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第五話「地獄の業火に焼かれて眠れっ!」



「はぁ、はぁ……」


 トレンチコートは見るも無残に切り裂かれ、揃いの帽子はもう切れ端すら残っていない。その体は刀傷が数えきれないほど刻まれている。


「ハハッ死にはしないかと思ったけど、まさかまだ意識を保っているなんてねぇ。乙姫ちゃんの奇跡、かなり身体に負担がかかるみたいだけど。一体、何回使ったんだい?」


 彼女の血まみれの手に握られていたスタンガンには、すでに聖剣の破片が突き刺さっていた。ショートを起こしているのか電光が、チラチラと発生している。使い物にはならないことは火を見るよりも明らかだ。

 だが、彼女はそれでもそのスタンガンを首筋へと当てる。


「やめなよ。最初にも言ったじゃん。そのブクマじゃあ乙姫ちゃんは勝てないって。小説神の力は、その源のブクマの多さで決まるんだからさ」


「多さ……。だけではないさ、純度は私に分があると。思っていた、のだがね」


「乙姫ちゃんは所詮傍観者。僕のメインヒロイン。主人公には勝てないって」


「……どうやら、いや、やはりというべきか。私はキミ達ほど傲慢にはなれなかったようだ。

メアリー・アルタモント、彼女の力をこの程度しか引き出せないとは」


「当然だよ。僕の物語の主人公は、まぎれもなく僕自身なんだから」


「“投影率”は両刃の剱だ。キミのその様子だと、現実に戻れなくなるまでそう時間はかからないぞ」


「現実? ハハッあんなくだらない世界もういらないよ。それに、僕にとってはもうこっちこそが現実なんだ」


「……まぁ、偉そうなことを言ってはみても。私にはその両刃の剱を握ることすら、かなわなかった。全く、自分がいやになってくるよ。

 現実に拘ることもできないくせに、虚構に浸ることすら中途半端とは」


「乙姫ちゃんは悪くないよ、ただただ、僕が強すぎたんだ」


 そういって夜夫は剣先をふらふらと揺らし、自分の優位を見せつけるように聖剣を玄武院へと突きつける。


「最後のチャンスだよ、乙姫ちゃん。僕と一緒に来てよ。一緒に新しい世界を創ろう」


「それは断るといったろう? 軟弱者」


 その言葉に夜夫は目を鋭く細める。


「馬鹿だねぇ、もう一回だけ聞くよ? 僕のなか――」


「キミは頭だけじゃなく、耳まで悪いのかね?」


「……ふ、ふーん。まぁ、女の子は他にもいるし。この力さえあれば、どう、どうとでもな、なるもんね。大体、

僕以外の男と話す女の子なんて、この世界にはいらない……ハハっいらないんだ」


 玄武院の拒絶に明らかな同様を見せる夜夫。

 そして構えた聖剣をゆっくりと大きく振りかぶる、玄武院はその目の前で立ち上がれずにいた。


「いらなんだよおぉぉっ!!」


――キィィンっ!


「やめ、ろ」


 声がでたのは、まさしく奇跡だったろう。


 僕はほとんど反射的に、落ちていた聖剣の一本を夜夫めがけて投げつけていた。速度はなく、軌道も山なり、夜夫が剣を傾けただけで防げてしまうような投擲。


 あらためてもう一本聖剣を拾う。重い。本物の剣ってこんなにも重かったのか。


 恐い、恐いさ、だけど――


「玄武院を、それ以上、傷つけさせはしない」


 足腰を震わせながら、正眼の構えで玄武院の前に出る。残念なことに僕にはラノベ主人公のような剣道の経験などない。あったとしても、この状況で役に立つとは思えないけど。


「流星、やめろ。今のキミじゃあ……」


「やる気なのぉー? 流星、キミは別に僕のこと馬鹿にしてなかったし。特別に、僕の慈悲で、生かしておいて“あげても”いいんだよ?」


 ブクマ数;998


「ことわ――――


「あっそ」


――ドオォォーーンっ!



この舞い散る破片は黒板、か?


 全身を襲うはずの衝撃が、全く知覚できなかった。

 そうか僕は、辛うじて残っていた教卓や机を吹き飛ばして、黒板にひびが入るほど身体を強く打ち付けたんだ。宙に舞う破片や、教卓と机がそれを押してくれる。

 立ち上がるどころか、指の一本たりとも動かせない。僕の生命力がその先から固体から気体に昇華していった。


「ハハハハハハハっ!」


「メテ……オ?」


 なんて顔をしているんだ玄武院。驚愕と絶望なんてお前には一番似合わないことじゃないか。俺は常に余裕を持て余していて、どこかミステリアスなお前のことが


 好きなんだ。


 勇気なんてものは何の意味もない。なけなしのそれを振り絞っても、好きな女の子一人護れない。

 あぁ、嫌だ。



 力が、欲しい。


 

 ブクマ数;999


『放課後の悪魔神憑き(サタンテイマー)


 この物語は主人公である“七星 煉”が実家の寺に置いてあった呪われた腕輪を嵌めてしまうところから始まる。その腕輪には魔族を率いて天魔界最終戦争を引き起こした悪魔神(サタン)が封印されており、意図せず煉はその一部を引き出してしまう。

 人間界をも巻き込む三界大戦を起こすために悪魔神の力を欲する“評議会”。彼らに命を狙われながらも、仮初の学校生活を謳歌する。という内容だ。


 物語の主人公のような特別な力が欲しい。


 最初にそれを望んだのは、ただ単純にあこがれからだった。カッコいいって思っていたんだ。特別な力があって、特別な生き方ができることが。


 でも、今は違う。


 僕には特殊な伏線も、悲痛な過去も、生まれ持った運命もない。どこにでもいるただの高校生。日頃の修練で覚醒するとか、血に眠っていた力が目覚めるとか、強烈なトラウマがきっかけで手に入るなんてことは望めない。だとしても、


 いけないことなのか? そんなただの平凡な人間が


 なんの脈絡も、理由づけもなく、穏やかでありきたりな放課後を護れる力を――――


 この残酷な現実を否定する特別な力を望むことはっ!



 ブクマ数:1000


――ピィコンっ!


 その時、機械的なメールの通知音が教室に響く。そして――



――力が、欲しいか?


 地獄の底から、声が、聞こえた。



―――――――ドクンっ!


 煮えたぎる血液で満たされた全身に響く鼓動。灼けつく。地獄の業火に僕の身体が焦がされていく。


――ならば寄越せ、その生命を、肉体を、精神を


 その聞いただけで精神を真髄まで蝕まれる呪詛ような悪魔の囁き。深魔界から滲み溢れ出るどす黒い瘴気の霧塊が、この肉体と精神を永劫に腐食させていく。


――しぶとい、小僧だ。さっさと我が器と化すがいい!



 なぜ、だろう。僕は


 この怨嗟の声を、

 全身を襲う呪いを、

 チープなほどにありがちな言葉を、展開を


 この情景、シーン、そのものを


 誰よりも深く知っていた。


 いや、当然だ。これは僕の、違う。俺の、


 俺様だけの物語だったんだから


神器顕現(オリジナル)


「なんで立って、いや、そもそも、こっちに来た僕の攻撃を食らって、どうして原型を保っているんだ……?」


 さぁ、この欺瞞の世界を終焉(おわ)らせよう。


「--”禁悪魔神の腕輪(バングル・オブ・デーモンカース)”--!」


 燦然と漆黒の光を放つ、鷲と不死鳥の意匠が刻まれた腕輪。その中央に嵌められているのは悪魔の血の如き紅蓮の宝石は、この世の穢れで混濁している。その宝石から滲んだ瘴気が俺様の全身を覆いつくす。

 シルバーの装飾が随所に散りばめられたダークコート、何重にもダメージ加工のなされたレザーパンツ。闇を纏う、という言葉が相応しいその装いは、紛れもなく魔界の覇者である悪魔神の系譜を、克明に継承している。

 そして腕輪をした右腕はすでに肘の位置まで異形のものへと変貌している。それは奇跡的に適合者(テイマー)となった俺様でも抑えきれない悪魔神の力の発露。俺様の力の源泉にして、文字通りの“諸悪の根源”。


「呪われた右手が疼きやがる。鎮まれ、鎮まれっつってんだろ。悪魔神(サタン)のクソ野郎がっ!」


 火傷をし続けているような苦痛が右手を襲う。だが、この痛みこそが、俺様の望むもの。無力ではない異常の証明。


「流星。その姿、そうか……選ばれて、しまったのか」


「ハハっ! いいじゃん、いいじゃん。流星、僕のパーティーに特別に入れてあげるよ、乙姫ちゃんはあげないけどさぁ!

 流星、さぁキミも



“小説神になろう”!」



 蔑視によって夜夫を睨みつける。愚かな道化だ。この悪魔神を従える俺様の絶大な力をいまだ理解できんとは。


「……灼かれろ」


「は? んなぁっ!!」


 振り払った右手と共に黒色の炎塊が打ち出される。その速度は最上、避けるどころか、視認することすらかなわない。


――力を望むは人間の業、力を与うは“悪魔”の悦楽。司るは――――


「“破滅”の奇跡『この身を焦がすスーサイド永劫の煉獄インフェルノ』」


 それは手始めにこの俺を灼き尽くす、悪魔神の獄炎。だが、その炎にこの身を焼かれるほど、こいつの力を強く、大きく、かつ“望んだ形質”で引き出すことができる。


「のたうち回れ、この焔は“最速”にして“必滅”。貴様が塵と化すまで永劫消えることはない。“絶対”にな」


「うわぁぁっ! ぐああぁぁっ!」


 無様にも転げまわる夜夫、無駄だ。この俺様の煉獄がその程度で終わることなど在り得はしない。


「フンっ! この俺様の焔で貴様を、無間地獄へと堕としてやろう!

 地獄の業火に焼かれて眠れっ!」

 

 田中 流星ver七星 煉

 執筆作品 「放課後の悪魔神憑き」

 神器; 禁悪魔神の腕輪バングル・オブ・デーモンカース

 奇跡; この身を焦がすスーサイド永劫の煉獄インフェルノ


 To be continued



 読み切り版はここまでです。


 連載(予定)では作中で単語だけ出てきた文芸部員が主役として物語が進行していく予定です。

 もちろん、読み切りで登場した流星、玄武院もメインキャラクターとして活躍。夜夫の帰結も描かれます。

 そのあらすじを予告としてここに乗せさせていただきます。



「運営に選ばれた作家はブクマ数に応じて物語を現実にできる」


 そんな噂が新時代小説投稿サイト「小説神になろう」ではささやかれていた。

 

 唯一の作品がブクマ数7、文字数200万字越えという超底辺作家 熊道 辺。

 4年前の8月1日に起きたある事件で両親と最愛の妹を失った彼は、7月が終わると一年時間が巻き戻る学園コメディ「FOREVER7」を執筆していた。

 そして彼が高校3年生になった六月下旬、幼なじみとの帰り道で全身を銃火器で武装した”魔法少女”に襲われる。

 この出来事を境に4年前に止まった彼の時間と世界秩序を崩壊させるシナリオ「全世界転生計画」が動き出す。


 妄想が認識になるとき、想像は創造になる。



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