山賊は悪だから殺しても問題ないという僕の考えを改めざるに十分であった。


 メイル達は師であるバズが自らの怒りを堪えて、自分達のために頭を下げる光景を見て、感極まったのか皆、目から涙を流している。


「羨ましい」


 僕は目の前で繰り広げる先生と生徒達の関係を見て本心を思わず口に出してしまった。僕の担任であった藤原先生は若い年齢を理由に僕がいじめられていたのを黙認していた。いじめの原因が先生にあるとは言わないが、教え子のためになら仇にも頭を下げることができるこの男が僕の担任であったのならば、少なくとも僕があのクラスでいじめられることはなかっただろう。


 半年近くいじめられていた影響だろうか。正直言って今も人と接するのは怖い。僕には自分以外のすべてが僕に害をなす敵に見えているからだ。クラスの連中もそうだが、それ以上にこの世界で新たに僕の敵は作りたくなかった。だからこの世界に来てもこの塔に引きこもって、必要以上に他人と接しないつもりでいた。


 だが、バズを見てその考えに僅かだが、揺らぐ。


 勿論バズは今も僕に敵意を持っているだろう。そしてその男が生き残った教え子のために今、僕にに頭を下げて頼みこんでいる。なんと器が大きいことだろう。それに比べ、人と接したくないからと安全地帯に逃げ込んだ僕はどうだ。本当にこれでいいのか?


「分かりました。皆さんの安全のために僕も全力を尽くします。だから顔を上げてください。理由はどうあれあなたの教え子の命を奪った僕にあなたが頭を下げる必要はありません」


 ならせめて、バズの生徒から奪った力で魔王アドラメレクから彼の教え子達くらいは救ってあげよう。


「バズさん僕には力がある、でも戦闘経験がまるでない。しかしあなたには強力な力はないが長年培ってきた戦闘経験がある。だからあの魔王を退けるための策を教えてください」


 一方的な上下関係では対等な関係だ。僕の思惑を察したバズさんは短く「ああ」と答えた。僕は最後にバズさんに自らの名前を教えた。


「僕の名前は津田健也、あなたは僕を決して許さないでしょう。だからせめて教え子達の仇の名前くらいは憶えていてください」


 握手はない。だが、これでいい、僕らの関係は対等ではあるが、友好関係ではないのだから。

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