私の日常 1
「セレーナさーん。これ頼むよ」
「はい。フォレストドッグ6体の討伐ですね。確かに承りました」
「おい、昨日までに狩った魔物の査定頼めるか?」
「はい。すみません、リーザさん!こっちもお願いできますかー!」
「これよろしく。」
「はい。ボーラ商会の馬車の護衛、往復2週間ですね。承りました。最近街道に盗賊が出るそうなので気を付けてくださいね」
「ああ、わかった。サンキュ」
「セレーナさん!あの、俺とお付き合いを前提に結婚してください!!」
「それにつきましては承っておりません」
「そんなー!!俺の一世一代のプロポーズが!!!」
「……お前それ5度目だろ…」
はあ、本当に疲れる。肉体的に疲れるというよりも精神的なものだけど、それでもこの朝のとんでもない忙しさは、どうにかならないのだろうか。王都周辺は辺境と比べて魔物も少ないはずなのだけど、商人たちが多い分、護衛任務などの依頼が半端じゃなくたくさんあるのだ。まあでもあと少しでピークも過ぎるだろうから、もうひと頑張りしないと!
「セレーナさんこれお願いね」
「はい!」
私『セレーナ・ルーシュ』は、ルスティカーナ王国王都マリンキャッスルの冒険者ギルドの受付嬢をしている。もちろん冒険者で、F,E,D,C,B,A,Sの7つランクがある中、真ん中のCランクである。二年前この世界に帰ってきて、生活費を稼ぐために冒険者になった当初は、当然一番下のランクのFランクから始めたのだが、2年間ひたすら地道に依頼をこなした結果ここまで来たのだ。ランクは得点制で、指定された得点に届かなければ上がらないため、短期間で3ランクも上がるのは難しい。しかし私は魔法使いでありながら剣も使えるから、ひとりで高ランクの魔物を倒すことができたのが大きな要因だろう。
「セレーナ!そろそろお昼休憩いこう!」
「そうですね。何処で食べますか?」
「うーん、最近中央広場から少し路地裏に入ったところに新しいお店ができたらしいんだよ。そこにしない?」
「いいですね。面白そうです。行きましょう」
彼女はサウラ・ロッテンバフ。私がこの世界に帰ってきた後にできた一番の親友だ。受付嬢としては先輩で、半年前に彼女から引退した人の穴埋めとして手伝ってほしいと言われたのがきっかけで、ギルド長からぜひ続けてほしいと懇願されてしまい、今に至る。(最近では裏方の書類仕事まで押し付けられそうになっていて、それは丁重にお断りしている)
「あ、あった。ここよここ!」
私たちは王都の西地区にあるギルドから出てサウラが提案した店まで来ていた。全体的に赤レンガに覆われているお店で、王都にあるにしては古びた感じだが、私は案外こういう落ち着いた趣がある店の方が好きなので、少しワクワクしながら店内に入った。中は右側にカウンター席があり、左側に二人掛けから四人掛けのテーブル席が8つほどある。今はお昼時より若干早い時間だからか、人はあまりいなかった。
私はサウラが座った二人掛けのテーブルの向かい側に腰を下ろす。すると、奥の厨房らしき部屋から赤いエプロンを着けた女の子が出てきた。
「いらっしゃいませ。お客さん見ない顔だね。もしかして初来店の人?」
「そう。知り合いからここを紹介されたの」
「へえ。それは光栄だな。わたしはミナ。ここの店長の娘なの。よろしくね。それで、ご注文は何にしますか?」
「ああ、料理のことはあまり聞いてなかったの。どんなものがあるの?」
私たちはミナが挙げた中からいくつか選び、また飲み物として果実ジュースを頼んで料理が出てくるまでの間仕事の愚痴や世間話をして過ごした。
「そういえばさ、前々から気になってたんだけど、その腕輪って魔道具なの?セレーナってあんまり装飾品つけないのに、それだけやたらと豪華だなーって思ってたんだよね」
「さあ、私も詳しいことはわかりません。父と母が唯一残してくれたものだから」
私の素性を周りにはいろいろな国を旅して回る商人の娘だったと言っている。二年前両親が不慮の事故に遭い、それがきっかけでこのマリンキャッスルにきて冒険者を始めたという設定だ。…しかしやはりこの腕輪は目立っているのだろうか。小さいころからしているためあまり違和感が無かったのだが、首飾りと違ってどうやら一度身に着けると外れないようになっているのだ。大きさは自動で変化してくれるため、今のところ不便は無いのだが。