神界との別れ 1
相変わらずちょっとずつ更新です。すみません。主人公最強なのに活躍シーンはだいぶ後にならないと出てきません。
「はあ~。この日が来ちゃったねえ~。あれからもう17年経つのか~。前はこーんなに小さかったのに、今じゃ僕の耳の高さにまで背が伸びちゃって、ほんと人間って不思議だなあ~」
「そうですね。私もここでの生活は長かったような、あっという間だったような変な感じです。でもシエータ、背についてはゾウとかキリンだって大きくなるんですからね?」
「それもそうだね~」
そう。ついにこの日が来たのだ。神界にきて今日でちょうど17年。私がここから人間世界に帰る時がとうとうやって来たのだ。正直に言うと、まだ実感が湧かない。そして、この神界の外で生きていくなんて、予想はしていたけれど、期待やら不安やらでいっぱいだ。
この17年、ユナからは世界の事、ティカからは魔法の事、グルフィスからは様々な戦闘術をみっちり教わった。魔法はそれぞれの属性の上級魔法すべてと、その応用系や合成系などを使えるようになったし、戦闘術は剣でならグルフィスと何とか互角に戦えるかなというところまできた。さすがに天使様には敵わないのだけれどね。
それでもみんなからは自分たちが教えるべきことは何も無いと言われたため、こうして出ていくことになったのである。
ここはあの巨大な神殿の前にある小さな広場。ここから延びるまっすぐな道を少し行ったところに、天まで伸びるような大きすぎる豪奢な扉があって、そこを潜ると人間世界へ行けるらしい。私のお世話係の人は皆ここに集まってお見送りをしてくれている。
「セレーナ、本当に大丈夫?人間世界の服と簡単な生活用品と一か月分の生活費しか渡してないけど、なんだったら竜を殺せる宝剣とか、どんな病気でも治せる秘薬とか、誰であろうとも魅了させられる耳飾りだとか、他にもいろいろ持って行ってもかまわないのよ?」
「ちょっとユナ!それって全部僕秘蔵の『人間のお宝コレクション』じゃないか!」
「ふふっ。ありがとうございます、ユナ。でも私はすでにみんなからシエータ秘蔵のお宝ごときでは到底及ばない、素晴らしいものをもらいましたから、それを生かして生きていきます。だから大丈夫です」
「っちょ、それもひどくない?!これ向こうじゃすごく価値のあるものなんだよ!」
シエータは納得いかないという様子でわーわー騒いでいる。私とユナは顔を見合わせてクスクス笑いあった。
「ヒッグスッ。遠くに行っちゃってもっ。私はセレーナのこと大好きだしっ!絶対ずうーっと見守ってるから、セレーナも私のこと忘れないでねっ」
「当然でしょうティカ。あなたは私の友達であり、家族みたいなものですもの。絶対忘れるなんてことはありません」
「うえーん、セレーナあ!!」
ティカはそう言って私をギュッと抱きしめてからさらに大声で泣き出してしまった。その姿を見て私も思わず目が潤んでしまったが、まだ話したい人たちがたくさんいるので泣くのを必死に我慢した。
ティカがある程度落ち着いたその後、私はグルフィスと向かい合った。彼はなぜか眉間にしわを寄せて、目を細めながらこちらを凝視している。
「セレーナ、お前にはもう教えるべきことは無いと言ったが、戦闘術とは日々の鍛錬が大事なのだ。これからも精進すれば、それだけさらに強くなるだろうしな。頑張れよ」
「はい、もちろんですグルフィス。あなたから教わったことは決して忘れず、これからも自分を磨いていきます。……ただあの…どうかされたのですか?いつもより顔つきが固いですよ。何か気に障ることでもあったでしょうか?」
「……いや…特には無いのだが……」
「心配いらないよ、セレーナ。たぶんグルフィスは泣きそうなのを堪えているだけだから」
「ちっ違いますよシエータ様!」
グルフィスはシエータの予想を顔を真っ赤にして否定した。けれど周りからは生暖かい視線を向けられている。
グルフィスはあんまり笑ったり泣いたりしない人だけど結構可愛いです。