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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
第一章 ダンジョン作成編
1/87

スタート

「よくぞお越しくださいました勇者様方!」

 

 目の前に、中世ヨーロッパの騎士のような恰好の人物が数人と金髪のお姫様らしき人物がいる。僕以外にも驚いたように声を上げた人物がいたため、周りを見渡たす。


 そこには、僕を含め、三年三組のクラスメイト達二十一人全員がいたのである。


「なんだ、ここは?ってお前、津田か、久しぶりにお前の顔を見たぜ!」


 クラスメイトの一人である高木拓斗君が意地悪く僕を見る。そう、僕は高木君が率いるクラスメイト達にいじめを受け、引きこもり状態になってしまったのである。


 僕の名前は津田健也、県内の私立高校に通う三年生だ。僕の通う高校はスポーツが盛んな学校で、学生のほとんどが運動部に所属していたが、僕は二年の終わりに勉強の成績が悪いからと親に無理やり部活を辞めさせられる。


 僕がいじめられるようになったのは、その時期からだろう。クラス替えを経て三年生に進級した僕を待っていたのは、同じ陸上部であった高木君からの嫌がらせであった。彼とは、陸上部時代には、ほとんど話したことがなかった。テレビゲームなどが好きで、オタク気質があった僕と、髪を染め不良気味であった高木君とは馬が合わなかったのだろうと思う。


 そして、高校三年生の最後の大会でクラスメイト達のほとんどが運悪く、予選落ちになってしまったのがいじめが発展した原因だろう。彼らはクラスで唯一の帰宅部になってしまった僕を不満のはけ口にしたのだ。

 

 その結果、初めは高木君の嫌がらせだけだったのが、いつの間にか他のクラスメイト達にも伝染し過激化し、やがてクラス全体が僕をいじめ始める。


 担任の藤原先生は、まだ二十代後半の若い女性の先生であったため、どうしていいか分からずに、いじめを黙認していたのも辛かった。


 繰り返される罵倒と暴力の梅雨が終わり、夏休みに突入する。この年の夏休みは部活もなく、自宅で大学勉強に集中できたので、最高だった。だが、同時に怖かった夏が終わるのが、またあの教室に戻るのが、こうして僕は九月から学校に行かず、家で引きこもるようになった。


 季節は十一月の始め、今日も学校に登校せず家の自室に引きこもっていたはずだ。それなのに、何故か気付いた時には僕はこの場所にいる。僕をいじめるクラスメイト達と同じ場所に。


「本当だ。津田君がいる激レアじゃん!」

「雑魚の津田か、最後に見たのは何年前だ?」

「噂じゃ、このままだと出席日数足りなくて留年らしいな、来年、後輩達と頑張れよ!」

 

僕が最後に学校に登校したのは三か月前だというのに、みんな僕の事を忘れていなかった。もちろん悪い意味で、


「津田君、久しぶりにあなたの顔を見れてよかったわ、でもみんな今はここがどこかを調べるべきだと思うは」


 そう冷静に分析するのは、文武両道、クラス委員長である朝倉楓さんである。彼女は見た目も美人で超人美人のあだ名を持つが、その分、僕みたいな負け組の存在は眼中にない。彼女は僕をからかう者達を諭すとこの場所の代表者と思われるお姫様に尋ねる。


「ここはどこ?そしてあなた達は誰?」


 朝倉さんの問いにお姫様が答える。


「ここは、あなた達のいた世界とは違う異世界です。その中にいくつかある国の一つ、ローレンス王国の王宮内です。我が国を脅かす魔王を倒すために我々があなた達を異世界から召喚したのです。申し遅れました私はローレンス王国、第一王女リリアと申します」

「よろしく、私の名前は朝倉楓よ、まあ自己紹介は後でやるにしても、つまり、あれね、この現象は漫画によくある異世界転移ね」


 僕もこの状況は漫画でよくある異世界転移であると瞬時に察したが、オタク要素皆無と思われる真面目な委員長が異世界転移を知っていることに少し驚く。


「冗談じゃないわよ、早く元の世界に戻して、三か月後には大学受験の試験日なのよ、今までの努力をこんなことで無駄にできないわ」


 突然、冷静なイメージであった朝倉さんは怒髪天を衝くような怒りをあらわにする。


「まぁまぁ、落ち着きないよ委員長さん、せっかくの異世界だ楽しもうぜ!」


 委員長とは対照的に、高木君は落ち着いている。そして王女に質問した。


「王女様、俺達は元の世界に戻れるのでしょうか?」

「残念ながら、私達の力では戻すことはできません。しかしこの世界にいる魔王達をすべて倒せば女神様の御力で元の世界に戻れるという言い伝えがあります」


 その言葉を聞き、朝倉さんが食いつく。


「つまり、魔王を倒せばいいのね。分かった、速攻で魔王を倒しにいくわ、早く武器か何か寄越しなさい」


 朝倉さんは魔王討伐にやる気を出したようだ。


「皆さまがお使いになる、武器や資金は改めて用意させて頂きます。今は皆さまが持つ能力についてご説明させて頂きます」


 王女が鑑定眼と唱えると僕達の目の前に、文字が現れた。地球では見たことのない文字だが、何故か読むことができた。


「力?」

「私は正義かしら、知らない文字だけど何故か読めるわね」

「俺は死神か」


 宙に現れた文字について理解できない僕達に王女が説明し始める。


「その力の名前はアルカナ能力。言い伝えでは女神様の御力を二十二個に分け、勇者である皆様に分け与えた力のようです。女神様の力の欠片とも言えるアルカナ能力はそれぞれが固有の能力を持っており、この世界の魔法よりも上位の効果を発揮します」


 やっぱり、魔法はあるのか、しかしアルカナ能力とはタロットのアルカナのことか。それにしても僕の能力は〈塔〉か。確か全アルカナな中で最も不運を象徴していたような記憶があるぞ。


「アルカナ能力は異世界から召喚される勇者が女神様から与えられる力です。なのでに過去に皆様と同じくこの世界に召喚させた勇者もアルカナ能力を持っていましたので、皆様の能力については調べがついています。例えば〈力〉の能力者は自身の筋力や魔力を高め、また他の者にその力を分け与えることができます。〈正義〉は自身の一定の範囲内にいる者の力を強制的に同じ力にさせます。〈死神〉の能力は目で見た生物の背後に瞬間移動できます」


 王女が僕達の持つアルカナ能力について説明する。どれも中々のチートな能力だ。


「本当に瞬間移動なんてできるのか?」

 

 〈死神〉の力を引き当てた寺尾君は半信半疑で王女を問う。そこで王女が、「対象を目で捕らえ、心の中で念じれば発動するはずです」と言うので、寺尾君は早速試したようだ。次の瞬間、寺尾君はその場で姿を消して、消えた場所から十メートルほど離れた場所にいた警備の騎士の背後に移動していた。


「おお、すごい本当に瞬間移動したぞ!!」


 寺尾君は自分の力に大はしゃぎしていた。クラスメイト達も寺尾君の力を見て驚いている。


「この世界には現在、十人の悪しき魔王がおり、人間達の暮らしを脅かしています。勇者の皆様どうかお願いです。女神から授かった御力で魔王を討伐しては頂けませんか?」


 王女は頭を下げ、僕達に頼みこんだ。朝倉さんのようにやる気のある人間もいるが、クラスメイトの大半は突然の事態に混乱しているようみたいである。


「それで、津田君の能力は何かな?」


 今後どうするかは置いといて、高木君が意地悪く僕に問いかける。


「と、塔」


 僕は震えながら答えた。


「お姫様、〈塔〉ってどんな能力なんだ?」


 高木君のみならず、部屋にいたクラスメイト達全員が聞き耳を立てた。みんな僕の能力が気になるのだろう。


「確か、建造物を建てる能力だと思います。ですが、過去に〈塔〉を持った能力者は速攻で倒されてしまったため、詳しい事は分かっていません。前回召喚された勇者は五百年前なのですが、その時の勇者は妖精さんが語り掛けてくるとか言う意味の分からないこと言っていたという記録がございます」


 王女の回答にクラス中が嘲笑した。それはそうだ、いじめる対象が自分達よりも強かったら立つ瀬がない。


「だそうだ、残念だったね。津田君、異世界で俺達を見返せなくて、お前はどこでも負け犬なんだよ」


 僕を蹴飛ばして笑う高木君と、それに追随するクラスメイト達、僕はもうこの場所にはいられないと思い逃げ出す。


「はっはっ、逃げるのか、津田。また引きこもるのか?じゃあ今度は俺達がお前を探し出して、更生してやるよ!」


 大広間を出る時に、聞いた最後の言葉はひときわ大きな高木君の笑い声だった。




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[気になる点] クラス全員で21名って少なすぎるような。
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