さらなる絶望
結果から言おう。バズ達はスカルドラゴンに勝利した。しかも死者ゼロという快挙であったが、これはバズの優れた指揮能力とそれについてきた彼の部下達の努力の賜物である。だが同時に満身創痍であった。現在山賊達は傷と体力を回復させるために、スカルドラゴンを倒した後に現れた扉の前に集まっていた。
「お頭、手持ちのポーションを使って全員の魔力は回復させましたが、やはりギドとパーシーはここでリタイアです」
スカルドラゴンとの戦闘で炎ブレスの直撃を受けたギドとパーシーは回復魔法で一命こそ取り留めたが、再び武器を手に戦える状況ではない。
「時間もありません、さっき何体かスケルトンが蘇りました。今は向こうでエドガー達が戦っていますが、討伐時間から考えると、そろそろスカルドラゴンが復活する可能性があります。決断を」
バズはここで一度退くか、次の階層に進むかを悩んでいた。先に進んだ場合、さらなる強敵と戦う可能性があるからだ、しかし、退いた場合、時間的に外でセレンが派遣する調査団と鉢合わせする可能性がある。
「間違いなく手柄を横取りされるな」
「それじゃあ、何のためにここまで来たんですか!」
「俺達はあいつらの斥候ですか?」
部下達も自分達の手柄を横取りされることを恐れ、先に進むことを進言する。また死者なしでスカルドラゴンを倒したことも彼らの自信を増長させる要因にもなっていた。
部下達の命を考えれば、先に進むのは得策ではないが、強敵との戦いで、戦うことの面白さを思い出していたバズはもっと強い相手と戦い、未知の場所を冒険したいと考えていた。
「お、お頭行ってください!」
その時、途切れる途切れの声で全身にやけどの痕が残るギドが口を開く。
「みんな分かってますよ。お頭が先に進みたいことは、だってお頭は冒険者なんです。冒険者は未知の敵と戦い、未知の場所を切り開くと、そう教えてくれたのは教官あなたではないですか」
ここにいる者のほとんどがバズがセレンを出た時についていた教え子だ。山賊に身をやつしてしまったが、それでもバズという人間を信じ、共に戦う道を選んだ者達だ。
「山賊生活も楽しかったですが、やっぱり冒険者というのは楽しいですね。昔、俺が憧れたのはこれだったんですね」
「ギド、お前」
ギドだけではない、他の山賊達も思いは同じのようだ。
(そうか、こいつら、俺ともう一度冒険がしたくてついて来たのか、それなのに俺は、いつの間にか生きるために山賊稼業を始めてしまった。なのに誰一人、山賊は嫌だと反対しなかったな。そうか俺はまだこいつらの教官だったんだ)
「よし、てめら、今を持って山賊稼業はお終いだ!」
バズの突然の宣言に山賊達は目を輝かせた。
「そして今から、久しぶり授業だ。それも未知の場所で行う実地授業だ。準備いいか、行くぞお!!」
「「「「「おおおおおおーーーーー!!」」」」」
大歓声を上げる山賊達、その瞬間、お頭と山賊達は、教官と生徒の関係に戻った。
「ギド、ありがとうなお前のおかげで俺は前に進めることができたぜ」
「教官」
「よし、ギド歩けるな?お前は、パーシーと一緒に外に出ろ」
「えっ、しかし」
「しかし、じゃない、よーしお前ら良く聞け、これから先、俺が無理だと判断した者は容赦なく、外へつながる扉に放りこむからな、嫌ならなるべく無傷で勝てよ。だが、サボっている奴は晩飯抜きだ」
薄暗い墓場に男達の笑い声が響く。
「ハッハッハッハー、確かにサボりは、飯抜きだ!」
「この塔をクリアしたら、セレンの冒険者ギルドに戻り、冒険者登録しよう」
「でも、山賊を冒険者にしてくれますかね?」
「街の人達が許してくれるまで、謝り続けよう。何度でも」
自分達は山賊という間違った行為をしてしまったが、間違いは正せるはずだ。誠心誠意謝り、罪を償おう。バズ最悪自分一人で罪を被り部下達の恩赦してもらうことを考えていた。
その後、バズ達は塔から脱出するギドとパーシーを見送ると、自分達が行くべき扉の前に立つ。
「では、扉を開けるぞ!」
扉の先は、墓場とはうって変わって明るい場所であり、一階層の草原と同じで青い空と緑の絨毯がどこまでも続いていた。一階層目と異なる点は中央に大きめの池があった点だろう。下手に近づいて敵を刺激して扉が閉じたら大変なことになるので、先行して入った者達は、何かありそうな池に近づかない。
「俺で最後です」
「よし、みんな警戒しろ、行くぞ!」
最後の一人が扉をくぐる、だが、いつものように扉は消えたが魔物は襲って来ない。
「!?いきなり襲って来ないとは、隠れているのか、それとも何かの作戦か?よし、三つに分かれるぞ、エドガー達は右回りで、アースマ達は左周りに池の周りを周回しろ。残りは俺と一緒に正面を行き、池を調べる」
バズの指示通りに池の周辺の索敵する男達だが、ここには魔物はいないのではないかと、皆が思い始めた時に、それはなんの前触れもなく起きた。池から突如放たれた、巨大な水の塊がもっとも池に近い位置にいたバズ達を襲ったのだ。
「お頭あー!!」
とっさのことで動けなかったバズを生徒の一人が体当たりして、弾き飛ばす。バズの身代わりになった男に水の塊が直撃した。
「ビ、ビーン」
バズは、身代わりになった部下の名前を呟く。水に交じって赤い液体も激しく弾け跳んだ後、そこにいたのは、水びたしになった人の形をした何かの残骸だけであった。
「お頭、その水は恐らく、もの凄い質量を持っています。鉄球が降ってきたと考えてください!」
仲間の死に動じずに冷静に分析したガリが叫ぶ。その時、水しぶきを上げて、池の中央から巨大な生物が姿を現す。
「あれは、亀か?」
「ああ、亀だ、だがデカすぎる。スカルドラゴンの三、四倍はあるぞ」
「明らかに見たことない種だ。スカルドラゴンとは違い、正真正銘のユニークモンスターだ」
ガリの叫んだ一言で全員が絶望する。新種のユニークモンスターということは、生態も戦闘力も対策法も全く分からないからだ。
「次の攻撃が来るぞ!」
巨大な亀の口から、今度は三連続で水の塊が発射され、池の右側にいたアースマ達に襲った。
「パーシー、教官達はどこまで行けたかな?」
塔から出たギド達は体を休めながら、入口の扉の前で待機していた。
「最上階まで進めたに決まっているだろう、どうせ、すぐに俺達みたいなリタイア組が出てくるから、そいつらに聞けばいいだろう!」
だが、ギド達が脱出してから、丸一日が経っても塔から出てくる者はいなかった。