神界との別れ 2
読みづらい場所を加筆修正しております。
それから私は他のお世話係の人たちとも会話した。小さい頃はそうでもなかったが、今では全員と親しくなっていた。特に料理を作ってくれていた人たちとは、レシピを習ったり一緒に作ったりしていたので仲が良い。スイーツづくりの時は神殿中のみんなをびっくりさせるようなものを作ろうということで3日間寝ずに作業し続け、縦横高さそれぞれ10メートル越えのお菓子の家を作ったりしたこともあり、今では良い思い出だ。
そして最後にもう一度シエータと向き合う。
「セレーナ、そういえばまた聞くんだけどさ……まだ決心つかない?」
「……はい。…申し訳ありません…」
神界では多くを学んだ私だが、それでもわからないことが一つある。それは私の力のことだ。お父様はシエータたちから直接力を与えられたからこそ、魔王と呼ばれた魂を倒しうる力を持っていたのだ。しかし私はなぜか最初から、しかもお父様の力を凌駕するだけの力を持っていた。その理由はこの世界を作ったシエータでさえもはっきりとはわからないらしい。…そしてそのことに私は大きな不安を抱えている。
この力はもしかしたら何かとても恐ろしいことを代償にしているのではないかとか、誰かを傷つけるために生まれてきたのではないかとか、そういうことを考えてしまうのだ。シエータたちは稀にそんな奇跡みたいな魂が生まれることがあるのだと言っていたけれど。だからこそ私の大切な人たち、本当の家族に危険が及ばないように、ルスティカーナ王国の王女としてではなく、ただのセレーナという女性として生きるべきなのではないかと、今は考えている。つまり、シエータが言う決心とは、家族に息女として会うことだ。
「いや、セレーナの気持ちはちゃんとわかってるから、謝る必要はないよ。まだ若いんだし、向こうに行って考えてみるのもありなんじゃないかな?…ただ、君のお父さんはこの世界で唯一君の記憶を持って待っていてくれている人だから、いずれ必ず会ってほしい。セレーナ以外の人間が君の本名を口にしたとき魔法が解けるようにしてあるから、王女としての立場で生きることにしたなら、誰かにやってもらうといいよ。とは言っても、君が人間世界に帰った時点で『この世界には存在しない』という魔法に多少綻びができてしまうのだけどね」
「はい。わかっています。しかしお父様には記憶があるのですか」
「うん。彼は僕の加護が強かったから残すことができたんだ」
だとすればやはり会うべきなのだろうか。無論私の中にも強く”直接会いたい”という気持ちがあるのだけれど。
―――――――それでも今は、自分の運命にただ恐怖して、決断を下すことが、出来なかった。
「それじゃあ最後に。僕から餞別として」
シエータは私に左腕を出してと言ってその通りにすると身につけていた腕輪に何か呟いた。すると一瞬大粒のダイヤが輝き、すぐにもとに戻った。
「これは?」
「ちょっとした転移の魔法。これでセレーナがいつ、どこにいても心から願えばここにまた来ることができるよ」
「!!……ありがとうございます、シエータ」
「うん。さあもう行っておいで。今生の別れというわけではないんだから、さよならは言わないし僕たちはここで見ているから」
「はい」
私は最後に皆に向かって深くお辞儀をする。1歳の誕生日から、ここまで私を愛情込めて育ててくれたみんなとの思い出を、頭に思い浮かべながら。…ああ、私って本当に幸せだな。これだけ多くの人たちに今までも、そしてこれからもずっと見守って貰えているのだもの。なんだかすごく分かれ難くなってきたけれど、この恩を皆の期待に応えることで返せるのならば、私は新たな一歩を踏み出さなくては。
そして私は神界の皆への思いをギュッと心に押し込めながら、人間世界へと繋がる輝く煌びやかな門に向かって、しっかりと歩みだした。