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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
第二章 魔王襲来編
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散りゆく命

 パン製造機(810ポイント)というオブジェクトがある。このオブジェクトに麦を突っ込むと、五分ほどでパンが出来上がる。しかし味は微妙だ、なんせジャムなどの味付けがないのだから、味付けなしのパンを食べるしかない。


 本当は地形設定で果樹園などを建てれば、イチゴジャムなどが作ることができたが、残念ながら、必要最低限の物をポイントで生み出した後、残りのポイントはすべてガチャに使ってしまったので、叶わぬ夢となった。今思い出しても、最後にクリスタル卵を出して泣き叫ぶガチャの精を見ていなかったら、怒りと絶望感で引きこもってしまっただろう。ああ、すでに引きこもりか。


 さて、僕は、その味のないパンを食べながら初めての侵入者である山賊達の戦いを映画のようにモニターで視聴していた。


 一階層目のゴブリンの戦いは正直つまらなかった。明らかに作業ゲーなのに山賊達が何故、三度も撤退したのか理解に苦しむ。


 二階層目のスケルトンの戦いも同じだ。ゴミのように掃除されるスケルトン達を見て銀卵のモンスターの使えなさを改めて思い知る。ガチャの精が銀卵では当たりといっていたリッチーも使えない。ファイアーボールとかいう火の玉を撃つしか能がないので、接近戦に持っていかれあっという間に討たれてしまった。


 こうなれば、五体しかいない金卵モンスターの出番だ。金卵のスカルドラゴンは確かに強い。巨大な体を持ち、攻撃もスピードも今までのモンスターの比ではないのは素人の僕でもすぐに分かる。だが、何故かスカルドラゴンの攻撃はほとんど当たらない。侵入者の数が多かったとかの問題ではない。昔プレイしていた狩りゲーと同じだ。モンスターの攻撃パターンを頭に叩きこんで回避と攻撃をしているような戦い方だった。


 もしかして、敵には何かしらの予知能力があるのか?スカルドラゴン戦の後、山賊達が休憩に入ったのを確認した僕は、モンスター達が復活する一時間の間に九階層にいるクリスタル卵から出た奴の元へ向かった。クリスタル卵から出た奴はこういう事に詳しそうだったので、解説役にしようかと思ったが、侵入者がいる間はボスモンスターは階層を移動できないというルールがあるため、こちらから出向くしかなかったのだ。


 それで、分かったことだが、どうやら外の世界にも少数だが、スカルドラゴンがいるということを知った。そのため、対策されていたのではないかと推察した。


 だとしたら、これはまずい、折角出た金はほとんど役に立たない可能性がある。一時間が経ち、モニターの前に戻った僕だが、何故か山賊達は何やら真剣に話し合っていたり、泣いていた。そういった声もこの監視モニターは拾うのだが、次のビッグ・タートルもスカルドラゴンと同じ目に合うのではないかと心配していた僕は山賊達の会話など気に留めなかった。


「いっよーっし!!!よくやったー!!!!」


 不意打ちでビッグ・タートルが山賊を一人仕留めた時、僕は一人盛り上がっていた。一層、二層で百五十体近いモンスターが配置されていたが、侵入者の撃破数はゼロだったからだ。さらに、山賊達の態勢が整う前に、三人も、水ブレスで葬った時など感動で涙が出てきた。いくら死んでも復活できるとはいえ、一層、二層の奴らは不甲斐なさすぎだ。ビッグ・タートルを見習って欲しい。


 初撃破に沸く僕の頭の中に、死んだ山賊の情報が流れてくる。


(ふむ、なるほど、装備、能力と技能、魔力の一部の三種類をポイントに還元するか、僕の力にするのか選べるのか)


 最初に死んだ山賊をポイントに換算すると装備(300ポイント)、能力と技能(500ポイント)、魔力(440ポイント)になった。試しに装備を自分のものにした、すると目の前に死んだ山賊が身に纏っていた装備一式が現れる。これは便利だ。


 次に能力と技能を自分のものにした。頭の中に山賊が使用できていただろうと思われる魔法がいくつか浮かぶ。


「ファイアーボール!!」


 山賊がやっていたのと同じように、窓の外に手をかざして魔法を唱えると、手の平から火の玉が放たれた。やばいなこれ、戦わなくても、強くなれるじゃないか。ようはこのダンジョン内で死ねばその者の力は僕の物になるわけだ。僕はこの〈塔〉の能力の凄さを改めて知る。


 その後、再びソファーに腰かけて、山賊達の戦いを鑑賞する。どうやら動きを見る限り、どうやら山賊達にビッグ・タートルの対策はないように感じられた。だが、一時間足らずで、三分の一近い山賊を葬ったビッグ・タートルの快進撃はそこまでだった。ビッグ・タートルは頭から水ブレスを出すしか能がない、かなりの質量・威力があるらしく、防御系魔法ごと術者を葬るほどの威力だが、体の正面にしか撃てない。首を回せばいいだろうと思ったが、どうやらその状態ではブレスが撃てないみたいだ。


 そのことは山賊達も気付いたようで、ビッグ・タートルの正面に絶対に出なかった。その結果、ビッグ・タートルは全身を旋回して固池の中央からブレス撃つ固定大砲と化した。しかも旋回速度が遅く、普通の人間が走れば余裕で回避できるほどだった。


 山賊達は勝利を確信しただろう。だが、ビッグ・タートルの恐ろしさはここからだった。まずビッグ・タートルは池の中央から動かなかったため、剣など近接系の武器を持つ者は接近すらできなかったこと(ちなみに水深は深いところで十メートル近くある)、次に甲羅が固くて、魔法等の遠距離系もビッグ・タートルにダメ―シを与えられない。そして何より恐ろしいのは、ビッグ・タートルの水ブレス攻撃が延々と続いたことだ。


 ビッグ・タートルは疲れを知らないようだったが、山賊達から見れば恐怖だろう。三階層は狭く作っているため、どこにいても水ブレスの射程内だ。なので山賊側から見れば、安全地帯なし、防御不可、永続的に攻撃してくるのに対し、こちらの近接職はお荷物で、遠距離魔法は効果なし。クソゲーもいいところだ。


 残った山賊達は延々と池の周りを周回しビッグ・タートルの攻撃を躱し続ける。対するビッグ・タートルは一人一人狙いを絞り、狙いが疲れて動けなくなるまで執拗に水ブレスを放つ。


 この戦いには魔法も必要ない。僕はこの戦いに飽き、寝ていた。そして、目が覚めた頃には残りの山賊の数は五人になっていた。時計(50ポイント)を見る限りどうやら、三階層に侵入して丸一日経ったようだ。


 だが、僕はこの時に致命的なミスを犯した。寝ていた間に新たに侵入してきた者達の存在に気付くことができなかったという重大なミスを。

 





「くっそー!!もうだめだ!」

「諦めるな走れ!マーク!!」


 バズは力尽きて一歩も動けなかった、部下の一人に向かって叫ぶ。しかし、もうその場を動く力も残っていなかったマークは、バズの願いもむなしく水ブレスの餌食になる。その後、醜い死体となってしまったマークの体は他の山賊やモンスターと同じように光の粒になって消える。最初はモンスターと同じように復活するのではないかと期待したが、いくら時間が経っても消えた者達は戻ってこなかった。


「畜生、俺は仲間一人救えないのか?」


 バズは地面に膝をつき涙を流しながら、地面に拳をぶつけ己の無力を呪う。


 もう、残りは自分を入れて四人しかいない、みんなあの怪物にやられた。あの怪物を倒さない限り、扉が現れない以上奴を倒すしか道はないが、二十八人がかりでもあの怪物にはほとんどダメージが与えられなかった。


 生き残っている他の奴らも、もう逃げる力はほとんど残っていないだろう。


 そして、休むことなく攻撃を繰り返すあの怪物の姿を見て、ついにバズはすべてを諦めた。無念であった。もう一度再起を図ろうと決意した矢先に教え子一人守れずに、死んでいく自分が。冒険者でありながら、目の前の怪物にほとんどダメージを与えられないどころか、怪物の情報を他の人間に伝えることすらできなかったことに、


「お頭、逃げてください!!」


 ついにバズに狙いを定めて放たれる水ブレス。もうこれで自分は死ぬだろう。そう覚悟し同時に諦めたバズは最後に、部下であり教え子達の顔を見る。逃げろ、躱してと叫ぶ教え子達を見てバズは最後に悟った。自分には信頼できる仲間がいたことに、バズはありがとうと呟くと、武器を捨て目を閉じ、正面から迫りくる水ブレスを受け入れた。








 だが、バズに水ブレスが当たる直前に何者かが、バズの首根っこを掴むとそのまま一緒に水ブレスの脅威から離脱する。


 辛くも、死から逃れたバズだが、仲間は全員もう動けないはずだったので、一体誰が自分を救ったのだと疑問を持ち、その者の顔を見た。助けた人物を知った時、バズの目から一筋の涙がこぼれた。


「久しぶりですね。助けにきましたよ、先生!」


 バズを助けた長い緋色の髪を揺らす少女の名前はメイル・セレン、かつてのバズの教え子の一人であった。


ようやく山賊のターンは終わりです。

次回から一気に話が動きます。

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